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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界の日常
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学長の苦労

「はぁ〜…」


僕以外誰も居ない学長室で、一人頭を掻きむしる。

何故に僕の同期は癖の強い奴が多いのか。

弁財は言わずもがな、龍笠、函仲…そして北雷…。


「まっったく、碌な奴が居ない…」


煙草を吸い、荒んだ心を落ち着かせる。

ちなみに、学長室だけは喫煙可能だ。

学園の外れに喫煙室はあるが…唯一私以外の喫煙者である弁財以外利用している奴は居ない。


「まさか、立て込んでるとは…」


本人曰く『無理矢理こじ開けた』と聞いてたけど、あれ本当だったんだ…

日頃から嘘ばっかり言うから今回も嘘かと思ってたよ…


「となると、響君は無理っぽいね…」


あとの候補は、三年生から、『神無月』、『二位』、『室呂』。

二年生から、『白園』、『多々良』、『空見』。

一年生から、『風間』、『北条』、『火病』、『水村』…辺りか。


「五人選ぶなら…」


先鋒、『風間』。

次鋒、『火病』。

中堅、『多々良』。

副将、『二位』。

大将、『神無月』って所か。


「白園ちゃんはまだ不安定らしいし、今回は見送りかな」


音の適性がある彼が居たら大分楽だったんだけどね…

蓮学は兎も角、他の二校には切り札となる子がいるだろうし、その対策も考えなけりゃな。


「ま、絶対的な決定でも無いし、のんびり決めるか」


手元に残る資料の内、あと五枚は報告書だ。

一つは『神無月の起こした飲食店潰し』。

も一つが『翠泉の起こした謎植物の廃棄方法』。

さらにもう一枚が『翠泉の起こした“対妖薬物”の処理方法』。

そして、『風間の壊した畳の修繕』、こっちはまだマシだね。

最後が、『白園の起こした“殺傷事件”』…


「ど〜して僕が学長になってからと言うもの、こんな事件が立て続けに起きるんだろうね…」


先代の学長の頃は平和だったって聞いてるけど、問題児が多すぎるんだよね…

あぁ…呉学長…学生の頃は大変迷惑かけました…謝りますから戻って来てくれませんか…


先代が優秀だと肩身が狭くなるとはよく言うものだね。


物思いに耽っていると、学長室の扉が叩かれる。


「はい、どうぞ〜」

「…失礼する」


扉を開けて入ってくる、大柄な男。

白で統一された服を着込み、一見すると、まるで“その道”の偉い人かの様な格好。


「お久、龍ちゃん」

「お久しぶりです、秋元さん」


龍笠弘、学生時代、この学園で共に切磋琢磨し合った仲間だ。

ちなみに、同期の中だと一番早く結婚に漕ぎ着けてる。

確か息子さんが二年生に居たはず。


「で、どしたの?」

「いえ、仕事の都合で近くに寄ったので顔を出そうかと」


この男、かなり律儀なんだよね。

約束の三十分前には場所に着いてるし、遅刻、欠席は学生時代には一回も無かったって言う完璧超人だよ。


「…ほんとにそれだけかい?」

「……敵いませんね、秋元さんには」


「最近、事務仕事が多くてですね、体が鈍って無いかの確認に来たのもありますよ」

「ふ〜ん、じゃ、“やってく”かい?」

「…お手柔らかにお願いしますよ」


手元にある書類を放り、龍笠を引き連れ、室外運動場…確か、蓮学の子達は『ぐらうんど』って呼んでたね。

向かう最中、何人もの生徒に目で追われ、後を付けられる。


「…こりゃ、観客がたっぷりだねぇ」

「はは、すみません、自分が目立つもんで…」


確かに、弘は百八十ある僕よりも大きいし、そりゃ目立つよね。

ま、恐らくそれだけじゃ無いと思うけど…


──────────────────────────


「さ、久しぶりにやろうか?」

「ええ、鈍っていないか心配ですよ」


たっぷりの観客が僕らを囲み、円形になって、固唾を飲んでいる。

呼吸すら忘れ、今この時、『第一席』と『第二席』の試合を、今後二度と見られないであろう試合を、目に焼き付けようと息巻いている。


「さ、いつでも良いよ?」

「…行くぞ、秋元ぉ!」


開始早々、肉薄からの昇拳、それを下がって躱し、様子を伺う。

弘の得意な戦闘法は、術を織り交ぜた肉弾戦。

掌底、正拳突き、発勁、投げと何でもござれ。

ただ、一番恐ろしいのは今出したどれでも無い。


『龍』の爪は、死者の魂すら切り裂くとか。


手を広げ、ただ『振り下ろす』。

学生時代も、今も、このただ勢いよく手を振り下ろすだけの攻撃にどれだけ苦しめられたか。


「全然、鈍って無いじゃん、事務仕事ばかりってのは嘘かい!?」

「安心しましたよ、あなた相手にこれだけ効くなら、妖共を安心して屠れる!」


龍の爪は、地を抉り、空を裂き、星をも砕く。

それを人が振るった時、それは『明確な意思』を持って、こちらを殺す為に振るわれる。

真空波を纏い、全てを破壊する暴風として、龍の爪が振り下ろされる。


「それじゃ、こっちも、攻撃するよ」

「来てくださいよ、あなたも、なまったんじゃ無いですか」


安い挑発だ、こんなのに引っかかるほど今の自分には余裕が無いらしい。


「久々に、唱えてみるか…」

「!?」


唱術。

日頃の術は、せめて術の前に、一節の言葉がつくだけ。

だが、これは違う。


「『彼方に聳える山よ、彼方に流れる水よ、彼方に瞬く星々よ、彼方より飛来し、眼前の敵を砕かん』」


「マジっすか…」


「『彼方より、鼓動を此処に。破壊を此処に。滅消を此処に。』」


「そ、そこまで…」


『降れ。神の搥よ!』


「『龍の鱗よ!』」


ズシン、と極大の術を振り下ろす。

生徒の手前、格好悪い姿は見せられない。


雷、岩、そして、星の力を乗せ、敵を打ち砕く。

因みに、中妖程度なら塵も残さない程粉々に出来る。


「どう?鈍って無かった?」


室外運動場の真ん中に大きな窪みを作り、その真ん中に丸くなった龍笠が居る。

龍笠の鱗の硬さは、分かりやすく言うと…


『鉄筋で出来た塔を一刀両断する大妖の一撃をほぼ無傷で受けきれる』、が一番分かりやすいかな?


「クソ〜、勝てると思ったのに〜…」

「ま、少しも鈍って無いと思うよ?ただ


──まだまだ、意地汚くならないとね」


「ホント、そう言うことやらせたら神ノ國一位だな、秋元は」


「はは、褒め言葉として受け取っておくよ」


ピリリリ…


「すまん、電話だ」

「おう」


──────────────────────────


いや、にしても…唱えてすら砕けないのか。

僕の術の威力も落ちたな〜。


「…了解だ。着き次第終了としてくれ」


こうみると、本当に堅気には見えないねぇ。


「ふぅ、それじゃお邪魔しました」

「うん、いつでもおいで、僕じゃなくても弘の相手をしたい奴はたっぷり居るからさ」


「…そりゃ、良いこと聞きましたよ」


「またおいで、龍笠」

「ええ、また来ます」


で、全てが平和に終わりましたってね!

もう仕事しなくて良いね!


「学長」

「あ〜何にも聞こえない〜!」


「学長」

「いや〜!よく働いたな〜!」

「学長」


「…はい」

「仕事は?」


「まだです…」

「“今日中に”終わらせてくださいね?」


「…はい」

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