北条光〜肆〜
放課後、ふと先輩の声が聞こえ隠れる。
私は『もしかしたら先輩の弱みとか握れるかも?』とか考える。
「さ…ね、…つ…さ…」
「い…ま…よ、き…に…だ…も…し」
よく聞こえ無いな…
バレない様に近づこう、バレても許してくれるでしょ!先輩なら。
「でも、…ですよ!」
「そ…か?そうい…と…しいよ」
もう少し、近くに…
「す…き…です…」
「ふ…う…しいよ」
え?今何て?『好きです』?
これは…特大級の弱みじゃないですか〜!
(しっ、こっち来る!?)
さながらスパイ映画に登場するスパイの様に物陰に隠れる。
先輩と『お相手様』が通る。
「今日はありがとうございました」
「いやいや、此方こそありがとうね」
緑の髪留め…三年生ですか。
先輩は年上好きっぽいっと、メモメモ。
顔は…あ!泣きぼくろ!先輩そういうのが好きなんですかね?
髪は真っ黒の尼削ぎ、何というか、『清純』というイメージ。
「また何かあったら、気兼ねなく呼んでくれ」
「あ、ありがとうございます…」
先輩ちょっと辛そう?
やっぱり女性苦手なんですかね?
「じゃ、また」
「お疲れ様でした」
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(豊作も豊作!大豊作ですよ!)
メモした三年生先輩と先輩の会話。
『好きです』。
この一文だけでも特大スクープだ。
あの如何にも『友達いりません』みたいな先輩に好きな相手が居たなんて!
「うへへ…」
今の私は恐らく歪んだ笑みを浮かべているだろう。
笑っているのを隠そうと、無理矢理口角を下げているのだ。
「これから何頼もっかな?」
恐らく先輩は何でも言う事を聞いてくれる。
この音声さえあれば、どんな無茶振りでも聞かざるを得なくなる。
『光ーご飯出来てるわよー?』
「はーい!」
どうやら考え事でだいぶ時間を潰してしまったらしい。
(待ってて下さいね先輩)
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朝、登校時間。
先輩の家の近くに張り込み、餌を待つ肉食獣の様に待つ。
ガチャという音と共に先輩が家を出る。
あくまでも『偶然』を装い、先輩に話しかける。
「せーんぱーい!」
「ん?」
今回は一度目で反応してくれた。
ホッと胸を撫で下ろし、早速本題に移る。
「今日、一緒に帰りませんか?」
「…別に良いけど」
よし!場は固まった!
「じゃあまた!放課後に会いましょう!」
「おーじゃあなー」
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「てな事があってさー」
「へー」
興味なさげに私の話を聞くのは唯一の友達の花。
何というか所謂『遊んでいる』様な格好をしている為『そういう事』に良く誘われるらしい。
「興味なさそうじゃん」
「…あのねぇ、友人の惚気ほどキツい物は無いよ?」
のろけ?誰の?と顎に手を当て考える素振りを見せる。
こうすると男ウケが良い。
「何って、あんたとその例の先輩の」
「違うよ!?」
「あー?違うの?」
「い、今の目的は私に恥を描かせた先輩に報復する為でその為に先輩をストーキングしたり、回り込みして待ち伏せしたり、先輩の好きな人とか、得意なタイプとか、別に──」
「ああはいはい分かったよ、も十分に伝わったから」
絶対に勘違いしている。
何か言っている花を尻目に考えに耽る。
(先輩は頼まれたら『断らない』じゃなく『断"れ"無い』んだ、だから私の要件も受けてくれたのかなぁ)
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『ちょっと、そこの』
『…』
『アンタだよ』
『俺ですか?』
『そうだよ』
『何かしました?』
『ちょっと手が足りなくてね、手伝ってくれないかい?』
『…良いですよ』
『おーいそこの坊主!』
『…』
『おめぇだよ!』
『俺ですか?』
『ちょっち腰をやっちまってな、物運ぶの手伝ってくれねぇか?』
『……良いですよ』
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(私が少しでも手伝ってあげれば良かった)
「そういやさ」
花がポツリと呟く。
「あんたってその先輩の話する時、すんごい元気だよね〜」
「…へ?」
一瞬何を言ってるのか分からなかった。
実際そんな事は無い。
「いやさ?何つうかこう『生き生き』してんだよね、その先輩の話になると」
「そ、そう?別に意識してないけどなぁ」
じゃあ無意識なんじゃね?とか曰う友人を放置し、
今日の計画を練る。
(今日こそ…先輩に恥を描かせてやる!)