学長達の苦労
自分に二日に一本とかの投稿は無理という事が分かったいい一週間だった。
実力が拮抗し、大いに盛り上がった神園対氷皇の試合。
大将戦が場外に終わったのもあり、未だ観客席は冷めやらぬ熱に支配されていた。
「…すごかったな…途中何とも言えない試合あったけど…」
試合中の本人達がどうとはいえ、側から見れば茶番だと罵声が飛ぶ試合だった。
待たせた挙句、碌な試合が見れなかったときたらそりゃ確かに文句も言いたくなるわ。
「…凛も、強かったな」
星の力。
その末端とは言え、凛は使える。
火に、式術、それを用いた星の術。
「…」
それに比べて…
手を握り、目を伏せる。
自分に、そんな霊力は無い。術力も、保有力だって弱い。
思わず、涙が出る。
未だ試合の興奮冷めやらぬ観客の中、一人泣く。
「…」
…思えば、凛は相当な努力を積んだんだろう。
凛の祖父にあった事があるが、大分厳格な人だった。
あの人の元、俺が腐ってる間もちゃんと訓練してたんだろう。
一つ、案が浮かぶ。
凛が使ったあの術は、幾つもの陣の様なものが重なっていた。
それに、星。
「…今なら、型にできる気がする」
突拍子も無い、創作性の塊の様な、荒く浅い思考。
頭の中に降って湧いた、新しい技。
“これをこうしたら良くね!?”なんて、子供の様な思考。
ま、荒唐無稽な術だし、そもそも使い物になるかも分からない。
でも、そんな物でもいつか役に立つかもしれない。
「…抜け出すか」
未だ騒ぐ観客の間を、スルスルと通り抜ける。
ここにいる人たちは多くが一般人だ。
術は使えても、妖とは対峙できないくらいの人達。
「あの山に行こう」
一人、何とも晴れやかな気持ちで、会場を抜け出す響。
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「ん」
「…何かあったのか?多々良」
神園の控え室、方向の違う重さがのしかかるここで、神無月が多々良に質問していた。
腕を組み、背に身の丈ほどの大太刀を背負うその姿は、『獄卒』と喩えられている。
「…いえ、何でもありません」
「正直に言え、その心残りがあって勝てるほど、蓮華は甘い相手じゃ無い」
低く、脅す様な口調で神無月が言葉を続ける。
「大方、さっきの術の事だろう?」
「違います」
「…きっぱり言うのう」
この中で唯一と言っていいほど、神無月と関わりのある二位がそう溢す。
「…二位、さっきの試合は何だ。いつものお前なら問題なく勝てただろう?」
「…だ〜って飽きたんじゃも〜ん」
ヘラヘラとした態度を崩さない二位に、神無月の怒りがたまっていく。
「……お前な、もし私が勝てなかったらどうなっていたか分かっているのか?」
「そんときはそんときじゃろ?」
「………」
「大体、勝てば本を買って貰えるから来たのに、まんまと騙されたのじゃ…」
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「ん?地震か?」
地面が揺れている。
それも、震度は2位だろうか?
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「…」
「わ、分かった!悪かった!次からはまじめにやるから!」
神無月が拳に力を入れ、まるで般若の様に二位を睨みつける。
その様に、二位はおろか、風間や火病も驚いている。
「…“樹”を使え」
「良いのじゃな!?どうなっても知らんぞ?」
…
「何とか言うのじゃ〜!」
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学祭開催地郊外。
そこでは、各校の学長、校長達が妖を蹂躙していた。
「っ、報告には、危妖が十体って聞いたんだけど?」
「増えたんじゃねぇの?霊力が濃いんだろ、あと死体とかあったんじゃね?」
「ふん、猪口才なこの様な木端共、わしだけで十分じゃ」
蓮華高等学園学長、楠溟楽がそう放つ。
彼女の足元には、多々良が作ったあの陣と似た様なものが十と出来ていた。
「木に喰われるとよい」
そう放つと、龍の形をした木が全てを飲み込まんと脈動を始める。
パキパキ、ベキベキと、木を折り、地を割き、それは進む。
幾つもの妖を呑み込み、腹を鱈腹に膨らませながら。
「ひゅ〜、おっかないねぇ」
一方、秋元、美戸、渦巳の三人は、それぞれ一体の妖を相手にしていた。
「幾ら千年の差があるとはいえあれには勝てないねぇ」
「ボサッとしてんな!」
「…そうだぞ、む、網を抜けるぞ!」
渦巳が投げた、水の網を、何とか抜ける大妖。
が、その先には美戸の術が置かれている。
「死ね、『獄雷』!」
黒い稲妻が、真黒き雷が。
眼前の敵を滅ぼさんばかりに降り注ぐ。
それは、地獄の雷である。
「オッケー美戸ちゃん、準備出来たよ〜!」
「じゃあ早くやれ!持たねえぞ!」
「じゃ、還ろっか、妖くん」
妖が最後に見た景色は、極大の光の奔流だったことだろう。