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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
新章、ルルリエノ章
215/236

悲しい歌声

 「…」


 ルルリエにきて四日目の朝、俺の身にとある事が起きた。

それは、昨日の昼食まで遡る。


 相も変わらず、友人の一人も出来ずに昼飯を食べていた。

言語を覚えられるほど長く滞在する訳ではないので、まぁこれでいいかと考えている。


問題は、食なのだ。

神ノ国の食事は、比較的質素な物だ。(ルルリエと比べて)

蘿蔔の漬物や、炊いた粟、鮎が並ぶくらい。

そして、問題のルルリエ食は…。


揚げた豚肉!揚げた小麦!揚げた豆!揚げた馬鈴薯!

出された物は残さず食べようと誓っていたが、腹に重いものをくらってはどうしようもなかった。

料理全てに凄まじい量の油を用いているため、一口食べる毎に胃が悲鳴を上げる。


そして、昼飯というのは頗る大事なもので。

食べないと力が出ない→力が出ず腹が空かない→重いルルリエ食が胃に入らない→食べないと──と、悪循環を生み出している。


 学食が合わないと知ったので、昼食を食べに街へと繰り出した。

宵崎さんに相談したら「…分かるよ、僕は未だに神ノ国から仕送りしてもらってる」と真っ白になっていた。


いわゆる、めいんすとりーとと呼ばれる場所には、様々な露店が並んでいた。

が、その凡そ八割が揚げ物!神ノ国人の胃腸とは壊滅的に相性が悪い。


「…お、なんだこれ」


見つけた店の名は、“龍咆”。

いかにも神ノ国っぽい店名ではあるが、なぜルルリエに…と疑問に思っていた。


その日は昼食をそこに決め、龍麺と呼ばれる物を食べた。

蕎麦のようでどこか違うその料理は、普通に美味しかった。


そして、時間は現在へと押し進められる。

鳴渡響、本日三回目の厠。


「…拙い、非常に拙い」


腹を押さえながら、どうにか出し切るのを待つ。

待てども待てども出てくるのは水だが。


一限の時間が朝の九時、現在時刻七時十七分。

そして、腹の水は止まることを知らない。


「…怪しい店のもんなんか買うんじゃなかった…」


グギュルルと、秋実の大渦のような音が腹から鳴る。

ここに入ってから一時間、未だに立つことすら出来ずにいた。


──────────────────────


 「…それで、遅刻した。と?」

「…はい」


俺が頭を下げる先にいるのは、宵崎さん以外に唯一神ノ国語を話せる人。

名前をビナーレスさん、ルルリエ語で“美しく咲く花”という意味らしい(本人談)。


「…まぁ、仕方ないよ、そーゆー話はよく聞くからね。これに懲りたら、怪しい店のご飯は食べちゃダメよ」

「…はい、気ぃつけます…」


そうして、遅刻した理由を説明し終わった後、教室へと向かう。

一人誰もいない廊下を歩くのが、こんなにも寂しいとは。

釘刺は元気だろうか、空見は怪我などしていないだろうか。


秋元学長は絶対にぶっ飛ばす。


そうして、俺が人知れず決意を固めた時だった。

眼前から、とてつもない気迫を感じた。


浮かび上がるのは、自身に向けられた百を超える銃身。

そこから今にも弾丸が飛んできそうな、一触即発とも取れる、殺の雰囲気。


全身が粟立ち、本能と理性が逃げろと警鐘を鳴らす。


「la」


そんな気迫を感じた方向から、歌声が聞こえた。

あの時と同じ声が、俺の耳に届いたのだ。


「My beautiful(  美しき  ) mother( 母よ ), Why are(  何故  ) you crying(泣いているのですか)?」


歌っていることは一つもわからない。

だけどもこれは、どこか悲しい歌なのだろう。

歌っている声が、どこか悲しげだった。


「Is the child(  子供が  ) so(それほど) fright(   恐ろ)ening(しく    ) and ugly?(醜いのでしょうか?)


なにか、とても悲しい声だった。

自分を責めるような、そんな声が。

とても聴いてられる物じゃなかった。


「…」

「…Hello, p-person from kanokuni.」


その人は、背に六つの翼を背負った人だった。

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