喧騒、後に
まだ朝日も昇りきらない朝に、新聞を抱えたものたちがルルリエ中を走り回る。
ひどく慌てた様子で、尚も丁寧にルルリエの家一軒一軒に新聞を運び入れる。
「Extra!Extra!」
その号外は人の噂に乗り、話し声に乗り、音に乗り、ルルリエ中を駆け巡る。
ルルリエ政府管轄、“m.a.o”の発表に寄れば、「秘匿されていた十二番目の情報が湧き出す様に現れた」との事だ。
信心深い老人や教会関係の人間は勿論、あまり興味の無い若者ですら、それがどれだけの事か理解していた。
十二番目の神使。
名を──マルドクルス。
大いなるお方に仕え、“最後まで”大いなるお方の味方であったとされる。
司る力は、“狂気”。
マルドクルスについての噺は二つあり、どれも司る力を扱うのは同じで、違うのは“飲まれたか”“克服したか”の二つに分かれる。
だが結末は変わらず、“最後”は大いなるお方を守りその生涯の幕を閉じる。
そして、
いまだに、神使としての後継者は見つかっていない。
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「…なんだ、コイツ」
大太刀を背負った存在が残る二つに声かける。
「はて、なんやろね?」
「…知らん、と、思う」
残る二つは、両方ともそれを知らない様だった。
暗闇の中に鎮座する、三つの社。
そして、そこに割り込む様に現れた、繭のような物体。
それは白く輝き、何処か脈動している様で。
三つの神経を強く刺激し、警鐘を鳴らさせていた。
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目を覚ますと、既に朝日が昇りかけていた。
寝ぼけ目を擦り、どうにか立ち上がると、白い鳩が数羽飛んでいった。
「…どうしよ、今から帰って寝るのもな」
頭を掻きながら、折角だし、という事で学院内を探索することにした。
何故俺がいたのに鍵が閉まっているのかとか、そういう事は考えない事にした。
食堂、上級生の講堂、下級生の講堂…手にした地図を頼りに、学院内を歩き回る。
「…終わった」
特に面白いものも無く、学院の探索も終わり。
中庭に腰を下ろし空を眺める。
暗い空も、朝に照らされ段々と明るくなっていっている。
なけなしの金で買った紙の飲料を飲み、口を潤す。
明るくなっていく空を眺めていると、何かが飛んでいった。
それは、白い稲妻の様な物を迸らせ、急旋回をすると鳴渡の目の前に降り立つ。
その姿は、先程まで戦っていたナニカによく似ていた。
瞬間、体を緊張が襲い、瞬時に戦闘体制をとる。
手甲を嵌め直し、拳を握る。
息を吸い、酸素を取り込む。
足を前後に開き、すぐに回避行動が取れる様に構える。
“落ち着きなさい。争う気は有りません。”
「っ!?」
頭に響く、声。
女性の様で、男性の様でも有り、年老いても聞こえるし、若い声の様でもある。
掴みどころの無い声は、恐らく目の前の存在が発しているんだろう。
“私は、…そうですね、今はカッファルスと名乗っておきましょう。”
カッファルスと名乗った目の前の存在は、それこそ、あのステンドグラスと遜色ない神々しさを持っていた。
“…あの、聞こえてます?キティミラ語は話していませんが…”
「…キティミラ語?」
“ええ、キティミラ語ですよ。ここの公用語でしょう?”
神々しさは訂正するかもしれない。
あれと似た雰囲気を、目の前の存在から感じ取ってしまう。
“早速ですが、鳴渡さん、ですよね?”
「…」
“…沈黙は肯定と受け取りますよ?”
目の前の、カッファルスと名乗る存在が、いまだに話しかけてくる。
そも誰もと何ともわからない存在に、快く了承出来るほど俺は人間が出来ていない。
“…では、改めまして…”
「鳴渡さん、貴方は器に選ばれました」
「…器?」




