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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界の日常
86/208

警備

「それでは──」


学長が音頭を取り、学祭がついに始まる。

四校が一つとなって行われる学祭。故に侵入者が後を絶たない。

四隅に音使いが散らばり、学門、裏手…等から不法に入ってくる奴を捕捉し、可能なら…殺す。


弁財先生が音使いは──とか言ってたのはこういう汚れ仕事ばかり請け負うからだろう。…多分。

現に、俺以外の音使いさん達は皆んな目が死んでた。


「くぁ…」


欠伸と一つ、侵入者の足音。

明らかに、足音に殺意が聞いて取れる。


「三番、侵入者。二名です」

『…了解。殺せるか?』


「行けます」

『任せた。“一番”』


──────────────────────────


ゆるさねぇ。

俺らから仕事を奪いやがって。

学園ごと爆破してぶち壊してやる。


「なぁ!弟よ!」

「うるさいよ。兄さん」


今回は珍しく四校同時に行われる学祭。

その中心の神園で爆破が起きれば一気に神園の評判も地に落ちる!


「我ながら天才だとは思わんか!弟よ!」

「分かったよ、分かったから静かにしてよ兄さん」


いやぁ、ついに報復出来ると思うと気分が上がるなぁ!

昨日までの積み重ねがまるで一瞬の様に感じるぜ!


ぱん。


──────────────────────────


「はぁっ、はぁっ!」


縦横無尽にとも取れるほど、走る。走る。はしる。


目の前で、兄貴の脳天に穴が開いた。

ぱん、という無機質な音の数瞬後、兄貴の首が百八十度後ろに曲がった。


「クソっ!計画は完璧だった筈だ!どうして──」


すぱり。


──────────────────────────


「…終わりました」

『ん、少し休憩しろ。特にお前みたいな奴はな』


「…はい」


人を殺したのに、いやに冷静だ。

本来妖を討つ為に習得した術を、人に向かって打った。

一般人に。


「…!オエ゛ッ!」


真っ赤だった。妖のそれとは違った。ドクドクと流れていた。

さっきまで生きていた。仲良さそうに話していた。

おれが殺した。生きた人を。


胃から込み上げる嫌な苦味。

淡い黄色の液体が手から溢れる。その匂いで更にその液体が溢れる。

ビチャビチャと不快な音を立て、地面に落ちる。


「…はぁ、はぁ」


妖を討つ時よりも心に余裕が無い。

人殺しってこんなにも嫌な感覚なんだ。

…止めよう。こんな事考えるべきじゃない。


「…ふぅーっ」


深呼吸だ。まずは心を落ち着かせろ。

あれは死んでも仕方なかった奴等なんだ。寧ろ俺に殺されて幸運だったかもしれない。

俺以外に捕捉されてたらもっと惨たらしく殺されてたかも知れない。

そうだ、あの人達は幸運だったんだ。俺に見つかって、俺に殺されて。


ピピピ…

「…はい」

『おう、平気か?』


この人は優しい。

俺に気遣う余裕等無かろうに、俺の事を気にかけてくれている。


「はい、大分、慣れました」

『…そうか。…一応、聞いておこうか?どうだった?“初の人殺し”は?』


「…心地よかったです」

『…!そうか。それは何よりだ』


“自分はこちらの方が合っている。所詮音使いなんだ“。

凛の様に式が使えたり、釘刺の様に器用じゃない。

所詮裏道しか歩けないんだ。


『…言い方が悪くなるが、俺らは音使いだ。決してお天道様の下を大見え張って歩けはしねぇ』


『だが、お前は違う。まだ引き返せる。無理にこちらにくるな…』

「…ほんと、優しいですね」


もし違う人だったら『おう、こっちに来い』とか言われたんだろうか。


「まぁ、いつかはそっちに行ったりするんですかね」

『…音使いは碌な人生歩めないが、それは大方が殺人の方に向くからだ。お前はそのまんま、妖討ってろ』


…──!


「すんませ『分かってる、八人だな?やれるか?』…ちょっと怪しいです」

『オッケー、そっち向かわせるから足止め頼む』


「…承りました」


──────────────────────────


足音を極限まで小さくする。

気配も消し、敵に、侵入者に悟られない様に動く。


最悪、周りへの被害と俺の命さえ考えなければ八人全員を殺せる。

あまり被害を出して学祭を中止にしたくない。


跳弾を利用すれば…ギリ四人持っていける。

問題は跳ね返った瞬間に相手にも“音”が聞こえる事。


──殺せる。

音の弾を空中に五発程作る。

それを一斉に発射し、相手の頭を貫ければ良い。


「──いける」


一斉に音の弾が放たれる。

跳弾に次ぐ跳弾を繰り返し、相手の脳天を抉る。


──俺は、ここで気づくべきだった。

“足音”は八つなのに、“心音”が四つしか聞こえない事に。

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