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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
新章、ルルリエノ章
229/235

喧騒、後に

 まだ朝日も昇りきらない朝に、新聞を抱えたものたちがルルリエ中を走り回る。

ひどく慌てた様子で、尚も丁寧にルルリエの家一軒一軒に新聞を運び入れる。


Extra!(号外)Extra!」


その号外は人の噂に乗り、話し声に乗り、音に乗り、ルルリエ中を駆け巡る。

ルルリエ政府管轄、“m(対怪物).a(殲滅).o(機構)”の発表に寄れば、「秘匿されていた十二番目の情報が湧き出す様に現れた」との事だ。


信心深い老人や教会関係の人間は勿論、あまり興味の無い若者ですら、それがどれだけの事か理解していた。


 十二番目の神使。

名を──マルドクルス。

大いなるお方に仕え、“最後まで”大いなるお方の味方であったとされる。

司る力は、“狂気”。


マルドクルスについての噺は二つあり、どれも司る力を扱うのは同じで、違うのは“飲まれたか”“克服したか”の二つに分かれる。


だが結末は変わらず、“最後”は大いなるお方を守りその生涯の幕を閉じる。

そして、


いまだに、神使としての後継者は見つかっていない。


──────────────────────


 「…なんだ、コイツ」


大太刀を背負った存在が残る二つに声かける。

「はて、なんやろね?」

「…知らん、と、思う」


残る二つは、両方ともそれを知らない様だった。

暗闇の中に鎮座する、三つの社。

そして、そこに割り込む様に現れた、繭のような物体。


それは白く輝き、何処か脈動している様で。

三つの神経を強く刺激し、警鐘を鳴らさせていた。


──────────────────────


 目を覚ますと、既に朝日が昇りかけていた。

寝ぼけ目を擦り、どうにか立ち上がると、白い鳩が数羽飛んでいった。


「…どうしよ、今から帰って寝るのもな」


頭を掻きながら、折角だし、という事で学院内を探索することにした。

何故俺がいたのに鍵が閉まっているのかとか、そういう事は考えない事にした。


食堂、上級生の講堂、下級生の講堂…手にした地図を頼りに、学院内を歩き回る。


「…終わった」


特に面白いものも無く、学院の探索も終わり。

中庭に腰を下ろし空を眺める。

暗い空も、朝に照らされ段々と明るくなっていっている。


 なけなしの金で買った紙の飲料を飲み、口を潤す。

明るくなっていく空を眺めていると、何かが飛んでいった。

それは、白い稲妻の様な物を迸らせ、急旋回をすると鳴渡の目の前に降り立つ。


その姿は、先程まで戦っていたナニカによく似ていた。

瞬間、体を緊張が襲い、瞬時に戦闘体制をとる。

手甲を嵌め直し、拳を握る。


 息を吸い、酸素を取り込む。

足を前後に開き、すぐに回避行動が取れる様に構える。


 “落ち着きなさい。争う気は有りません。”

「っ!?」


 頭に響く、声。

女性の様で、男性の様でも有り、年老いても聞こえるし、若い声の様でもある。

掴みどころの無い声は、恐らく目の前の存在が発しているんだろう。


“私は、…そうですね、今はカッファルスと名乗っておきましょう。”


カッファルスと名乗った目の前の存在は、それこそ、あのステンドグラスと遜色ない神々しさを持っていた。


“…あの、聞こえてます?キティミラ語は話していませんが…”

「…キティミラ語?」

“ええ、キティミラ語ですよ。ここの公用語でしょう?”


神々しさは訂正するかもしれない。

あれ(ヴァーミリオン)と似た雰囲気を、目の前の存在から感じ取ってしまう。


“早速ですが、鳴渡さん、ですよね?”

「…」

“…沈黙は肯定と受け取りますよ?”


 目の前の、カッファルスと名乗る存在が、いまだに話しかけてくる。

そも誰もと何ともわからない存在に、快く了承出来るほど俺は人間が出来ていない。


“…では、改めまして…”

「鳴渡さん、貴方は器に選ばれました」


「…器?」

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