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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
赤く、黒く、白い物語。
198/235

とても赤いお話。

報告書No.255.0.0 (改訂版)

地獄について。 著、赤。


レグリアで起きた惨状を二度と起こさぬ為、概要をここに認める(したためる)

No.001、No.057、No.351は、それぞれ同じ部署に配置しないこと。

あの個体たちが何か名状し難い言語を発していれば、すぐに“扉”を見つけ、破壊すること。

破壊には、持てる全力をもって臨むこと。


レグリアでは、それを怠りのべ二百万の命が無に帰した。


現にレグリアに人は住めず、未だに数百年前の爪痕が残っている。

ああなった状態のあれは、核だろうとほぼ無効化する為、もしそうなったら神ノ国ごとしかない。


そして、ここからは私、“カレン”の個人的な能書きだが。

これを読んでいる、もしくは口頭で伝えられる者。

または、バケモノでも。


もし滅亡が迫ったら、非常系統255.0.0を開けろ。

たった一度だけ、たった一度、僅かに五時間程だが。


          私がでる。


──────────────────────


 俺は今、施設の中を走り回っている。

決して気が触れたわけじゃない。その線であってほしかった。


螺旋階段を駆け上がりながら、後方に音砲を撃ち続ける。

すぐそこまで迫る、恐ろしく悍ましいそれに。


 事の発端は、螺旋階段の終わりが見え始めた頃だった。

ようやく終わるのかという安心感と、俺に依頼を出しておきながらここまで姿を見せない依頼主に少し辟易としていた。


今思えば、その部屋は明かりがついていなかった。

緑、黄、赤と、これまでついていた明かりがない時点で、引き返すべきだったんだろう。

そんなことも気づかない俺は、のこのこと部屋に入り、辺りを捜索した。

結果、乱雑に散らされた“報告書”と、殴り書きされた手紙のようなものが散乱していた。

どれも、“たった今”書かれたような、たった今作られたような、新品のような物ばかりだった。


 目に映り、脳に刻み込まれる、“ニグラナ”の危険性。

そして“赤”、“白”と呼ばれ畏怖される存在がいること。


「なんだ、これ…」


今までの奴ら(本やさーべる)がちゃちに見える程、その報告書に書いてある事は恐ろしい。

“不完全な生命”、“混髄するエッセンス”、“管理方法”。

まるで何かの実験施設だ。いや正にそうなんだろう。


事細かに、その日起きたであろう惨状が書かれている。

“脱走”という単語が頻出するのに比例して、報告者内にある犠牲者の数も増えていく。


 俺があそこで見た抜け殻も、その“なにか”なのだろうか。

報告書内にある、脱走した生物か、あれが妖なんだろうか?


「──ここは、なんなんだ?」


入る時に感じたカビ臭さも、下に行くにつれ感じなくなった。

それを俺は、下に行くほど清潔なのだろうかと考えた。

何処かで聞いた話、多分翠泉さんだろうが、カビが生えるにも一定以上の栄養が必要らしい。

ここには、それすらもないのだろう。


報告書を読み込む内、違和感に気付く。

最古と思われる報告書には、明確に人の名前が書いてある。


それまではぼかされていた、恐らく執筆者であろう名前が、ハッキリと記されていた。

“カレン・サカザキ”。

まだ親父達が生きている頃、天才科学者として持て囃されていた人だ。


親父が「サカザキの奴も…」とか言っていたのを、子供ながらに覚えている。


その、天才と持て囃された人すら匙を投げる、黒、白、赤と呼ばれるナニカ。


そして、得てして人間は、目の前の物に気を取られ、重大な何かを見落とす、もしくは見逃すものである。


「──njuvlfub」


ガラガラと音を立て、真後ろの柱が倒れる。

報告書から目を離し、背後の存在に意識を向ける。


そこに居たのは、恐らく報告書内に挙がっていたであろう、赤。

不定形ながら、どこか人型のような印象を受ける。


それが、こちらを見、笑う様な仕草を見せた。


全身を刃物で貫かれるような感覚に陥り、本能と理性が逃げろと忠告する。

俺は瞬時に出口を確認し、そこに駆ける。

あの時使った音の歩法で出口へと一直線に駆ける。


「tpれib.tjuufる」


俺が扉に着くより早く、赤は出口を自らの体で塞ぐ。

かと言って急に止まれるわけもなく、手を交差させその肉の壁を無理やり突き破る。


そして、冒頭に戻る。


一蹴りで三段を駆け上がりながら、後ろの肉塊に音砲を撃ち続ける。


俺の頭にあるのは、この時恐怖だけだ。

どう逃げる、どうやり過ごす、どう──。


後ろには、笑みのような物を浮かべながら迫る赤。

かたや俺は、そろそろガス欠が起きそうだというところ。

肺に入る空気は冷たく、足が言うことを聞かない。

だが、“追いつかれてはいけない”という絶対的な恐怖で脳内を支配されている俺に、それを考える余地は無い。


遂に、音砲が打てなくなった頃、それが現れた。


「ルベリノ」

「b.bsvtvuppmj!」


白い、人型の何か。

見るだけで脳の中を支配されるような、そんな、よくわからないもの。


「──この人が、貴女の?」

「vo!bubtjop.ljojobsvijup」


何を話しているのかわからないが、これが唯一の好機だろうと、その場から全速力で離れる。


「──動かない方が、身のためですよ。“鳴渡響”さん」


呼ばれるはずのない名前を呼ばれ、体が硬直する。

その隙を突かれ、体に、ルベリノと呼ばれた赤の腕が巻きつく。


掴まれた部位が音を立て、筆舌し難い痛みに襲われる。

歯を食いしばり、それを耐えるが、長くは続かないだろう。


「figig.uvlbnbub!」


子供のように笑うルベリノ、そしてそれを見て微笑む白い何か。


「ダメですよ、ルベリノ。消化機能を止めないと」


その一言の後、体を襲う痛みが消えた。

だが俺は、とうに許容量を超過していたらしい。

その痛みが消えるとともに、俺の意識も闇に消えた。

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