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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
赤く、黒く、白い物語。
193/210

白いお話。

実験結果No.455  file.実験体■への対処法。

実験体■は我々人間の言語をほぼ理解している様子を時折見せる。

また、人語もいくつか発しており、それは赤子の話す喃語の様な今と形のない言葉であり、危険度、収容状態の引き上げが検討される。


実験記録No.250 case2■が外因で起こった崩壊について。

常に宙に浮き目を開かない■だが、過去に地に降り目を開いた事がある。

■の足が触れた箇所は捻じ曲がり、■の視線上の物は塵と化した。

また、危険性の観点からアシラファの研究所に移行が思案されたが、却下された。

XX28年6月28日追記、■■研究院の死亡を以てアシラファの研究所は破棄された。


実験体報告書No.※検閲済み※

内容を確認するにはレベル■以上の■■アラン■が■■となり■■。


※検閲済み※は度重なる修正を経て、削除される運びになりました。


──────────────────────


 かつて、まだこの星に何も無かった頃。

そこには、燃えているだけの星があった。

生物の気配は無く、有機物、無機物等の存在も無い。


そんな星で、我らは産まれた。

今より凡そ、149億年程前の事だ。


私以外の二つは、自己を得るのが遅く、多くの事を私一人で行なっていた。

白い力で、星を漂白し、生物を描いた。

白い力で、自らを守る殻を描き、何億年もの眠りについた。


そうして、今日に至る。

あの二つの命も、無事に今日を生きているらしい。


「──とても、とても喜ばしい」


空中に指を這わせ絵を描く。

あの化け物と戦ったのがつい最近の様に思い出せる。


「何故、今になってここを訪れる者がいる?」


私の前で無様に倒れる男を尻目に、私は独白を続ける。

廃棄され、何年も捨て置かれたここに、今更奴らが戻ってくるとも考えづらい。


「──ああ、もう殺してしまおうか」


手で施設の壁に触れてみせる。

鉄が無理やり捻じ曲げられるような音を立て、壁は跡形も無く消えた。

私が扱える力は、浄化。

物体の“罪”を洗い流す力。

原初より、罪というものは多岐に亘り畏れられてきた。


怒り、怠惰、嫉妬、強欲、悪食、傲慢、そして、色の欲。

私は、その全てを洗い流す為に産まれたのだ。


罪を織り重ねた物は、何であろうと罪深い。

人は最たる例だ。

生きているだけで動植物を汚し、あまつさえ人同士でいがみ合う。


「──だけども」


 私は、そんな人間が好きだ。

生物として不完全な人間が好きだ。

醜く、汚く、浅ましく、愚かしい。

そんな、人間(ふかんぜんなもの)が、君達が大好きだ。


「今は、殺さないよ」


 これに興味が湧いたから。

そんな完璧じゃない(ふかんぜんな)理由で。


──────────────────────


 「…っ!?」


何かに頬を撫でられた気がし、咄嗟に飛び起きる。

耳を澄ますが、聞こえてくるのは近くを流れる水の音のみだった。


壁を見ると、一部分だけ激しく殴られたように凹んでいた。

…物音で目が覚めなかったのは、耳が遠くなっているという事なのだろうか。


「…てかよく俺螺旋階段で寝れたな」


案外眠る事においては凄いのかもしれない。

でもそんな才能いらない…。


「…?あれ、水飲み干さなかったっけ」


立ち上がると、水筒の中の水が揺れ、音を立てる。

飲み干したと記憶していた水筒の中は、透き通った液体で満たされている。


「──ふぅ」


 上を見、息を吐く。

早鐘を打つ心臓を少しでも落ち着かせようと、脳を必死に回す。


俺は、いまだに碌な依頼もこなしていないが、直感的にわかっている事がある。


この先には、神無月先輩よりも、弁財先生よりも、恐ろしい者がある。


「入るか〜…嫌だ〜」


第三層、赤い蛍光灯が照らす場所に。


──────────────────────


■■研究員の日記

恐ろしい物を見た。

あれは、人智の及ぶ物ではない。

人が手を出していいわけがなかったんだ。


あれに、先輩が消された。

あれに、半分の研究対象が消された。

あれが、■■であるものか。

あれが、完璧な生命であるものか。


あんな、破壊の権化が。

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