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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦編
92/210

先鋒戦 火病烈空対黒崎満凍

何だ、何が起きた?

火のような“ナニカ”が辺りに散らばり、爆ぜた後、氷が一瞬にして跡形も無くなった。

ならばと黒炎を立ち上げるが、光線が薙ぎ払われ、黒炎をかき消す。


「ちぃ!」

「ヒャハハ!最も惨めに逃げ回れェ!ヒャハハハ!」


“あの男は狂っている“。

控え室で因幡さんがそう言っていた。

その狂っているというのが、強さの話だと思っていた。


「“薙ぎ払え”!」


俺の発した言葉、意思に追従し、黒炎が辺りを矢鱈に薙いでいく。

俺の扱う黒炎は、唯の火には負けない筈、何か仕掛けがあるのか?


「ア〜、ハハ!ぬるっちいなぁ!」

「!なに!?」


炎の中に佇み、なお温いと口にする火病。

因幡さんや卯崎さんだってこの黒炎を警戒するのに、この男はまるで意に介さない。


「黒炎が聞いて呆れるなァ!まだ水の方が熱いぜェ?」

「…!」


刹那、右頬を擦める光線。

その擦りすらも、堪えきれぬほどの熱を帯びる。

火傷とも違う、何かに火が灯る感覚。


「ほらほらァ!どうしたどうしたァ!降参かぁ?」


此方を煽る、いや、向こうからすれば煽りですら無いんだろう。

事実、あいつが述べているのは事実、黒炎は効かず、氷は溶かされる。


それでも、何か策はないかと思考の中を探す。


虚勢すら張れぬ骸に成り果てる気はない!


「…すぅ────」


息を吸い、十分な霊力を貯め、“それ”を解放する。


「俺を舐めるなぁ!」


「“氷気”解放っ!」


──────────────────────────


つまらねぇ。

どいつも俺を避けやがる。

…あの二位とか言うやつを除いて。


まぁ出生を考えれば避けない筈は無え。

それも、“あの事件”を知っていれば尚更だ。


今回、勝てば俺を解放すると宣ったあの校長も何もかもが気にいらねぇ。


「クク、ヒャハハハハハハハハハハハハハハ!」


良いだろう、“総て”をやきつくしてやるよ。


──────────────────────────


「はぁっ!」

「あたらねぇ、っよ!」


あいつが氷で出来た武器を振りながら迫る。

それを躱し、一発鳩尾に入れ、顔を蹴飛ばし吹き飛ばす。

大袈裟な口火を切った癖に、攻め方は一つも変わらねえ。


所詮、人間はこんなもんか。


「…はぁっ!」


懲りずに突撃してくるコイツを、屈み、掬い上げる様に転ばせ、足を一本折ってやる。

脆いもんだな。


「なぁ、お前、つまんねぇぞ」


背中を踏み付け、肩で息をするコイツに話しかける。

変わらねえ攻め手、変わらねえ術…


「そんなモンかよ…っなぁオイ!」


もう一方の足の骨を踏み砕き、笑ってみせる。

観客共からブーイングが飛ぶが、知った事じゃない。

なら手前らなら俺を満足させられんのかよ?


「ちっ…」


観客に火を飛ばす。

キャーキャー言いながら逃げる様は随分と滑稽だ。

下の奴も起きる気配が無いし、このまま観客共と遊んでるか。


「ほらホラァ!逃げろ逃げろォ!」


人が逃げる様ってのはこうも滑稽だったか!


「…随分、余裕だな」


あいつが起き、俺を睨む。

憎悪とも取れるような、俺を貫く視線をむける。


「…ククッ、テメェ程じゃねぇよ」


そう言った瞬間、視界が反転し、俺の首が地に落ちる。


「あ?」


──────────────────────────


「はぁ、はぁ」


勝った、首を、落としてやった。

幾ら火の効かない化け物とはいえ、首さえ落ちれば…


「…次は、なんだぁ?」

「……はぁ?」


それは、落胆だろうか?驚嘆だろうか。

口から出たため息に似た疑問符は、あいつにも届いて居たらしい。


「まだ、まだ何かあるだろう!」


あいつは早口で捲し立てる。


「氷で出来た武器、黒炎。それだけじゃ無えだろ!?」


俺の手札全てを、“それだけ”と、コイツは言う。


「もっと、オレをもっと楽しませろよ!」

「…あぁ、“心ゆくまで”楽しんでけよ」


「…行くぞ」

「あぁ!こいよ!」


左手に氷の、右手に黒炎の鎌を作り、敵へと駆ける。

確かに、因幡さんたちの言うように、俺には攻撃力が無い。

それも、火厄の様な、火が集まった様な妖にはてんで無力だ。


「またそれかぁ!見飽きたぞ!」


火病の指から火の光線が飛ぶ。

顔を逸らして躱し、肉薄する。


まて、そういえば、俺は先ほど首を落とした筈だ。

冷静になって考えろ。どうすれば奴に致命傷が入る?


「…はぁっ!」


左の鎌を払い、火病の右手を飛ばす。

次いで右の鎌で左足を飛ばし、両方の鎌で胴体を真二つにする。


おかしい。血が、飛び散らない…?


それに、コイツの体、筋肉が見当たらない。

切った感触も、紙を切るみたいで、少なくとも、肉を切る感触じゃ無い。


そして、血管みたいに、火みたいな何かが流れて──


「おいおい、テメェそっちの趣味があんのか?」


背後から聞こえる声に振り向くも、そこには何も居な──


「がぁあっ!?」


突然、目の前に、“火”が現れる。

その火は、今まで見たどんな火よりも熱く、頭の中を侵食していく。


「がおっ!?ごおおぁあっ!」


あたまのなかが、ひにみたされていく。


「…っ!」


どうにか振るえた右の鎌で、一先ずの窮地を脱する。

眼前には、不敵に笑う火病が佇む。


「…思い出したぞ、お前は……」


あの日、“赤い月”に次いで起きた、一村放火事件。

通称『禄垂山中一村放火事件』。

その、死亡者リストの中に、確か火病に似たものがあった。

だが、『死亡者』だぞ?


「多分、テメェが考えてるのであってるぜ?」

「!やはり、禄垂の…?」


「あぁ、そうだ」

「ならば、何故火なんて「“放火側”だがな」…なに?」


「あぁ、放火犯、火病烈空だ」


放火犯?コイツが?俺と歳の変わらないコイツが?


「…」

「あぁ、その顔!村の奴らにそっくりダァ!泣き叫ぶ声が甦ってくるみてぇだ!」


「黙れ」


「…あ?」


「お前は、罪のない人を手に掛けた。罪なき人の命を徒らに奪った」


冷気が漏れる。

眼前の火病を改めて敵と認識する。


「お前は、…人を殺した」


折れた足に、再び氷を纏わせる。

これなら、火の中でも一時間は待つ。


「…だったらなんだ?正義の味方気取りか?」

「無論、俺が百善ってわけじゃない」


火病を一撃で持っていけるほどの霊力を練る。

精神を落ち着かせ、淡々と言葉を紡ぐ。


「…何処までも相容れねぇな、俺らは」

「そうだな」


居合の構えをとり、やつを切り裂いてやる。


「こいよ!“正義の味方”!“あの日宿した”この力をみせてやるよ!」


火病が両手を広げ、何かの準備をする。


「…行くぞ!」


「氷点太刀“黒”!」

「狂い焔“空烈”!」


恐らくは、互いの最高火力なのだろう。

互いの術がぶつかり、轟音と共に辺りに響く。

炎を凍らせながら、奴に一閃を入れる。


途轍もない量の蒸気が晴れた後、火病は笑っていた。


「…人間も、悪く、ねぇ…かも、な」

「はぁ、はぁ…」


傷口が凍らない、矢張りコイツは…既に…。


「そこまで!」


「勝者!氷皇一年!黒崎!」


勝った、のか…。

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