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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
赤く、黒く、白い物語。
202/234

(2)。話のい白、く黒、く赤

報告書、No.57

現在収容できていない存在について。


エリア1における、現在収容不可とされる生物、観測された異常、事象は以下の通りです。※“現時点”の物となります。


・■■に存在する、自在に姿を変える村。

 存在は確認されており、また村人と思われる生命体との交流も可。

 だが現在に至るまで収容の目処は立たず、未だ観測、接触のみを可能としている。

 村人は狐の面をつけており、“■■■■”という存在を信奉している。


・神住地に存在する存在。

 回収、捕獲を試みるも、エージェントや捕獲員が不可解な死を遂げた為断念。

 また無事に帰還したものも重篤な精神疾患を患い、譫言を呟くようになった為、高度の記憶処理を施されるに至る。


・神の血。

 名は体を表す様に、どの様な用途でも体内に入れば超人的膂力や知能を手に入れられる仙丹の様なもの。

 神ノ国中を探し回るが、発見に至らず。

 

・■■の■。

 存在こそを示唆する書物文献等あれど、未だ発見に至らず。

 また人の手に渡る事をそれそのものが拒否していると言う説も上がっている。

 


──────────────────────


 「…うっひょ〜、ここ入んのやだ〜」


 埃、カビの匂いの充満するハッチをこじ開け、鼻を擦りながら男は愚痴を吐く。

この男、性を天童(あまわらべ)、名を(しかり)という。

依頼が終わり、暇を満喫していた所、室呂からの鬼の様な連絡に折れ、鳴渡の救出に来ている。


「くっら、寒っむ、臭っさ…やる気失せるわ〜」


 元々やる気も無いだろうに、何が失せると言うのだろうか。


 天童は地面に十の指を付けると、地下の様子を探る。


「──鳴渡らしき反応が無い?あん時の気配とは変わってるかー?」


天童がとりあえずと足を踏み出すと、途端に地面が腐食し酸で満ちる。

天童はそれを間一髪で回避すると、これから起きるであろう事に辟易としながら、笑った。


「まじか、まじか!大当たりかもじゃん!」


──────────────────────


 黒は、外敵を察知していた。

外敵の行き場を溶かし、腐敗させ、幾つもの収容生物を解き放つ。

それでも止まる事なく進み続ける外敵に辟易としながら、ただ一つ、眉間に皺を寄せた。


 白は、外敵に鉢合わせる事なく、数多の道を塞いだ。

退路を断つ様に、唯一の道である螺旋を破壊し、外敵である存在が到達できぬ様に。


 赤は、最終手段である扉を創っている。

扉とは入り口で有り、出口でもある。

それは黄昏に繋がっており、出口は辺獄へと続く。

赤と白と黒が混じり、“一つ”となる為の最後の部品なのだ。


三つの存在それぞれが、今から押し寄せる何かを。

恐れ、畏れ、怖れる。

人を遥かに超越し、人を遥かに飛び越し、人と隔絶された、完成されたと銘打たれたとて誰も否定しないであろう赤、黒、白が。


──────────────────────


 施設を走り回り、怪物の攻撃を避けながら、天童は鳴渡の影を探す。

この状況を、天童は楽しんでいた。

十傑第十席ともなると、回ってくる依頼はその辺の奴らにでも任しておけばいい様な簡単な物ばかり。


まあただでさえ生存確率の低い術士界で、それ相応の強さを持つ神園学園の十傑や氷皇の三士は、失ってはならぬ宝なのだ。


「──はぁっ、はぁっ」


肩で息をしながら、歩みを止めず。

猛烈にふらつく頭をなんとか抑えながら、思考を止めず。

それそのはず、今の天童の脳内は、一つの感情で覆われているからだ。


それは、楽しいという感情。


雑多に湧く雑魚や、態々十傑が出向くほどでも無い依頼ばかりで埋め尽くされた日程を終え、これほどの物が待っていた。


「──やっぱ、俺、神にっ、愛されてる〜!」


顔を喜びで満たし、自らの手にかけようと襲いくる怪物どもを往なし、躱し、打ちのめす。

腐っても十傑第十席、術を使わずとも小妖程度なら軽くあしらえるのだが、流石にそれだけでは十傑に名を連ねられる訳もなく。

室呂の銃術、二位の圧倒的霊力、神無月の斬術。

それに並ぶほどに恐れられ、また頼られる天童の“独自の術式”。


その名を“反転”。

動きを静止に。敵意を好意に。

炎を氷炎に。死を生に。

あらゆる物をそっくりそのまま逆さまにする。

立ち位置を、上下左右を、敵味方の区別さえも。


「──こっちから、匂いがすル」


嗅覚が異常発達しているわけでも無ければ、五感を強化する術式も無い。

他者から判断するのであれば、第六感、直感が最も近い表現なのだろう。

“匂い”と天童は云うが、それは謂わば、“こっちの方が面白そう”、や“こっちに行けば(とびつけば)より楽しいだろう”という感覚が進化した物である。


問題事に兎に角首を突っ込み、死の淵に立つ事幾数十回。

研ぎ澄まされた“問題事”を嗅ぎ分ける嗅覚(センス)

そうして、荒波に揉まれ、業火に焼かれ、豪雷に打たれ、ようやく身についた“生存本能”。


「──っ!」


飛びついてはいけない、毒の餌。

涎滴る様な芳香を放ち、目を奪うほど美しく、心惹かれる様相を体しながら、一度飛びつけば煮えたぎる坩堝に叩き落とされる様な。


「ゲテモノばっかだなぁ…そういうの…大好きなんだわ」


口角と瞳を三日月の様に尖らせ、目の前の毒餌に向かい、立ち直る。

鬼も蛇も、今の天童には筆舌に尽くし難いご馳走なのだから。


「ひゃっほぉーっ!さいっこー!」


──────────────────────

※以下の報告書を閲覧するには──

──────────────────────


         報告書No.■■■■

  #000000.#f5fffa. #dc143c.の処分について。


危険度をレッドからブラックへの繰り上げが承認されました。


処分方法ですが、■■への引渡しが計画されていました。

■■を殺害し、上記三つの生命体は未だ逃亡を──

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