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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦準備編
170/209

真白い真白いお月様

 それは、四人を包み込む、暖かく眩い光。

それは、折れた心を立て直す、強く眩い光。

お月様に見護られ、お月様に見守られ。


動かぬ体が、一人でに。

地に手を突き立て、自らの体を起こす。

男が見る景色は、果たして何なのか。

希望とも違い、絶望とも違う。


「──!」

「おんやぁ──!?」


肩で息を吐き、その身を白日の下に晒す。

目を見開き、口角は限界まで吊り上がり、目の前の男二人を見る。


が、片方の男は、起き上がった男の瀕死の様を、よく知っている。

逆に言えば、もう片方の男は、この男が瀕死かは解らない。


「──そいじゃ、一足お先───」


ぐりん、と眼が男に照準を合わせる。

大柄な男は、自らを捉えた目に、僅か一瞬ばかり怯んだ。


「──!やば」


男の頬を、“見たこともない”物が掠める。

ゆらゆらと彷徨うそれは、意思を持つ刃のよう。


「…こりゃあ、まじぃのぅ」

「…手を貸せ、流命大将」


──────────────────────


 ああ、お月様が見てる、お憑き様が見てる。

体の奥底から、何かが引っ張り上がってくる。

軽い眩暈と、吐き気を伴って。


鳴渡の体は、既に限界を超えていた。

一度心臓が止まり、更には意識までもが刈り取られた。

外部からの干渉こそあれど、中にいる“過保護”で、“眠る”という行為を知らない者が見たら。


二度目の死。

対岸に渡りかけていた魂が、無理矢理体に戻される。

行っては駄目だ、と。

四本の腕が、彼の魂を取り押さえる。


そうして、魂は体へと戻り、おしまいおしまい。


となる事はなく、過剰に反応した防衛本能が、自らを殺そうとした者、自らに近づくものを無差別に攻撃している。


『其は、天すら守護する極光』。


鳴渡を照らした月は、狂気。

そのものが持つ負の感情、“攻撃的な負の感情”を増幅させ、恣意的に暴走させる。


それは、まるで獣の様。

現に、琥珀の腕は微動だにせず、追随するはずの機能は、既に応答を辞めていた。


「──!」

「何を言っとる!?」


最早人の言葉とは聞き取れず、放つ言葉は言葉でなく、故に理性も無く。


「──」


それは、琥珀に包まれた。


──────────────────────


 綺麗だ。

最初にそれを見て、そう思った。

天に浮かぶ筈のない月は、確かに私を照らしている。


「──ふふ」


ああ、何処か気分がいい。

柄にも無く昂ってしまっている。

こんなみっともない姿、私の頭の中だけにしまっておこう。


「──まだ、立ちますか」

「…俺は、負けるわけにはいかん」


ルルリエの格闘術を主軸に戦う、他校の生徒。

名前は分からないが、所詮覚える価値もない程、弱い。


「──カラリ」

「っ!?」


私の術は、空間を操る。

空気中の水分、酸素量、窒素量、二酸化炭素量、そして、“空気中に無い物も生成できる”。


簡単に言えば、“相手の周りにだけ、言葉に反応し爆発する成分”を大量に作ればいい。


「──カラカラ」


術では無いから、躱しづらく。

術であるから、防御も出来ず。


防御は不可、回避も困難。

それが、私の術なのです。


まぁ、弱点もあって。

要は私が、言葉を発せないほど追い込まれる、若しくはそれに近しいと、多少苦しいです。


「──シッ」

「──ボン」


相手の足元が爆ぜる。

私に向かい振り下ろされたであろう拳も、無下に空を切る。


ああ、弱い。

この程度で。


「──グサリ」

「!!」


相手の足に、刃が刺さる。

脹脛の下部、足首と足を繋ぐ橋を、落とす。


この程度で、術士を名乗るのか。

襷さえ奪ってしまえば、この戦闘も終わる筈。


「──グサリ」


相手の拳に、刃が刺さる。

深々と、二度と拳が握れない程。


相手の表情に、苦悶の色が浮かぶ。

あと一歩、後一刺しで、襷を奪える。


あと、一刺し──。


顔に叩きつけられる、男の拳。

大きく振りかぶり、頬を打ち抜かれる。


私はどこか、他人の様に私を見ていた。


体が三度ほど、地面を跳ねる。

木にぶつかって、私の体は漸く止まった。

腹の奥から、血の塊が迫り上がって、口から飛び出す。

頭は、視界はぐわんぐわんと揺れ、胃からは胃液が沸き上がってきそう。


「…俺は、女だろうと、殴る」

「──ゴホっ、ゴホっ」


鼻から、血が出ている。

それを腕で拭う。


昂っている。

痛みすら、私をどこぞかに引き上げる。


「──ぐさり」

「それは、もう効かん」


 男が足を踏み出し、勢いに乗せ拳を振るう。

それは、私を十分戦闘不能に出来る威力だろう。


だが。

それを、まともにくらってやる道理はない。


「──ぱきん」


空気中の水分を凍らせる。

自らの真正面に、壁を作るように。


「──もう、それは効きません」

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