"音"使い
「…っぶね、まさかこんな物隠してるとはな…」
ぶっ倒れた鳴渡を眺めながら、物思いに耽る。
『避けない』、と云う圧倒的な譲歩こそあるものの、破壊力は下手な十傑の技をも凌ぐ程。
問題はその欠点の多さ。
片手で抑えないと立って居られない程の反動。
一発撃てば練りに練った霊力を全て消費する。
そして、自身の身を顧みない心。
音の力は本来、暗殺や情報収集などに使われる。
音の力を持つ術者は基本的に耳がいい。それが為、僅かな音をも拾い、対象を抹殺する事に長ける。
情報収集の点に関しては自身の『記憶』の中に『音』としてしまっておく、と云う中々対処の仕様の無い方法まで使える。
「…これなら、下手に肌に合わない事させない方が良いな」
私の友に人殺したく無さすぎて結果的に大量に人殺した奴が居たがアイツの二の舞にはさせない様にしないとな…
「にしても、まさか守りの煙まで使わされるとは思って無かったな…」
普段は攻撃様やそれこそ、人探す時に使うくらいの煙。
防御様に使ったのは何年ぶりか…
あの時、一瞬でも遅れてたら腕一本じゃ済まなかっただろう。
「"超"攻撃的音使い…字面は良いな…」
普段は、炎や水、岩などの陰に隠れる音。
見えない所から、『視えない』力に襲われる。うん、これで行こう。
さて、当分の課題、及び諸々の調整内容が分かったところで、泊場に帰るか。
「本当、怪我しやすいのか、怪我に突っ込んでってんのか…」
確か、そろそろ朝飯だ、急がないと、また獣を狩る事になっちまう…
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「で?朝起きて、鳴渡の挑発に引っかかってむざむざ四時間も特訓と称した鬼ごっこ?はぁ〜、教師様は暇でいいですなぁ〜」
「…」
鳴渡を翠泉に預けた後、稲月に捕まる。
が、いつもの様に聞き流す。
ひりつく腕を抑え、あたかも何もなかったかの様に振る舞う。
「…ま、ええわ。私も怪我人追い詰めるほど腐っとらんからな、今回は不問にしときますわ」
「…」
マジで姑みたいな事言うんだよなコイツ…
てか、腕痛いの分かってたのか。だったらもう少し早く解放してくれたって良いじゃ無いか。
「じゃ、翠泉とこ行ってくる」
「はいはい、気ぃつけてな」
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「失礼する〜」
「あ、弁財先生〜、響くんの様子見ですか〜?」
桜色の髪を翻し、こちらに駆け寄る翠泉。
…こういうのが男ウケがいいんだろうな…
「いや、少し右腕を見てもらいたくてな」
「右腕、ですか〜?」
「そ、色々あってさ、神経がイカれたのかわからんが…」
「は〜い、分かりましたから横になってくださ〜い」
流されるまま、布団に横になる。
背に木が当たり、ギシギシと音を立てる。
そろそろ、建て替えるか…
「それでは〜、先生、すこ〜し痛いですけど、我慢して下さいよ〜」
チクリ、と腕に針の様なものが刺さり、鋭い痛みが走る。
血が抜かれ、少し寒く感じる。
「…また、無理に煙を使いましたね?」
「今回は仕方なく、の方が正しいな」
「響くんのせいですか?」
翠泉の纏う雰囲気が変わり、ほわほわしたものから凶々しい物へと変貌する。
手に持つ医療器具はそれだけで、まるで殺人鬼が持つ凶器の様な異質さを放つ。
「違ぇよ、言い方は悪いが、煙が間に合わなくてな」
「貴女の煙が間に合わない様な妖が居るんですか?」
「…」
「はぁ、柄にもない嘘つくからですよ」
「わかりました、今回は不問とします。ですけど、響くんは何かと不安定ですから、何かあったら直ぐにここに連れてきて下さいよ?」
「…分かった、…なんだ?十傑の女集はみんな姑になるのか…?」
「聴こえてますからね?」
「お前意外と音使いだったりしてな」




