雀士
今回は二回更新です。
「いや〜若いって良いねぇ!」
複数のモニターには、それぞれ学園の様子が映し出されている。
出店が多く立ち並ぶグラウンド、学生諸君が日々鍛錬に励む道場。
侵入者を逃さぬ様、何も起きぬ様。見張りは徹底的に行う。
一応あいつからもお金は貰ってるし、それに見合う働きはしないとね。
「…にしても、彼も災難だね〜」
初の『音術士』としての仕事でまさか蛇に当たるとはね。
いや〜運がないって苦労するだろうね〜。
しかも目の前で金切が殺される…と。
役満だねぇ!純正九蓮宝燈よりも確率低いんじゃない!?
天和よりは低いかもだけど!
「さて、そんじゃ行ってくるよ、私」
「あぁ、いってらっしゃい」
私に挨拶をして、誇り高き侵入者をお出迎えしよう。
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「やぁやぁ!侵入者諸君!御機嫌いかが?」
「ふ、ふざけんな!この拘束を解きやがれ!」
うーん?少ーし機嫌が悪いかな?
ま、無理もないね!校門から正々堂々入ってくれば良い物を、何を思ったか侵入者達は裏から入り込む。
それが彼等の弱点だよ。
正門なら、私は力を振るえない。
私の術は“特異”な物で、一対一でしか使えない。もしくはこちらが一で向こうさんが多とか出ないと使えない。
後ろめたい事を考える奴等の思考は読み易い。
イカサマだって容易に仕掛けられる。
“和了る”事も容易い。
「まぁまぁ!ここは一つ、楽しもうよ!折角の学祭だからさ!」
「…」
向こうさんも困惑してる事だろう。
何せ自分達を捕縛した奴が『楽しもうよ!』とか言ってるんだ。
あぁ、こいつらはカモだ。
緊張が顔に現れている。脂汗をかいている。笑みが引き攣っている。
こんなんじゃ此方の考えなんてどうやっても読めないだろう。
駄目だよ。そんなんじゃ。
こわ〜い借命取りに殺されちゃいますよ。
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「ルールは簡単!今から君たちに点を配るよ!その点が無くなったり、負の数になったら負け!」
「…麻雀か」
「うん!卓はあるから、早速やろう!」
『卓』を用意し、牌を出す。
一から九の萬子、筒子、索子、風牌、三元牌。
それと、いくつかの点棒。
「さ!おいで!一緒に楽しもうよ!」
「…使えるか」
…へぇ、存外に賢い子がいるね?
「?どうして?何の変哲も「手前が“出した”卓だろう!どんなイカサマがされるか分かったもんじゃねぇ!」…」
あ〜…こいつは頭が良い。と言うより、切羽詰まって居ながら、理不尽を押し付けられたことに気付けている。
でも、それは説明の時点で気づくべきだったよ。
「…確かに、この卓、牌は私が出したよ」
「だろう!だったら「でも、君達は既に点を貰ってるでしょ?」…あ?」
「頭の上、見てご覧よ」
彼等の頭上に浮かぶ『25000』の数字。
所謂、25000の30000返し。至極真っ当なルールだ。
最もメジャーな、私が思う中で、最もやり易い点だ。
「あ?んだこれ」
「言ったでしょ?それは点だよ」
そう。点数。
麻雀をやる上で欠かせないものでしょ?
「それが無くなるか、50000を超えた時点で君らの勝ち!逆に、君ら全員のが無くなれば私の勝ち!どう?簡単でしょ?」
「…成程?」
お、だいぶ警戒心が薄れてきたね?
駄目だよ、忘れてるかもだけど君たちの敵だよ?
は〜、ほんっと引っかけやすくて良いね。
「…やれば良いのか?」
「初めっから言ってるでしょ〜?」
既に何度目かも分からない『安心』の説明をする。
疑り深過ぎるのも考えものだね。やりずらいよ。
「さ、親は誰にする?手っ取り早くランダム?」
「…そうしてくれ」
「りょーかい!」
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「はぁっ、はぁっ…」
心臓の音がやけに鮮明に聴こえる。
既に仲間は“乾涸びて”いる。
持ち点は残り2800、五千を切った辺りから、体の節々が猛烈な痛みに襲われ始めた。
二人の仲間の持ち点は負の数に入っている。
「ほら、君の番だよ?」
「…!」
手牌は最悪。これじゃ断么だって和了れない。
あいつの持ち点は既に自分足す俺らので十万を超えている。
国士無双でも和了れれば安泰だが、生憎手牌は最悪だ。
「…投了は?」
「いいよ、別に」
…そうは言うが、恐らく俺もああなる。
ここから和了る事は恐らく不可能。点差も絶望的。
山には後牌がいくつあるか分からない。
あいつの術は奇っ怪な物だった。
持ち点がゼロに近づくにつれ、確かにあいつらは不調を訴えていた。
そして、持ち点がゼロになった瞬間。
あいつは卓に倒れた。
まるで爺婆みたいになって、卓に倒れていた。
そこからは、麻雀なのに、詰め将棋でもやっている気分だった。
俺らの持ち点が無くなるにつれ、あいつは──
若返っているようだった。
…ああ、クソ。こうなるって分かってたらこんなとこには来なかった。
…来世は善人に産まれよう。
パチン…
「ロン」
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あ〜っ!楽しかったぁ!
たまにやる麻雀はやっぱり楽しいね!
「ん、くぁ…」
いけないいけない、まだ業務時間中だったね。
さ、お部屋に帰ろうね〜。