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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界の日常
83/208

住める場所

『なぁ、響』

『なに?お父さん」


『人って、いつ死ぬと思う?』

『…?』


『ま、お前にはまだ早かったか』


──────────────────────────


『ちぃっ!』

〔あの方の為、貴様を──〕


『瑞稀!響を護ってろ!』

『はい!』

〔女の方も、抹殺──〕


──────────────────────────


〔…此奴は?〕

[放っておけ。どうせ抗う気すら起きんだろう]


──────────────────────────


幼い頃の記憶。

果たしてコレは悪夢なのか?はたまた吉夢なのか?


「…あんなに息巻いてたのによ、薪が尽きちまった」


どんなに火があろうと燃料が無きゃ燃えねえんだ。

正午、学園をサボり見る夢。

嫌なほど頭に響く囀り。車の走る音。革靴の音。話し声。


どんどん、と、家戸が叩かれる。

重い体を起こし、音のなる方へ、歩く。


「…弁財先生、何してんすか」

『ん、迎えにきてやったぞ』


“迎えにきてやった”?


『お前、変な事で落ち込んだりすると面倒臭いからな。引っ張り出してやるから制服着てろ』

「えちょっと…」


──────────────────────────


「成る程ね…」

「…」


「お前が居なかった一週間の間に盗みに入られて?金が無い…と」

「…はい」


寝室で正座させられ、落ち込んでる理由を事細かに説明して、目の前の腕組み教師の動向を伺う。


「分かった、寮長に頼んでお前の部屋を開けて貰う、それでいいか?」

「…寮に住むのにもお金がいるんじゃ?」


当然の疑問だ。

この世では何事も対価を支払わないといけない。

それに、あの寮長さんだ、何かにつけて金寄越せと言ってくるかもしれないし。


「あ?基本的には神園学園の寮は無料だぞ」

「へ?じゃ、じゃああの時言われたのは…?」


「あ?」


確かに入学した直後あたりで、入居料二万だか何だか聞いた覚えが…まぁ確かに三食付いたらそんなもんかと思った記憶があるぞ…?


「…成程、それは寮長の勝手なやつだな」


「それに、もしあの寮長が嫌ってんなら私の家にでも来るか?ちょっと煙臭えが」

「…視野に入れときます」


最悪俺この歳から半分ヒモみたいな生活すんのか。

親父すまねぇ、あんたの子供はクソになったよ…


「ま、取り敢えず学園行くぞ」

「…はい」

「…飯食ったか?」

「何もなくて…」


─────────────────────────


学園の寮といえば、初日に寮長さんっぽい人が大声で色々言い回っていた事ぐらいしか覚えが無い。

…決して住む予定とか無いし無視でいいや。となった訳では無い。


「という訳で」


「今日からここで面倒見ろ」

「…」


「はぁ〜!?」


寮長さんらしき人の絶叫があたりに木霊する。

頭を掻きむしりながら絶叫する様は中々に壮観だ。


「弁財さんむりっスよ!ただでさえうちの寮は金が無いし人手も無いってのに、いまっさら新しい奴連れてきて『面倒見ろ』って…、あんた頭おかしいんじゃないっスか?」

「なんだ、ダメか」

「ダメに決まってるっす!未だ卒業生だって出て行かないのに、部屋だって…空きはあるっすけど、兎に角駄目っす!」


ん?空きあるなら良いんじゃないの?

それともなんか変な物でも溜め込んでたりでもするのだろうか?


「あの部屋か?良いじゃねえか、鳴渡。ちょっっと色々あるが」

「まぁ住めるならこの際もうなんでも良いです」


流石に高架下とかよりはマシでしょ。

家もいつ差し押さえられるか分からないし、手っ取り早く住む場所だけでも欲しいし。


「な?鳴渡もこう言ってるし、住まわせてやれ」

「…はぁ〜もう何が起こっても知りませんっすよ!?」


…何か霊的な物でもいるのだろうか。

普段から“そういうもの”対峙しているとはいえ、目の前にそれが現れるとちょっと身構えちゃうよね。


「…じゃ、家賃からっすね、基本的にうちの寮は無料で使えるっすよ。ただ、…まコレは学生には関係無いっすけど、卒業、つまり後一年ちょっとっすね、そこまで安定して食えなかったり、職が見つからなかった場合には、月に一度、給料から一割を貰ってるっす」

「…つまり、卒業後もここで暮らせはするが、その場合給料から家賃が天引きされるって事だ」


確かに、弁財先生の言っていた事もコレなら当てはまる。

問題は住む部屋の方だけど。


ちら、と、弁財先生の方に目配せする。

それだけで、大体の事をこの人は分かってくれる。


「で、お前が住む予定の部屋はな?」

「…それも、こっちから話すっす。鳴渡くんが住む部屋…というか、今は其処しか空きがないんすよ、他の部屋は全部埋まってるっす」


空きがないって事は、卒業生達が思いの外多いって事か?

…確かに命の危険とかある割には給料が安いとは聞いた事があるけど。


…仮にも人を守ってんのにそんな安くて良いのかねぇ?


「あぁ、誤解しないで欲しいんすけど、卒業生は今この寮には二人しか居ないんすよ」

「多い時とかは大体八人くらい居たな」

「っすね、…まぁそのうちの二人なんすけど…」

「…って事は、平助と林堂か?」

「御名答っすね」


平助?林堂?学園に居ればそれなりに卒業生の名前だったり偉業だったりを聞くけど、その中でも聞いた事がない二人だった。


「あー…でもまぁ、平助はともかく林堂ならお前とは気が合うかもな」

「っすね」

「はぁ…」


──────────────────────────


「で、鳴渡くんの住む部屋の鍵がこちらになるっす」


大家さんが鍵を投げる。


ぽす、と手の内に丁度よくはいった鍵には“二○八”と部屋番らしきものがかいてあった。


「…角部屋じゃ無いんですね」

「角は卒業生が占拠してるっすから」


外に備え付けられた鉄の階段を登り、カンカンと無機質な音がなる。

流石にこの階段で三階とか合ったら異議申し立てしてたな。


『東馬』、『麻倉』、『和宮』…知らない名前ばっかりだな。

一年生が多いのかな?


「そんじゃ、後は弁財がやってくれるっす。明日のご飯くらいは作ってやるっすけど、お金が入ったら連絡くれると嬉しいっす。それまでは弁財に請求するんで」

「完全に無料って訳じゃ無いんですね」


弁財先生は一銭も掛からないって言ってなかったか?


「ああいや、コレは家賃じゃないんっすよ」


手のひらを振り、大家さんは続ける。


「要は“自分、生きてますよ”って事の証明みたいなもんなんす」


「いま、鳴渡君を側で見守れるのは弁財だけっす。その弁財から、鳴渡はまだ生きてるって事の報告料、と捉えてくれるといいっす」


確かに、知らない間に死なれたら色々困る事があるのか。


「冷蔵庫とか、そういうのもいっぺんに弁財が明日持ってくるっす」

「…了解です」


「そんじゃ、まだ昼っすけど…お疲れ様でした」


おぉ、っすが外れると結構凛々しい雰囲気があるな。


「…お疲れ様でした」

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