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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
赤く、黒く、白い物語。
199/208

白いお話。(2)

報告書No.178 エージェント木末村について。


エージェント木末村(以降kとする。)、本名木末村聡。

笠平出身の三十五歳、山羊座申年。

また、唯一キュカルスと会話できる存在として最重要機密として扱われる。


またその体質からか精神汚染にも強い耐性を持ち、No.508や068の効果をも跳ね除けた。

この事から三度によるカウンセリング、対照実験が行われたが、視力、聴力ともに一般人と遜色なく、味覚や触覚、嗅覚が特異に発達しているわけでもなかった。


また動植物の声が聞こえるというエージェント元村の件もあり、No.073の収容室に入れたが、声は聞こえなかったようだ。

(元村はNo.073の収容室に入ると頭を抑えてうずくまるほど)


kをL部門に向かわせ、実験にかけることが決まった。

L部門は良くも悪くも怪物ばかりだが、彼がそこに馴染めることを願う。


           809年著

              dr.葛城


──────────────────────


 あれは、ある晴れた日。

小鳥が囀り、川のせせらぎまでも聞こえるような、のどかな日。

私達が囚われていたある施設は、音を立てて崩壊した。

要因は分からない。

外の世界の出来事なんて、知るよしも無いし、知ろうともしなかった。


はっきりと覚えているのは、真っ赤な暴力が吹き荒れていた事。

それに対抗するように、黒い蛇の様な人間が争っていた事。

日が三度昇り月が三度沈む頃、真っ赤な暴力が、燃料が切れた様に動かなくなってそれは終わった。


その後、片腕の取れた蛇の様な人間は姿を消し、その場には色を喪った抜け殻だけがあった。


私達は先の戦いで学んだ。

“何かを守るには、脅威それ以上の力で捩じ伏せればいいのだと”。


赤は生み出す命を強靭に、黒は腐敗の力をより強く。

私は浄化をより清らかに。

外敵より自らを守るため。

外敵より赤と黒を守るため。


全てを、守るため。


          悪には罰を。

          罰には刑を。

          刑には恐怖を。


二度とそれを破るものが出ぬ様、厳しく、重く。

恐ろしく、惨たらしく、悍ましく。

必要以上の罰によって、漸く彼らは学ぶのだから。


──────────────────────


 鳴渡響です。

俺は今現在、質問攻めに合っています。

外の情報がそんなに珍しいのか、目の前の赤い粘体は興味津々に俺の話を聞く。

そんな赤い粘体を、白い人型の何かが微笑みながら見守る。


 俺は何をしているんでしょう。

妖を鎮めに来て、未だ妖のあの字も掴めず、ほぼ監禁状態。

おまけに足の皮が爛れ、歩くこともままならず。


俺の話を聞くうちに神ノ国語を覚えたのか、辿々しいながらも言葉を話せるようになる赤粘体に一抹の恐ろしさを感じながらも、断ったら何されるかわかったもんじゃ無い。


「で、俺はここに妖を探しに来てな」

「あ、やかtij?おjしいやつ?」


身振り手振りで意味を教え、それを瞬時に学ぶものに教えるのは、意外に楽しい。

妖の事は理解したく無いのか一向に覚えてくれないが。


「──鳴渡さん」


背後から、冷たい声が耳に入る。

その声ひとつで人すら操れそうなほど、それは色が無い。

微笑みをたたえながら、笑みとも睨みとも取れる顔で、こちらを覗き込むように。


「少し、お話ししませんか?」

「…はい」


──────────────────────


 室呂は悩んでいた。

目にかけている後輩の初任務、できれば成功に終わってほしいが、と。


「…」


十傑という立場上、一人の生徒を贔屓し肩入れする事は出来ない。

そも、“模範たれ”と常日頃から意識している室呂にとって、こう思った事こそ、珍しいのだ。

愛銃の手入れをしながら、ふと窓を見やる。

室外運動場では幾人の生徒が術の鍛錬をしている。


後の手入れが大変だな、と滅多な事を考えていると、過去に室外運動場に穴ぼこを作っていた鳴渡の事を思い出す。

いや、あの時穴だらけにしていたのは弁財教師だったか。


 磨いていた銃を壁にかけ、ふうと一息つく。

外から聞こえる騒音も、学園の日常と捉えれば幾分か楽になるものだ。

いつまで経っても一人も姿を現さない十傑達に業を煮やし、何度も時計を確認する。

長針と短針がそれぞれ十二と三を指し、会議の時刻を示している。


「──ふぅ」


銃磨きを再開しようと立てかけた銃を手に持った瞬間、扉が勢いよく開けられた。

扉の方を見ると、肩で息を吸う二年生がいた。


「…何の用だ、ここは立ち入り禁止だと「こ、校庭で、べ、弁財先生と、稲月先輩が!」…」


その時の室呂の表情は、筆舌に尽くし難かった。


──────────────────────


 「──もう三日ですよ、三日も帰ってきてないんですよ」

 「…三日なんざよくある事だろ?この程度で気にかけるとは、稲月家の御息女も随分焼きがまわったんだな?」


室呂が校庭に駆けつけると、鬼気迫る様子の稲月とそれを相手にする弁財を中心に人の海ができていた。

二人の放つ覇気に当てられ、幾人もの下級生が倒れていた。


「…」


室呂は胃薬を服薬すると、眉間を抑えながら二人へ向かっていった。

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