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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦準備編
183/209

災害に愛でられし者。

 最初に異変に気付いたのは、やはり中標だった。

それまでは暑くもなく寒くも無い森で、突然霜が降りたかのように冷え始める。


「…冷えるのぉ」


ここは森。決して標高が高い訳でもなく、言うならば平地というのだろう。

その森で、突然気候が変わり、霜が降る訳なぞもなく。


実際、この霜は自然発生した訳では無いが、それを知る由は中標にはない。

また、中標に少しばかり遅れを取りつつも、他の三人も異変に気づく。


「…随分と冷えますね、あの銀髪の子の力ですか?」

「さあね、空宮ちゃんの術に関しては私も詳しく知らないしね」


そんな仲良く軽口を叩き合う二人も、得体も何も知れないナニカに、警戒せずには居られなかった。


──────────────────────


 辺りに、氷塊が墜つ。

 辺りに、炎が満ちる。

 辺りに、稲妻が奔る。

 辺りに、おどろおどろしい雰囲気が満ちる。


言霊術、その粋を。

敵にお見せ致しましょう。


──────────────────────


「…何じゃあ、こりゃあ!?」


辺り一面に降り注ぐ、氷柱の雨。

その内何本かは自らを狙うように屈折し、降り注ぐ。


「──そぉいっ!」


刀を振るえど鞘を薙ごうど、氷柱の嵐は降り止まず、無慈悲に肉を抉り貫く。


そんな中、ふと中標は自らを視る視線に気づく。

過去幾度と刹華に“人の機微に疎いと損しますよ”と説教された為、何とか習得した気配を探る力。


「──だ、れ、じゃぁ!」


刀を振り投げ、虚空を切り裂く。

振り投げた刀を引き戻すが、何かを切った感触も無く。


ただ気味の悪い結果のみが残った。


──────────────────────


 ああ、ああ。

 いつに無く、昂ってしまっている。

 これ程までに昂っているのは、あの日以来だろうか?

 

 楽しい。

 私が得意な術が、私が唯一使える術が、偉大な人達を

 追い詰めている。

 

 見ていますか、鳴渡先輩。

 貴方の中に眠っているそれも、とても恐ろしい物でしょう。

 ですがわたしも、似たような物なのです。

 

「──心置きなく、消費(つかいつぶし)しましょう」


 私は、バケモノですから。

 私に、人権なぞありませんから。


「──“ふれ、ふれ。神よふれ。ちょきりちょきりと万を断ち。ぐさりぐさりと億を刺し」


 ああ、今はとても、心地良いです。


「──ぷちりぷちりと虫を潰せ」


 私達の勝利は揺るぎません。


──────────────────────


 アタシと刹華は次々と湧いてくる妖の様なナニカに対処していた。

何か雷が落ちた時の様な閃光が辺りに走った後、地面から這い出てきた、生物かすら怪しいなにか。


「これもっ、おたくの空宮さんのお力ですか!?」

「ホントに知らない!京理ちゃんの大将か小楢くんじゃ無いの!?」


泥の様に溶けては何か生物を、猿や駒鳥を模倣した様に攻撃してくる謎のナニカに、対処を追われ、つい防御を甘くしてしまった。


「──っつぅ!小競り合いしてる場合!?やらなきゃアタシら死んじまうよ!」

「──樹咲みたいにか?」


何の話だ、と一瞬頭が止まってしまう。

ぽつぽつと、刹華は語り始める。


 その正体が蛇の一員だったとて、それを知る由もまた知っていたとしても、仲間として過ごした時間が、仲間として認識した心が。


目の前の女を、樹咲を斬殺した男の頭を、責めずにはいられなかった。


「──樹咲は、確かに裏がある様な奴だった。だが、それが理由でなくとも死ぬ事は無かったはずだ!」


暗い森で、幾多もの悍ましい物に囲まれながら、刹華は慟哭を続ける。

拳を作る手に力が入り、皮が裂け血が滲み出る。


 無論、刹華は頭では、思考では気づいていた。

あれは、樹咲は死ぬべくして死んだのだと。

幾ら頭が理解しようと、幾ら思考が明瞭だろうと。

それはそれ、仕方なのない事だったのだと。


だが、そう理解して尚、目の前の人間を責めずにはいられない。

人の命を簡単に奪って良いわけがない、と自論を、限りなく正論に近いであろう自論を振りかざす。


「刹華ちゃん」


顔を上げなよ、と言った七倣の声からは、色が感じられなかった。

色のない声、怒りでもなく、悲しみでもなく、哀れみでもなく、呆れでもない。

それが、今の刹華には酷く恐ろしい。


「…アタシたちは術士だ。妖を祓い、この“神ノ国”で、妖によって齎される理不尽を限りなく減らすのが、アタシ達の役目だと、アタシは勝手に思ってる」


色のない声で、七倣は続ける。

いまだに刹華は七倣の顔を見れずにいた。


「──だからさ」


どこか、空間に罅が入った様な気がした。


「“多少の犠牲”は仕方ないと、アタシは割り切る事にしてんだ!」


ようやく刹華が顔を上げると、それに合わせて七倣の言葉が終わる。

七倣の表情はどこか笑っているのに笑っていない様な、“これが、同じ人間にできる顔なのか?”と、刹華は考えてしまった。


「──七倣、お前「アタシ達は、聖人じゃない」

「だから、アタシみたいな“凡人”でもできる事をコツコツやるの、さっ!」


酷くあっけらかんと言って見せた七倣は、歯を出して笑った後、刹華を蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされ、宙高く舞った刹華は、化け物の中に落ちてしまう。


泥の様な化け物がわらわらと集まり、刹華の悲鳴が木々にこだまする。

それを聞いて尚、七倣は理路整然と、淡々と“遅れてくるであろう”男に備えていた。


「…勝つ為なら、アタシは手段を選ばない。どんな汚い手も、小狡い事もやってみせるよ」


たとえ、禿鷲と呼ばれてもね、と七倣は続ける。


その七倣の背後に、一つの影が立つ。

目を合わせずとも、目で見ずとも、そんなその声が怒気を、その気配が殺気を纏っているのは理解できた。


「──七倣真じゃな」

「キミは、中標…で合ってる?」


おう、と返す中標は、肩で息をしながらもどこか一目で七倣を見ていた。


「勝つ為に何でもする、大いに解る、勝つ為に鍛錬を積むし、勝つ為に作戦を練る。だがのう」


中標は刀を後方に投げ、刀に追随する形で化け物の渦中に飛び込むと、辺り一体の泥の化け物を切り伏せて見せた。


そこには、気絶した刹華が横たわっていた。


「──おまんは、許さん。」

「最後のあれが癪に障ったかな?大将サン?」


対校戦、最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

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