鬼の“郷”
ルビの振り忘れを修正(12/29)
「さ、さ!おらだぢの郷にくるべ!」
「お、おう…」
赤い角を持つ鬼の…女性?に連れられ、雑木林の中を駆けていく。
昔、本当に昔、凛と二人で行った遊園地の内容を思い出す。
提灯の中に鬼火が入り込み、妖として意思を持った奴だったり。
本当、現実味のない所だった。
脅かし役は履いてる靴が丸見えで、所々混ざる悲鳴だって効果音で。
「…泣いてる?」
「あ?」
気づけば目から大量の涙が溢れていた。
意思とは何の繋がりもなく、ただ溢れる様に泣いていた。
「よ、よぐわがらんけど、だいじょぶだが!?」
「…大丈夫、だ、こんくらい……」
ぽん、と頭に手が置かれ、撫でられる。
さすり、さすり、と、割れ物を扱うかの様に、この鬼は、俺を撫でる。
「ええか?無理しだら体いわすべ!」
「…むりじゃ、ねぇ」
「い〜や、そっだら顔ば無理しとる顔だべ!」
“全く、響は怖がりね!”
あぁ、そっかぁ、最近会えて無いもんな…
元気にしてんのかな…
「お、わだしのなでなで、よがっだべか?」
「ありがと、色々助かったわ」
ふんす!と、腰に手を当て反り返る鬼。
…何処とは言わんがアイツとは似ても似つかないな。
「…あっ!」
突然、目を見開き何かを考える仕草をする鬼。
むむむ…と唸ったり、こめかみに指を当て、何かを捻り出す様な動きだ。
「…人間さん」
「おう」
重い口を開き、申し訳なさを全面に押し出してこちらに話しかける。
ギギギ…とか、調子の悪い日の空見みたいな音まで聞こえてきそうだ。
「今日ね、私達の頭領のお客さんが来るんだけど、その中に人間が大っ嫌いな御方がいてね…」
ほうほう。
「多分、郷に入っただけで…その…」
赤い色をした顔が真っ青に見えるほど、鬼の言う『御方』ってのは恐ろしいらしい。
で、俺にどうしろと?
「…そ、その…」
…これ、マズくない!?
過去、何度か人嫌いにあったことはある。が、それは『人』の人嫌いだから会えたし交渉とかも出来た。
今回の相手は度が違う。
ここで今隣に立って慌てている鬼でさえ、ここから出て神ノ國に現れれば『大妖』かそれ以上に振り分けられるだろう。
そんな、“俺の知っている鬼とは違う”、端的に言えばとんでもなく強い鬼でさえ、畏怖する『御方』。
問題はその『御方』が、極度の人間嫌いって事。
この鬼をして恐るんだ、人間なぞ指先一つで殺せるに違いない。
「…確認していいか?」
「な、何でも聞いてくれ!」
重い腕を何とか振り上げる。
「その『御方』ってのは人間じゃないよな」
「…」
沈黙は肯定…だっけか。
「…」
ばつが悪そうにこちらから目を離す鬼。
…当たってほしくない推察が当たってそうだ。
ところで。
この国…國か。には、『神』と呼ばれる存在が多数偏在する。
龍の神であったり、それこそ牛に鳥、馬にだって神が居る。
だが…『神としてそこに“在る”だけの存在』というのがいる…らしい。
「…厄介だな、ホント」
“在る”だけの存在は、基本的に静観を決め込むらしい。
それこそ、国が傾くとかそういう『未曾有の災害』が起きた時に初めて民の前に姿を現す…とか。
「で、俺は何で郷に行かなきゃ行けないんだ?」
「あっ、それはな!元の世界…つまり、人間の国に帰るためには、そこの長の持つ扉をくぐる必要があるんだ!」
扉をくぐる…ね。
腹もかかるかもしれないってのに…
「…了解。じゃ、鬼にでもなるか?」
「…へ?」
郷に入っては郷に従え…とはまた違うのだろうが、木を隠すなら森…も違うか?
…相変わらず稚拙な語彙だなホント。
「無いの?変装術的なやつ」
「あ、あるにはあるけど…」
「じゃそれ、俺に行使てよ」
「…へ?」