訓練、開始…?
「弁財教師、ここは禁煙です。吸うのは向こう着いてからにして下さい」
「はぁ〜…ホンっと愛煙家は肩身が狭い…」
「ですから早く火を消して下さい…」
何故。
何故こうなっている?
左を見れば、葉巻を吸う担任。
右を見れば、その行為を注意する先輩。
…肩身が狭いのはコッチだわ。
『次は〜散凪〜散凪〜』
「やっと解放される…」
「ほんとだな…」
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「ひい、ふう、みい…今回は珍しく全員揃ってんな」
「そら、あんたが声かけたら皆集まるわ」
…
「で、この子は〜?見た所二年かな〜?」
「おぉ〜!じゃ、先輩っスね!」
…
「…大丈夫ですか?顔色が悪い様ですが…」
「そりゃ誰だって知らん所に半ば誘拐みたいな感じで連れてこられたらこうもなるわ」
…
「んじゃま、先ずは自己紹介だな」
「する必要ある?大半は知ってるでしょ」
「…はい」
「おっ、響くんなんだね?」
「十人中二人しか知ってる人が居ません…」
そろそろ夜の帳が落ちそうな山の中、若輩十六の男の悲鳴にも似た問いが木霊する。
突然、というほど突拍子が無いわけでは無いが、全員来るとは聞いていない。
室呂先輩や先程一緒していた越中先輩以外、面識はおろか名すら聞いた事が無い。
なんせこちとら学園には両の指で数え足りる程しか行っておらず、それが災いし、成績は下の下、最底辺を更に下回る程だ。
その自分の前に、学園と言う組織の中で十本の指に入る集団が佇んでいる。
「ほら言ったろ?」
「てっきり、あんたがしてるモンやと思っとったわ」
…とんでもない毒を吐かれているだろうに、『我、関せず』という感じでのらりくらりと言い逃れている。
…ていうか、よく弁財先生にあそこまで言えるなぁ。
「ま、これからの訓練で嫌と言うほど聞くやろうし、名前も勝手に頭に入るやろ」
「…はぁ」
なんかもっと苛烈な物を想像していたが、蓋を開けてみれば案外そんな事は無いんだろうか?
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…
「避けんきゃ死ぬぞ!」
「ったり前や!誰がそんな恐ろしいモン好き勝手くらうか!」
「ま、ま、そう、焦らずにさ?だから頼みますもう穴ぼこ作らないで…」
「煩い!儂を否定した千足が悪い!星の下敷きになれ!」
…
「…ほら、『弁財先生お墨付きさん』。『あれ』止めないと不味いんじゃない?」
「…無茶言わないで下さいよ」
そう、弁財先生の『じゃ、初め』という一言を皮切りに十傑の訓練?が始まった。
初めは、今と比べれば真面目…やや真面目に訓練していた。
術の精度や連携だったりを確認したり、ほんと、『訓練』してた。
ただ、その連携の確認中、越中先輩が二位先輩の意見交換の最中、二位先輩が出した案を全て却下したり、稲月先輩と神無月先輩が喧嘩したりで今に至る。
運良くその確認に自分は含まれて居なかったのが不幸中の幸い、とでも言うのだろうか?
「おい」
『同時に存在し得ない物』。
炎と氷や、それこそ、光と闇。邪と正。
冷ややかながら、何処か熱を帯びた様なその声は、場を鎮めるのに充分足り得た。
「喧しい。十傑が聞いて呆れる。『十人の優れし豪傑』が盛りのついた猿の様に騒ぐな」
「神無月、お前の攻撃は大振りな物が多い。稲月の様な行使に時間をかける物とは相性が悪い。衝突するのは仕方のない事ではあるが、そこを直さなければ望む連携など取れまい」
おぉ…
「稲月も稲月だ。『十傑』として活動するので有れば望まぬ者と組む事も多い。その時、今の様に癇癪を起こしていれば来る依頼も来なくなる。その時困るのはお前だろう?何時迄も我儘が通ると思うな」
「越中。確かに二位が出す案は突拍子の無い物や実用性の無い物ばかりだ。が、確かに実績を挙げた物があるのも事実。余り叩いてばかりでは出る杭も出ないぞ」
「二位。お前もだ。実績はあるがそれに掛かる費用を考えろ。学園は金の湧く泉では無いんだ。確かにお前からすれば格好良さが第一なのは分かる。だが、その案だけで一体何人の犠牲が出る?物事は考えてから発案しろ。『これいいな!』では人は動かん」
凄い…!
あの大暴れしていた先輩達がこうもあっさり…
「響」
「?はい」
銀色の…指輪?無骨な感じの装飾が施されている位は至って普通…。
「発信機が付いている。黙お手製のな」
黙さんが?
あの人、あんまり得意じゃ無いんだよな…
「万が一の時、それさえ有ればどこに居ようと弁財教師が駆けつける。それに、生半可な妖の攻撃じゃ壊れん。神無月の攻撃に耐えるくらいだからな」
「それに、明日からは助けたくも助けられん。無事、生き延びろよ」