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北条光〜拾弍〜

「先輩…」


今日も会えなかった…最近は『何が』あったのか知らないが先輩には先約が居ることが多い。

…にしても。


「5回連続で断りますかね?普通」


私だって傷つく心持ってるんですよ!?

それなのに、先輩と来たら『コイツは傷つく心とか持って無いだろうし虐めてやろう!』とか考えてるんじゃないかって思うくらい扱いが雑なんですよ!

…まぁ無視とかされるよかマシですけど。


────────────────────────


「はぁ…」


うわぁ、絵になるなぁ…

何でこう美女、美少年が憂いているのってあんなに、こう、ねぇ!?


「っといけないいけない」


何とか正気を取り戻し窓際で頬杖を突き悩み耽っている我が親友に助け舟を出そう!と息巻いていると…


「すまん」

「ひょわぁぁぁ!」


男の声と共に肩に手が置かれ、びくぅっ!となる。

振り向き一発かましてやろう!と振り向く。


「誰ですか!何の了解があって私に触って…」


振り向いた先に居たのは今丁度話題の、渦の中心というか何というかまぁ、色々と疑惑のある人物だった。


「鳴渡先輩!」


「…へ?」


「おう」


何か遠くの方で動いた気もするが多分気のせいだ。

うん、多分、まぁ…気のせいだろう。


「それで何の様ですか?一年のクラスに」

「いやな?その…そうだ、北条いるか?」

「はい、あっちに「何ですか!先輩!」早いな…」


────────────────────────


「で、用って何ですか?」

「いや、その、何つうかな…」


いつもの如く煮え切らない先輩を見るのもこれで何度目だろうか。

何かあるのかな?もしかして…


────────────────────────

『その、こんな所じゃ何だし、場所変えないか?』

『?良いですよ、何処にします?』

『出来れば人目に付かないとこがいい、かな』

『じゃあ、室内運動場の裏とかどうです?』

『まぁじゃあそこにするか』


『で、何なんです?いたいけ少女をこんな所に連れ出して』

『その、俺さ、お前の事が好きになっちゃってさ…』

『へ…?』

────────────────────────


なんて事があるかも!?

もしそうなったら、私は、私はどうなるだろう?

嬉しさで跳び回る?嬉しさで泣く?それとも、


「北条」

「…はい」


先輩は一通の綺麗に包装された手紙を差し出してくる。

私はそれを受け取り、中身を確認する。


(全く先輩ったら口頭で話すのが恥ずかしいからってわざわざ手紙にしなくても良いのに)


でも手紙の内容は、斜め下へと私の予想を大きく『悪い方』に外れていた。


「は…?」

「いや、遺書みたいなもんでさ…渡して回れって──」


そこに書かれてたいた事を簡潔に纏めると、

『これから生死に関わる事があるから死んでもOKです』という様な物だった。


「こ、これ…」

「おう」


先輩は笑っていた。

これから死にたくなる様な事が待っているかもしれないのに。

先輩にそんな顔されたら、私が泣くとか出来ないじゃ無いですか…


「…先輩」


泣きそうになるのを堪え必死に笑う。

顔を作り、心を作り、感情を作り、声を出す。

押し潰されそうな私を、無理矢理繕い、支える。


「生きて帰って来て下さいね」

「…」


これから、先輩がどんな所に赴くかも、何をするかも知らないのに勝手なものだ。

『私は貴方が居ないと寂しいから早く帰って来てください』と我儘を言っている。


「…今回の任務がさ」

「…」

「『神上市』への遠征なんだ」

「…」


神上市…


「生きて帰ってこれます?そこ行って」

「…まぁ、十傑さん方が着いてくるらしいし平気じゃない?」


十傑ですか…


「せ、先輩が行った所で、何が出来るんですか?

何も出来ずに死んじゃったら意味がないですし!

ほ、ほら今回は断りましょ?今なら先生達も許してくれるでしょうし、ね?」


気付かぬ内に声は震え、目の焦点は合わず、背中に嫌な汗が流れ、嫌な程に私には先輩が必要な事が分からされる。


先輩は何も言わず、こんなに惨めな後輩の独白を聞いてくれている。

それが逆に、私の劣等感を、神経を、逆撫でする。

何時もなら欠伸をし、聞き流す事をまるで聖母の様に、慈しみの籠った目で、癇癪を起こした子供を、思い通りに行かず駄々をこねる子を鎮める様に、私を見る。

その目に気力を削がれ、激昂していた私の気は落ち着く。


「…でも、本当に死んじゃいますよ…」

「…」

「この際だから言いますけど、私、先輩の事が好きだったんですよ…あの日、同学年に敵が居ないからって天狗になっていた私をコテンパンに打ちまかしてくれて、あそこで折れて無かったら多分、私は近い将来死んでいたでしょうし…まぁ、この話はたらればですけど」


私は思いを吐露していく。

先輩は私をこんなにしたんだから責任を取って下さい、と言わんばかりに。


「…なんて、こんなことをいっても、せんぱいは『行く』んでしょう。

いまのこくはくだって、うやむやにして。

いいですよ、いけばいいじゃないですか。

もししんだって、みとってあげませんからね」

「…ああ、行ってくる」


「またあいましょう」

「じゃあな」

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