蛇への足掛かり…?
「にしても、聞いてた通りの男だ」
手を払い、地に倒れている少年を見る。
一度折れた心、それを鍛え直し、戦える様にしろと言う“アイツ”からの頼み。
「チッ、俺が断れないの知って面倒事押し付けて来やがる…」
さっきの術、練度、精度はイマイチだが威力はよかった。
『音の槍』、『音速で飛ぶ斬撃』、『押し潰す音』、まぁ最後は音と言うよりは衝撃波に近いが、まぁいいだろ。
「…ふぅ」
だが、精神面はまだまだガキだな。
あれくらいの挑発に乗っちまうのは直さなきゃな。
ま、あの殺意は本物だったが。
「…」
『もしもし?首尾はどうだった?』
「…厄介事押し付けやがって、一月はテメェの頼み聞かねえからな」
電話越しでも伝わる位コイツは半笑いだ。
それがまた俺の神経を逆撫でする。
「…術は鍛え直しだが、殺意は十分。ってとこだ」
『そう?良かった、って、術駄目だった?』
「発想は良い、けど、練度、精度共に駄目だ」
『…それも鍛え直してあげたり…は?』
「…断る。この先二年ほど依頼が立て込んでるんでな」
プツッ
「…俺も焼きが回ったな」
うつ伏せに倒れ、気絶している響君を見下ろし、そう耽る。
秋元や弁財達と競い合ってたあの頃みたいに、また輝きたいなんて甘い思考が出て来やがる。
キラキラ、ギラギラ、なんて擬音じゃ表しきれないほど、あの頃は輝いてた。
「秋元はともかく、弁財達は元気にやってんのかな…」
弁財に、函仲、龍笠、数えたらキリがねぇな…
生き死にも何も知らない、随分と薄情な人生送って来たもんだ。
「…」
木々の合間から突き刺さる、何かの視線と殺気。
秋元曰く、響君はあまり人と接点が無いらしいから、響君関係じゃ無いのか?
響君は…?
「血が止まってる…?」
おかしい、止血はしたが、滲まない訳が無い。
止血の事を確認した途端、先ほどまで刺さっていた殺気も消えた。
殺気の主がこれを?何故?
「響君よ、とんでもないのに気に入られたっぽいな…」
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切り落とした右腕を拾い、響君に接合する。
一応人体に害がない様に心がけるが、まぁ、不可能だろ。
「さ、て、と」
『糸術』。
帳野一族に伝わる術だが、見様見真似で意外になんとかなるもんだ。
「少し痛いぞ、男見せろ〜」
先ず、針を右腕に刺し、糸を通す。
血管、神経一つ一つを繋ぎ合わせ、元の形に戻す。
骨を繋ぎ、筋肉を治し、皮を繋ぎ直す。
「…ふぅっ」
血は問題なく流れるか?神経は問題なく繋がるか?筋肉は上手く噛み合うか?骨は問題なく治るか?
生憎、医者じゃ無いから体内を見る事はできないが、触った所、繋がっている様だ。
…腕なんか切り落とすんじゃ無かった。
「ま、起きるまで見張っててやるよ、丁度、肉もあるしな」
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リリリ…リリリ…
「…」
鳥の囀りで目が覚めた。
良い朝、の筈だ。
「よう、漸くお目覚めか?」
この人さえ居なけりゃ。
「…なんで居るんですか」
「そりゃないだろ、誰が腕繋いでやったと思ってんだよ」
確かに、斬られた腕が繋がっている。
なんで、切った本人が繋ぎ直したのかは分からないけど。
「それに、これは仕事なんだよ」
「仕事?」
「そ、お前らの“学長”に頼まれてな」
学…長?
…駄目だ、記憶に朧げにすら居ない。
顔すら思い出せない…
「ま、報酬をはずまれてな」
「…へぇー」
あれ?学園にそんな金あったか?
じゃあ何で俺ら依頼なんてやって…?
何であんな必死になって…
「…?…?」
「おい、何混乱してんだ?」
「おかしい、俺たちが集めた金は…?」
血と汗と涙と人員を費やして得たあの金は?
名も容姿も知らないし、居るかも分からない学長に殺意を抱く。
「で、そいつから『お前が起きるまで見張っててやってくれ』って頼まれたのよ」
「…はぁ」
「ま、あれだ」
帽子を目深に被り、この人は俺に言ってみせる。
「生憎、野郎に添い寝する趣味は無いんでね」
「じゃあ何で俺を襲ったんですか」
根本的には、この人が俺を襲わなかったら今日中…若しくは昨日かも知れないけど、山を降りられたわけだし。
「言ったろ?学長に頼まれたんだよ」
「頼まれた内容を知りたいんですけど?」
「お前、意外に図々しいんだな。教えられると思うか?」
「ですよね…」
目深に帽子を被り直し、首を横に振られ、『それは飲めない』とばかりな否定の意を示される。
「ま、知っても知らなくても、近々“機会”があると思うぞ」
「“機会”?」
男はすくり、と立ち上がり、こちらを見て告げる。
男と満月が重なり、どこか神秘的な空気が流れる。
「“選ばれろ”、鳴渡。先ずはそれからだ」
「選ばれろ?」
「『蛇』の尾は、お前が思うよりも長いぞ」
「!!」
それだけを残すと、男は足を翻し、山の中に消えていった。




