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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界の日常
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十傑一の"健常者"

「…」

「弁財君、あのね?鳴渡君をさ、合宿に連れてくのは良いんだけど、何か一つ報告位あっても良いんじゃないか?」

「…」

「だんまりかい?…はぁ〜、困ったねぇ」


…偉そうに講釈垂れやがって。

提案したのあんたじゃねぇか。


「ま、それはこの際いいんだ。ただ、報告書は書いて貰うけどね」

「…へーへー」

「…まぁこの際返事もそれでいいよ」


「で?鳴渡君はどう?可能性は感じる?」

「…まぁ、そこそこですよ。神無月程では無いですが」


実際、この評価は間違っていない。

神無月に正面切って勝てる奴ははっきり言ってこの学園には恐らく居ない。

搦め手やら何やらをつかえば、稲月や水泡も勝てない事は無いが。


「そっか〜…ま、仕方ないね。神無月ははっきり言って可笑しい位強いからね〜」

「…ま、鳴渡も強くは成るでしょうけど、いかんせん『周り』が比較対象に入りますからね」

「そうだねぇ、『名の知れた式神使い』、『龍の血を引く子』、『光を操りし者』に挙げたらキリが無いね」


多々良、龍笠、煌焚、など、所謂『強時代』と呼ばれた面子だ。

他の年より、強力な術を行使できたり、そもそもの霊力保有量が多かったり、と『当たり』の世代。

が、そんな『何か突破な物を持っている事が当たり前』な中、『普通の子』が生まれた場合、相対的に見て、どういう評価を受けるかなんて火を見るより明らかだろ。


「ま、鳴渡も鳴渡なりに努力はしてる様だ…ですしね」

「…敬語やめたら?弁財君には合わないでしょ」

「そっすね」

「…早速だね」


堅っ苦しいの苦手なんだよ…


「それで、近々『あれ』を開こうと思ってね」

「『あれ』…?あぁ、対抗戦の事ですか」

「そ。『蓮学』、『氷皇』、うち、『流命』の四校でね」


「…ほーん」


──────────────────────────


「蓮学…氷皇…流命…」


対戦校…ま実際には三つのうち二つとしか戦わない訳だが。

構成は…大将、副将、中堅、次鋒、先鋒…か。

取り敢えず神無月は確定として…


お。


「よ〜、鳴渡。調子はどーだ?」

「…弁財、先生」


肩で息をし、こちらをみる鳴渡。

地面にはヒビが入っており、訓練か、はたまた何かあったのか。

一先ず、『普通』では無い事が一見で分かる。


「今、技の訓練…してまして…」

「ほ〜ん…良かったら受け役、やってやろうか?」


あの十傑との合宿後。鳴渡が思いついた技。

最終日に見せたあの技も、磨けば光る原石だ。

正直、教師としても、術士の先輩としても、人に教える事は好きだ。


「いや…受け役…もそうですけど、それよりもキツくて…」

「ん?乗れることなら相談だって乗るぞ?」

「………………じゃあ、お願いします…」


──────────────────────────


「だぁっはっはっは!!」

「…」


「ひー…ひー…腹いてぇ…」

「…」


「なーんだお前、そんな事で悩んでたのかよ!?」

「…悪いっすね、そんな事で」


あーあ、不貞腐れちまった。

少しからかい過ぎたか?


「だいたい、物事を難しく考え過ぎなんだよ」

「…」

「いいか?」


鳴渡は、とんでも無く面白い事を考えてやがった。

それこそ、術士の中でもそれを出来るのは両の指で数えられるほどだろ。


術の『停滞』。


音だけ聞きゃ簡単と思うかも知れんが、ただ術を行使するのとは訳が違う。

まず、最も馴染みのある術の使い方が、『飛ばす』事。

これは、対象を指定するか、場所を指定するかで変わるが、所詮、狙う瞬間に集中するだけで術は思った方向に飛んでいくし、何より、加える力が『真っ直ぐ』である為、牽制や追い打ちに使われる事が多く、簡単だ。

一方、『停滞』だが、此方はその場に留まらせる、と云う性質上、扱いは全くの別物だ。

『真っ直ぐ』だけで良かった加える力は、上から、下から、横から…と最低でも十九ヶ所も加える力が必要で、その難しさは一方だけに力を加える事とは段違いだ。


更に寸分の狂いも許されない。

一部でも力の加減を間違えば術者の身体ごとを巻き込む『暴発』が起きる。


「まー、あれだ。水泡辺りに聞きゃ分かるだろうが……あいつは何処に居るか分からんし…」


「ま、要はシャボン玉の要領だろ?だったら、『球体』を思い浮かべろ」

「…球体ですか」

「そ。球体。で、その中には液体が入ってる」


古典的だが、これが一番慣れやすい。

用法としては『割れそうなシャボン玉を"割れない"様に手で押さえつける』これを頭ン中で考える。


「球体は薄い膜だ、すぐに破れる。一滴でも零したら死ぬと思え」

「…一滴でも?」

「あぁ。本来それを助ける道具があるんだが、今は使えなくてな」


黙が欠陥だかを見つけて修理中だ。


「そだ、力加減が分からねぇなら、私の煙を貸してやるよ」


煙管を蒸し、煙を出す。


「そーいや、先生はどうやって煙を留まらせてるんです?」

「あ?私の煙は頭の中で思い浮かべた形になるだけだから、小難しいモンは要らんのよ」

「…」


露骨に引いた顔をする鳴渡。

近道でも見つけようと思ったんだろうが、そうは上手くいかないモンだな。


「ま、発想自体は悪く無いし、訓練すれば身につくと思うから、頑張りな」

「…」

「…集中し過ぎてぶっ倒れてもしらねぇからな」


──────────────────────────


「…行きましたよ、『先輩』」

「…ホント?いやー!助かったよ!危うく首から下が無くなるとこだった!」


茂みから出てくる着物を着た人。

此方、十傑第四席、水泡先輩その人です。


「先輩、サラシ見えてますよ」

「へ?…なっ…」


慌てて着物を着直す先輩。


「…ふぅ、ありがと。お礼に何か「結構です」…そう」


…少し強く突き放し過ぎたか?

いやでもこのくらいは別に平気…


「…いいよ、どーせ私は役立たずですよ、後輩にまで迷惑かける駄目女ですよーだ」


…面倒くせぇ〜。

何?十傑に健常者って居ないの?今の所翠泉さんくらいでしょ。


「…いいよーだ。拗ねてやる」

「…あー、何処かに訓練に付き合ってくれる先輩居ないかなー!」

「!ここ!ここに居るよ!」


…将来が心配だよ。

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