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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界の日常
71/209

対決 ヤマノヌシ(仮称)

「…ん?」


クルル…クルル…と、遠くから鳴く獣の声。

先程の術の弊害で起こしてしまったのだろうか。

地に伝わる衝撃、音の響きから、恐らく正体は熊…か、それ以上の獣。

足音から四足歩行、木々の擦れる音から体長は三から四米…。


「…起こしちゃったんかな?」


正直、あそこまで音が出るとは思ってなかった。

鳥や蛇、猪なんかも、驚いて慌てふためいている…事は無いか。

なんて事を考えている内に、脅威はすぐそこまで迫っていたようで…


…フーッ、フーッ…


「…お〜、でっか…」


四足歩行時の大きさは室呂先輩より少し大きい位…つー事は二米位か。まだ精度は悪いな。

この森の生態系の頂点に立つ奴だろうか?

恐らく、この獣一番の武器である爪。

赤黒く朱に染まり、煌々と光り輝いている。それは数多の獣を狩った証拠か、はたまた何人もの『人』を殺した証か。

牙すら剥き出しにし、眼は血走り、思考なんざ読めないのに、ありありと殺す意思が伝わってくる。


グル…グルルル…


そういや、この国の最北端にあるデカい島には二足歩行する熊が居るとか。

怖えぇな、たとえ依頼でも行きたく無いね、下手な妖より全然怖いもの。


「…狩の最中だった?寝てた所を起こしちゃった?」


獣に図星ってあるのか?


ゴガァッ!


「ぶねっ!」


コイツ、どこ殴ったら人が死ぬのか分かってんのか!?

まさか何処かの連中が逃した奴じゃ無いだろうな。


体高は、二足歩行時に四米を超える位か。

あの腕での一撃、当たっちゃいけないな。

そういや、熊の皮下脂肪やら皮やらを貫通する銃なんかは到底人には扱えないとか聞いたことあるな。

熊が死ぬ代わりに反動で人の頭が数個吹っ飛ぶとか。


例えなのか事実なのかは知ったこっちゃ無いが、ま、そんだけ分厚い肉、皮、脂肪に覆われてるのが熊って生物らしい。


つ・ま・り。


「手前を貫けりゃ、俺の術はその銃にすら負けない威力があるって訳だ!」


「かかって来い熊野郎!土手っ腹に風穴開けてやるよ!」


正直、怖い。


手に唾を吐き、呼吸を整える。

相手はこの道十年は下らない、殺しの、『狩り』の大先輩だ。

そんな大先輩がこの道に正式に入って数日の若造に胸を貸してくれる。

『敵意』を持って。

コレほどありがたい実践経験は無い。


グルルル…グガァ!


ドスドスと、熊が走ってくる。

体重はおよそ七百瓩はありそうな肉の塊が、猛突進して来る。

げに恐ろしいのはその威力。当たれば骨じゃ済まない事は、神経が、脳が理解している。


得てして、速度のついた重い物体は、急には曲がれない。

車とか、それこそ闘牛用の牛なんかがそう。


目の前から目標を見失い、木に激突し、ようやく止まる。

熊の突進を受けた木は、もう木として認識できないほど、凹み、折れかけている。


「ひぇ〜、それ平気なのかよ…」


熊はまるで何事もなかったかの如くに頭を振り、こちらに向き直る。

地を蹴り、駆けてくる。


まだだ。攻め時を見間違うな。


熊の突進を躱す。

土煙が舞い、熊の身を隠す。

晴れた頃にはもう熊の姿は無く、それは、今この瞬間から、いつ何処から襲って来るか分からない恐怖との戦いが始まる事を示唆していた。


森の一定の範囲を走り回る熊。

小枝を踏み、土を蹴飛ばし、道に棲む動物を殺しながら走り回る肉の車。


怒りに囚われ、こちらを殺すことに躍起になっている野生の動物。

狂気が、殺意が、敵意が、体を叩く。

打ち震えながら、敵を待つ。


ここ迄、ここ迄純粋な殺意をぶつけられたのはいつぶりだろうか?

…あの時か。


「ふ〜…」

息を吸い呼吸を整える。

「俺が怖えのか!?熊野郎!森の王ともあろうやつが、そんな弱腰とはな!」


「よほど死ぬのが恐えか!?」


…来る!


猛突進する肉の塊。

俺を殺す意志を持った獣。

純然たる殺意を持った敵。


仮想敵にはピッタリだ。


「打ち殺してやるよ!クマ公!」


グガァァ!


「『貫け』!音の大砲!」


────────────────────────────


「はぁ、はぁ…」


目の前に倒れている獣の死体。

指の先から肘までの骨が折れている俺の右腕。


「俺の、勝ちだ…」


「俺の…勝ちだぁ!」


上がらぬ右腕を掲げて、勝者は吼える。


「…お?」


我が身に降り注ぐ、陽の光。

勝者のみの特権。


「七時か…」


ぴ、ピピ…


「あ、弁財先生ですか?今日少し遅れます」

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