表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
新章、ルルリエノ章
231/235

カッファルスと名乗る存在

 “遠い、遠い、凄まじく遠い昔。

争いが絶えず、終わったとしてもまた次の戦争が起きていた頃。


神ノ国より凡そ二千八百里程離れた場所に、一人の存在が産まれた。

現代では、「大いなる御方」と呼ばれる存在の、先駆けとなった物である。


 様々に脚色された伝説の内、真実のみを書き出すならば。

弱冠九つの時、キティミラで起きていた八つの戦争を止め、またその調停者として名を挙げた。

十二の時、一人目の使い“ヴァルプス”を生み出す。

それより一年の時を経、二人目の使い“ザバーニヤ”を生み出した。

それから一年毎、一人ずつの使いを生み出し、最後に生み出されたのが、マルドクルスであった。


 そして、大いなる御方、その生の絶世となった──三十二の時である。

キティミラに、蛇の手が伸びていた。

大いなる御方はただ一人でこの蛇に立ち向かい、これを打ち倒す。

ルルリエの大地約八割を犠牲に蛇を跡形もなく消し飛ばし、打ち滅ぼした。


 そうして、蛇を滅ぼした後に残ったのは、隕石でも落ちたかの様に凹んだ地形と焼け焦げた大地。

大いなる御方が愛した森もなく、川もなく、海も無い。


 そうして、自分の過ちに気づいた頃。


 大いなる御方は、贖罪の旅へと赴いた。

蛇を退けたは良いものの、失った代償はあまりにも大きかった。


ここから約十年もの間、大いなる御方の伝説は途切れる。

次に見つかった物は、そのどれもが後悔に満ちていた。


晩年、大いなる御方と呼ばれた者は悔いの念に苛まれ、病床に臥しながらも、キティミラの事を最後まで思っていた。


そして、大いなる御方亡き後。

“彼”に仕えていた御使い達は一斉に反旗を翻す。


 水が、糸が、大地と緑が、光が、死が、夢が、血液が、金が、火が、狂気が。

その全てが、ルーミラの人々に襲いかかった。

大いなる御方の憂慮虚しく、御使いは最後まで人の心を知る事は無かった…”


 とまぁ、こんな感じ!と隣でやけに騒がしく語るのは、先ほど燃えながら二つに分かれた筈のカッファルス。

授業中という事もあり、無視を決め込んでいると何やら話し始めた。


“…御使い達は知る由も無いだろう──”


まだ続くのかよ。


──────────────────────


 それから。

約三時間ほど耳元で話し続けるカッファルスを無視し続け、ようやく帰寮の時間となった。


ガチガチに固まった腰を叩きながら、授業で使った紙篇を閉じ鞄に詰め込む。

大きく伸びると、骨が音を立てる。

鞄を肩に担ぎ、帰ろうとしたその時だった。


“おや、何か来ますね”


ぶわり、と体を汗が流れる。

ふと、中庭に目をやると、死装束の様なものに身を包んだ人が立っていた。


 これは勘だ。

決定的証拠も無ければ、それがそうとは考えずらいが。


 目が、合った。


心臓が跳ねる。

足に力を加え、“音に乗る”。

人混みの隙間を縫う様に走り、一刻も早くあれから逃げる。


「…he1l0」


耳元で声が聞こえた頃には、もう手遅れだった。


──────────────────────


 まずい。まずいまずいまずいまずいまずい…。

彼が、捕まった。

何故?何故?何故?何故?


考えろ、考えろ私。

彼は何をした?なんであいつがここに来る?

これまでヴァーハレイン学院には来なかった筈だ。


 唇を噛み、出血する事も厭わず。

赤く染まった部屋で、ヴァーミリオンは頭を掻きむしる。

出不精な事が祟った体は、それだけの運動ですら疲労を生む。


蔓の一本が震え、ヴァーミリオンに何かを知らせる。


「トールか?何が──」

『やぁ、ヴァーミリオンさん。こんにちは』


 蔓を通して耳に入るのは、彼を攫った人物。

“そうでなくてほしい”とすら思うほど、それは最悪だった。


「…サクリフェル…さん」

『……そう、だよ』


最悪。最悪が、蔓の向こうにいる。

今の鳴渡では歯が立たないのも仕方ない。

壁が何枚どころの騒ぎではないほど、差があるのだから。


「…なんの真似ですか」

『…今から話す事は一方的な言葉だ。返信、質問は受け付けない』


『──nありwaたりわaづかliま死た。』


その声を最後に、蔓は切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ