多々良凛〜漆〜
「ただいま」
響の声が聞こえる。
…他の女に汚された声が。
「…おかえり」
嫉妬からか邪険に扱ってしまう。
…こういう事するから距離が開くのに。
「おおぅ…何かあったの?…あっ、分かったわ。」
何だろうか?…絶対違うが一応聞いてみよう。
「…何だと思う?」
「『彼氏』に振られたんだろ?」
「…は?」
「分かるわー、俺もドッキリとかくらった時キツかったもんな」
「…何で…?」
声が震え、小さくなる。
私は泣いているのだろうか?
肩が震え、響が困惑している。
いい気味だ、もっと困ってしまえ。
「…!?…!」
「(何を言ってるんだ?)」
「…!…!」
響は何かを、操作?している。
「(なんも、わかんないわ…)」
遠くに鳴るサイレンの音。
此方を見て慌てる響。
私の意識はそこで途切れた。
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「ん?…ここは?」
目が覚めると知らない天井、病院だろうか?
「お、起きたか?」
「響…?」
「おう、にしても驚いたわ、いきなり倒れんだもん」
そうか…私は…
「今は何日?」
「日は変わってねぇよ」
「どれくらい寝てた?」
「本当45分位」
「そう…」
そんなに…
「…だから、暫く安静にってよ」
「そ、それじゃ訓練とかは!?」
「いや、紫煙先生に聞いたら『暫く座学だけだ』ってよ」
「そ…そう…」
まただ…『また』響に置いていかれる。
これじゃ、またあの時と同じだ…
「まぁ、あれだ、あんまり気負い過ぎんなよ?」
「えぇ。大丈夫。こういうのには『慣れてる』わ」
「?まぁお前が良いなら良いんじゃないか?」
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そんなこんなで響が病室を出た後ふと考えに耽る。
「(また、あいつに救われた)」
あの時、あいつを守ると啖呵を切ったのに、
蓋を開けてみればこのザマ。
「(虚しい…)」
自身の弱さに反吐が出る。
『天才』だ、『神童』だ、と持て囃され、天狗になっていたのだ。
いい気味だ、響が居なけりゃこんなに弱いのか…
「(あぁ、嫌だ)」
そんな事を思いながら目を瞑る。
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『おらー!どっかいけー!』
『やべぇ!ゴリラおんなだ!にげろー!』
『ちっ!にどとくるんじゃねー!』
『ありがと…○○ちゃん』
『いいぜ!またなんかあったらたよってな!』
『うん…ありがと』
『へへっ』
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「んぅ…?」
随分と懐かしい夢を見た気がする。
「グスッ…」
あの時とは立場が180度変わった。
昔は私が守って居た。
今は逆に守られている。
「…クソッ」
悪態をつく事しか出来ないんだ。
「強くならないと…」
響を守れる様に。
響に着いて行けるように。
響に…選ばれる為に。