表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
赤く、黒く、白い物語。
207/235

“私たち”のお話。

 赤い閃光が肉体を切り刻む。

 黒い稲妻が私たちを切り刻む。

 視界も、音の聞こえる方角すらも真逆になった。


癇癪を起こした子供のように、化け物(わたし)は腕を振るう。

泣き喚き、のたうちまわり、暴れ回る。


体の主導権をほぼ奪われ、何もできないのを、化け物(わたし)は泣き呻く。


理性など当に消え失せ、ただ一つの目的を達成する為、化け物は生きる。


「──オ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!」


化け物が天高く吼えると、切り刻まれ飛び散った肉体が呼応し、一つの刀となる。

それは偶然か、鳴渡の中にいる神の刀に似ていた。


──────────────────────


 彼の記憶を見た。

暴力を振るわれている彼を見た。

不当な扱いを受け、誰一人として信じられない頃の彼を見た。


 彼の姿を見た。

常に痣があり、幾つかの場所の骨は折れていた。

幾つもの切り傷と、皮が剥がれた様な跡があった。


 彼の根幹を見た。

それは殺戮から始まり、終わることのない怨嗟に埋め尽くされている。

涙を流すという機能を喪ったように、彼はただ笑っていた。


 彼の周りを見た。

気に食わないからと彼に暴力を振るう男がいた。

彼を無視し、あまつさえ彼を裏切った女を見た。


 幾つもの彼を見た。

死に、不随となり、怪物と成り果て、人格を削ぎ落とされ。

時には殺され、死体でもって愛され。


救う方法を探し、ようやく至った。


私達こそ、彼を救えるのだと。

私達こそ、彼の隣に立つに相応しいのだと。


『──えぇ、これこそ』


『新たな、“私達の誕生”です』


私達こそ、彼を外敵から守れる唯一の存在なのだから。


──────────────────────


それは白い光を纏って、天から注ぐ光を一身に浴び、成った。

それはもはや不定形ではなく、まるで一人の人の様に、手足を持ち、地上に降り立った。


「私たちは、生まれ変わったのです」


身の丈三倍ほどの太郎太刀を背負い、地に足をつける様は酷く様になって。


「これで漸く、貴方に会える」


それは目を閉じると、左右からの斬撃を躱し、お返しにと太郎太刀を振るい辺りに斬撃を飛ばす。

ぐるりと振るわれた太刀は円を描き、黒と赤に致命傷を負わせてみせた。


「逢瀬の前に、邪魔者を消すとしましょうか」


それは人とは思えない笑みを浮かべ、闘いを楽しんでいる。


それは漸く、人になれたのだろうか。


──────────────────────


 『いいかい、響くん。君に幾つかの秘訣を教えよう』


俺は一人、ここに来る前の学長からのありがたい教えを思い出していた。


『君はまだ術士としては卵だ。一人でなんでもできるという考えは捨てなさい』

『それに、君の周りには幸か不幸か強者が何人もいる。彼彼女らを存分に頼るといい』


恥なんて言ってる場合じゃない。

次の瞬間には俺が死んでいるかもしれない。

山の主なんて比じゃないくらいの危険なんだ。


「頼んました!天童先輩!」


大声で叫ぶと、遠くの方から任せな!と少し耳鳴りがするくらいの音で返された。


音の力を足に乗せ、一歩踏みしめるごとにそれを爆発させる。

すると音の速度までは行かないが、まあまあ速く移動できる。


「室呂先輩とは連絡取れないし、龍笠の奴は未だ海外だし…」


足りない頭を必死に働かせ、今できる最高を考える。

光明をどうにか掻き寄せ、一つ二つと答えを探す。


あら、楽しそうやねぇ。


頭に反響する、声。

それは波のように揺れ、俺の意識に覆い被さる。


「…大嶽の阿保がやっとるし、ま、ええでしょ?」


金髪、九つの白い尾、赤い瞳、長く伸びた犬歯。

鳴渡が本来扱えない、雷の術式。


バチバチと弾けるそれを、弄ぶように鳴渡は天へと打ち上げる。


「さ、力を貸したげる。(ひびっ)くん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ