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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界の日常
59/209

衝突

「だから十傑「わかりました!わかりましたから!」…おう、変な奴だな」


十傑!?『教師を除き五番目に強い』!?

予想外、という他無いだろう。

学園で五番目に強いと謳われる者に、僅か五分とはいえ渡り合ったのだ。


「意外に十傑も大した事無いんで「悪かったな、『大した』事無くて」…え?」

「見舞いに来たが、そんだけ饒舌に話せるんなら『これ』も要らんな」


病室の戸を引き、紙袋を片手に持つのはつい先程俺を追いかけ回した張本人で、十傑第五席の室呂修その人だった。

相変わらず背が高く、少し屈んで病室に入ってくる様は何とも言えない。


「おう、頼んでたブツか?」

「はい。帳野の姉弟の所も『鳴渡なら問題ない』、と」


?帳野さんが俺に?…また変なモンでも押し付けに?

いや、今回持ってきたのは室呂さんだし、特に何か問題がある訳じゃなさそうだし…


「でだ、鳴渡。お前に渡す物があってな…」

「渡す物…ですか」


室呂さんが袋を俺に渡し、袋の中は真黒い服の様な物が入っており、時代劇や映画などで所謂『忍』と呼ばれる人達が着込んでいる『忍装束』やそれこそ死者を弔う時に着る『喪服』の様な物。


「…喪服、ですか?」


堪らず疑問を投げかける。


「阿呆か。それは、所謂、…あれだ」

「それは作務衣みたいな物だ、二年になり碌に出てないお前は知らんだろうが」


室呂さんの毒が刺さる。

怪我人に刺していい毒の量じゃ無い。絶対。

中毒起こして死んでしまいます。


「…」

「…二年に入り、此れからは妖と対峙する場面もあるだろう。その時、普段着では防御に些か問題がある」


室呂さんが淡々と続け、弁財先生がそれに相槌を打つ。

…弁財先生ここ禁煙ですよ。


「そこで、帳野が作ったこの『夜服』は妖の攻撃や妖撃を軽度ながら防ぐ効果がある」

「で、これを着ろ…と?」

「そうだ」


『夜服』、か。

何処から、どの角度から見ても黒にしか見えず、ともすれば全てを吸い込む様な、夜の闇に体そのものが溶けてしまいそうな、それほどまでに『黒』を想わせる服。

…本当にこれに耐久性があるのか?


「はぁ〜、ったく愛煙家は肩身が狭いな…」

「喫煙所一階にありますから、そこで吸ったら良いじゃないですか」

「ここ五階だぞ…、ま、んじゃ少し席外すからな。室呂は帰るなりなんなりしてくれて構わんぞ」


そう言い、弁財先生は病室を後にし、そのすぐ後、階段を物凄い勢いで降る音が響いた。

さて、病室に残ったのは片や遅刻、サボり常習犯。

片や規律に厳しく、遅刻などしないであろう十傑第五席。


「…」

「…お前に一つ、質問がある」


意外な事に切り出したのは室呂先輩。

神妙な面持ちでこちらに問いを投げかける。


「はい」

「何故、何故学園に来ない?お前程の才能があれば…」

「そういうの、いいんですよ」


「『才能』だの、『天性』だの、そんなの聞き飽きてんです」


「俺は、精々五番手ら辺がお似合いですよ」


自分の思いが、勝手に口を伝い外に出る。

止めようとしても止まらず、まるで赤の他人に脳みそを操られている様な。


「強くなりたくて入学(はい)った学園も、いつの間にか行かなくなって、いけなくなって、気がつけば燃えカスになって…」


「燻る事すら出来ず、『本物』の才能がある奴の影に埋もれて。全てが莫迦らしくなって…」


「とうとう、かねもつきて、きょうだって、しぬことばかりかんがえて…」


頬が湿り気を帯びる。碌な飯を食わずとも、涙は出るのか。


「阿呆か、お前は」

「…へ?」


「何かと思えば、下らん。ただの不幸自慢か?」

「ふ、不幸自慢だと…!?」


シーツを握る手に力が入る。

今すぐこの澄ました顔を殴ってやりたい。

暴力的な思考が頭を支配し、血が昇る。


「何も知らないからそういう事が言えるんだ!」

「何も知らないだと…?」



「巫山戯るな!」


「お前に分かるか!?かつての親友が、目の前で無惨な肉塊に変えられた時の気持ちが!死体を貪られ、踏みつけられ、挙句の果てに、骨の破片すら残らなかった時のやるせなさが!!」


「もう沢山だ!『目標』やら『意識』だけがやたら高い、自ら妖共の餌になりに行く様な奴を見るのは!」


とてつもない剣幕で室呂さんが捲し立てる。

帽子から除く目は、まるで燃え盛る炎の様に熱く、今朝見た機械の様な冷徹な目とはかけ離れ、『人』の目をしていた。


「な、にを」

「分からんだろう!お前"ら"の様に『ぬるま湯』に浸かりきった者には!」


ぬるま湯…?


力の入らない腕をなんとか振るう。

ブチリと何かが千切れる様な音と共に、俺は室呂さんの胸ぐらを掴んでいた。


「ふざっけるな…!ぬるま湯、だと?」


口の中を、鉄の味が覆う。

息は切れ、焦点も定まらない。


「…何が違う」

「そりゃ、あんた達みたいな…『優秀』な、奴らは、違うだろうさ、凡人を、才無き奴を嘲る事だって容易いだろうさ」


足が震え、血の気が引く。

脂汗が顔を伝い、ぽたりと床へ流れ落ちる。

胸ぐらを掴む腕が震える。


「でもな、あんたらが見てねぇ所で、『才無き者(おれら)』は血反吐吐いてんだ!」


思い切り、叫ぶ。

もはや顎にすら力は入らず、舌も回らない。


「ふん、幾ら血反吐を吐こうが、結果が残らなければ何の意味も無い」

「な、んだと…」


「だが、分かった」

「あ゛!?」


「鳴渡響、貴様を試そう」

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