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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
新章、ルルリエノ章
222/235

埃に塗れて

 数ヶ月もの間、開くという動作をしなかったような扉を開ける。

地鳴りのような音と共に、無数の埃が太陽に照らされて光る。


 あの後トールを見つけて提案された手持ち式松明に火をつける。


…引火しませんように。


 無事に引火する事なく火がつき、階段を一段一段降りて行く。

真っ黒い石で作られた段は、登るのも降るのも一苦労だろう。

ヴァーミリオンさんはこんなところを毎日登っているのか?登山家もびっくりだろう。


まて、ならなんで扉はあんなに埃を被っていた?

開けた時、明らかに埃のない所とある所が見てわかったぞ。


 階段を一段一段降りて行く。

降りる度に実は戻されているんじゃないかと疑いたくなる程、先が見えない。


ふと、階段の壁にかかった看板のような物が目に入った。

文字は掠れてほぼ読めないが、何故か読める文字で書かれていた。


『こ──、────ず』


埃を払おうと看板に手を当てると、それは驚くほど冷たく、砕け散ってしまった。

床に散乱するかと思えば、空気中に塵となって消えてしまった。


触った感じは金属っぽかったが、違う物だったのだろうか。


 階段を降りる途中、幾つもの小部屋が目にはいる。

 一つは、正に豪華絢爛といったようなもので、金ピカの装飾に、扉の隙間からは焼けた肉のような匂いがした。

 また違う扉は、血液のような液体がこびりついていた。

扉は鉄のような物で作られていて、匂いは一切しなかった。


 降って行くにつれ、階段の色が変わっていく。

入った地点は黒い四角形の物で構成されていたのに対して、いま足がついている段は鉄のような物で出来ている。

そして、壁を覆う一面の蔓。

光が届いている訳もないのに、それは七色に光っている。

これも、途中から出てきた物だ。


 既に何百段と降りてきたのに、一向にヴァーミリオンさんの部屋は見えない。

今まで通り過ぎた部屋の何処かがそれなのか?


豪華なやつか?それとも血塗れなやつ?候補は幾つもあるといえ、だがそのどれもが人の雰囲気を感じなかった。


まだ、下に行くのか。

こんなに長いとは思ってなかった。


 そして、灯りが一つ、そして孤独。

それは、鳴渡の精神を徐々に蝕んでいた。


 浅くなる呼吸、青ざめていく顔、震える手。

揺れる灯り、真暗闇、震える足。


深く呼吸をする。

息を吸い、吐く。

足を踏み出し、心を落ち着かせる。


 壁に手を沿わせ、階段を降りる。

そして、もう何段降りたか分からなくなった頃。

広間的な所に、俺は着いた。


吊るされたついていない灯り、錆かけている鉄柵、カビの臭い。


そして、こちらを凝視する、一つの目。

身長は俺より少し大きいくらい、歳は分からない。

心音は驚くほどゆっくりで、落ち着いているのが聞いてとれる。


そして、その奥に一つ、扉らしき物が見える。

恐らくあれが、ヴァーミリオンさんの部屋なのだろう。


多分、そのまま通してくれる訳もない。

戦うか、右に回って帰るか…


「Welcome」

「あ?」


声からして、そいつは男だ。

だが、青年って感じじゃない、もっと年老いたような声だ。


恐らく年齢は五十〜六十五程度、所謂、“老兵”ってやつなのだろう。

ルルリエは歴史上戦争が多かったと聞く。

そのルルリエで、こんな年齢まで生き残っている。


一癖も二癖もある人間なのだろう。

証拠に殺意を隠そうともしない。


だからこちらも、出せるだけの戦意を見せてみる。


 男の目が少し動く。

それが鋭く光ると、一斉にそこの明かりが灯された。


距離にして、約六十米程、扉の前に、男は立っている。

杖をつき、こちらを見ながら。


「…なぁ、通しちゃくれねえか?」

「…」


こちらと話す気はさらさら無いのか、だんまりを決め込み、こちらを見続ける男。


不意に、後方から殺気を感じた。

体を捻り、右方向に動く。


骸骨の様な何かが、俺の立っていた場所に剣を振り下ろしていた。


「That's excellent.」


…多分、こいつは会ったことのない人間だ。

戦う人間じゃなく、殺す人間だ。


「…すんません、黙さん」


カチリ、と、武装の制限を解除する。


「…やらなきゃ、やられるよな」

「…come on.」

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