ステンドグラスの陽
結局、その後は誰も帰って来ず一日が終わった。
何かサボってしまったのだろうかという罪悪感と、知らなかったからしかたなくね?という“俺悪くない精神”がせめぎ合っている。
「このまま帰って、晩飯は…」
──ふと。知っている音が耳に入ってきた。
微かながらに聞こえた、あの時助けた人の声だった。
どうせこのまま帰っても時間を無駄に食うだけだと、声の聞こえる方に歩き出す。
人の隙間を抜け、人混みをするりと通り抜け。
ついた場所は、よく分からない施設だった。
装飾の施された柵、だが蝶番が錆びているのか嫌な音を立てる。
三角の屋根に、十字架の刺さった家だった。
「…ここ、か?」
木製の扉を開け中に入ると、長い絨毯の様な物が敷かれ、幾つもの長椅子が置かれていた。
そして、見惚れる様な、とても綺麗な、色沢山の飴でできた絵のような物。
『…Can I help you?』
「あっ、えっ?」
いつの間にか、後ろに立っていた人に声をかけられた。
それほど、俺はあれに見惚れていたのだろうか。
「…」
『…Um, Are you okay?』
まずい、とてもまずい。
声色から何かこちらの心配をしてくれているのは分かるが、何を言っているのか分からん。
神ノ国から出ることないと思ってたし…真面目にルルリエ語勉強してればよかった…。
『…』
「…あ、あいむ、しにあすくーるはいすちゅーでんと!」
『…well! senior High school students!』
なんとか伝わった、のか?
相手の人もどこか雰囲気が柔らかくなった気がする…か?
切羽詰まっていて気づかなかったが、俺に声をかけてくれた人の後ろに子供がいた。
『…Mike, say hello?』
『…Hello』
「…は、はろー?」
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シスターと名乗る人の案内で、教会と呼ばれる場所を案内してもらう事になった。
俺が見惚れていたのは天使だか神だかを模った、“ステンドグラス”という物らしい。
ちなみに、マイクと呼ばれた子供はずっと俺を睨んでいる。普通に怖い。
『──This is why God returned to heaven after creating us.』
「…なるほど」
とまあ話半分に聞いてはいるが、要所要所の単語のおかげで分かる。
今の話も、なんで神様を信仰するのかの説明なんだろう。
そして、ここにきた目的も、そのおかげで思い出せた。
あの声、あの透き通った声。
それの出所を確かめにきたんだった。
「…あー、でぃどゆーひあーざしんぐいんぐあらうんどひあ?」
『…Is it a singing voice?』
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あの後、突然対応が冷たくなったシスターさんに教会を追い出された。
ルルリエでは歌は何か禁句の様な物なのか?
「…てか、もうこんな時間か」
少し急ぎ足で、俺は帰路についた。
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「…ヴァーミリオン様、遂に見つかりましたわ」




