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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦準備編
166/236

対校戦、第一夜、神の夜。

 それは、対校戦開幕の、凡そ三日前のこと。

何やらきな臭い物を感じ取りながらも、水曲は色々(主に出席日数)とあって学園に足を運んでいた。


「…水門の管理は大丈夫やろか」


が、未だ学生というのに仕事に取り憑かれたようで。

考えることは術や勉学よりも家業が多い。


「…おう、水曲じゃねぇか、珍しいな」

「──っ!べ、弁財教師…な、何のようで?」


後に、水曲は自戒する。

この時、弁財教師の話を聞いていなければ、厄介ごとに巻き込まれなかっただろう、と。


──────────────────────


 水曲は走っていた。

枝を掻き分け、小石に躓こうと、ある一点を目指して走っていた。


あかん、あれは、呼び起こしたらあかん!


人間の反応など、元より操作はできかねる。

食う、寝る、ヤる。

所謂三大欲求と呼ばれるものに、唯一勝利する物。

それは、“絶対的な恐怖”。


「不味い、不味い不味い!」


各地に散らばっていた面子が、そこに集結しようとしている。

各三年生が、各一年生が、約十六名が。


──────────────────────


 「神ぃ?」

「…あぁ。お前なら口も硬いし、鳴渡を見張っておいてくれ」


午後六時、空き教室に絶叫が木霊する。

それは、面倒事を押し付けられた事からくる絶叫だったろうか。


一頻り頭を掻きむしった後、ようやく戻ってきた水曲は、未だ虚な目で弁財を見る。


「──つまり、鳴渡がその…神?になんかされたら死ぬ気で止めろって事ですか?」

「違う」


弁財紫煙は、人差し指を一本立て、水曲に云う。


「“死んでも止めろ”だ」


──────────────────────


 「あの阿保教師、頭可笑しいんと違うか!?」


愚痴は止まらず、足は止めない。

半径約百粁を、全力疾走。

軽く見積もっても十分程は掛かる。


今水曲に出来るのは、自分が着く前に被害が出ない事位だった。


「“あれ”に、立ち向えって言うんか!?無茶やろ!」


──次の瞬間。


「──ひゅぅっ」


水曲は、自らの体が賽の目状に切り刻まれる“事”を見た。


ぞわりと、全身が粟立つ。

人と、“人ならざる者”、その違いをたった今、身をもって知ったのだ。


げに恐ろしきは、その距離。

対校戦が始まる前に、例の腕につけた術式で、今現在の鳴渡の場所は常に頭の片隅に在る。


その距離、凡そ八十粁。

最南端と、最北端に居る様な物なのに、そして、恐らくそれは何もしていないのだろうに。


それを、水曲は何処か警告のように捉えている。


“これ以上近づくなら、“それ”は現実になるぞ。”と。


が、水曲は逃げない。

鳴渡に対して、道無き道を行き、ほぼ一直線に向かう。


何故、ここ迄、俺は鳴渡を守ろうと動くのか。

後輩だから?何処か親近感のような物を感じたから?

恐らく、それらは合っているのだろう。


だが。

この心に有るのは、自らが細切れになる様な絶対的な力の差を見せられて尚、諦めないのは。


単に、“ここで逃げたら、格好悪いから”だ。

苦しんでいる後輩一人救えず、何が先輩だ。

苦しんでいる人間一人救えず、何が術士だ。


臆病な自分を叩く。

弱い自分を奮い立たせる。

逃げそうになる足を無理矢理言い聞かせる。


「待っとれや響!この大先輩が救ったるわ!」


──────────────────────


 「あぁ、ありがとうなぁ、狐に、鬼」


ソレは恍惚に微笑む。

ニタリと、まるで人のように。


刀を一度振っただけで、森の半分を切り株に変えた神は、鳴渡()を触りながら、鋭い牙の様な歯を隠そうともせず、刀に手を掛ける。


「お陰で、鳴渡に私の力を植え付けれた」


神が、刀を壱度振るい、二つの剣閃が放たれる。

虚空から現れた、“煙”でできた人間モドキが、文字通り霧散する。


「…だが」


先程まで天を衝かんばかりにを上がっていた神の口角は、地面へとその方向を変えていた。


そして、鳴渡の髪の毛先が金に染まり、遂に眼の色も変わろうかという所。

突如として、神の周りを琥珀色の結晶が覆う。


「──この力…そうか、懐かしいな。■■■■か」


神が刀を片腕で振るうも、結晶には傷一つ付かず。

ならばと両手を用いて袈裟に切ろうと、結晶にはまるで一つも傷付かず。


ならばと、ならばと、ならばと、ならばと、ならばと。


これでもかと、神は刀を振るう。

そうして、須臾程の時が経ち、神は尚も諦めず。


神は微笑う。笑う。嗤う。

口が張り裂けそうな程。


ならば。

神としての矜持など投げ打ち、“我”の持つ最高の剣技で。

“貴様”を打ち破ってやろう。


「──我が身は剣ならば、万物断ち、凡て切り裂かむ」


 神は、自らの力の遍くを使い、一振りの刀をお造りになられた。

それは、錆びる事なく、歪む事なく、また、何物をもを切り裂く。


その刀の名を。


『天沼ノ断チ』。

「…じゃあな、■■■■」


──────────────────────


 「なんじゃい、ありゃあ」


天高く聳える、一つの大木。

その枝に腰をかける、一人の男。


名前を中標。

回環の大将にして、室山蟹の従兄弟である。

回環には、主に二通りの生徒が門を叩く。

一つは、漁業を生業としながらも、術士としての才があるもの。

こちらは、白泣鯨、金山嵐、室山蟹が属する。

もう一つは、術士の家系に生まれながら、漁業に食指を動かす者。

こちらは、車坂一重、海月坂八幡、そして、今回の大将、中標康隆が属する。


つまり、白泣達が漁業と術士を七と三とするなら、中標達は術士九、漁業一…もしくは八と二である。


「…きれーな琥珀じゃなぁ」


琥珀に見惚れる中標の僅か十粁後方に、何かを見つめる二つの目。

縦に引き絞られた瞳孔は、まるでそれが人間でないかのように、夜目に特化した一族なのだと物語る。


「…見られとるなぁ、まぁええか」


自らが狙われている事を分かっておきながら、中標は意に介さない。

それよりも、目を引いて止まないのは、この大木に匹敵するよな巨きな琥珀。


「…美しいのぉ。だけど」


中標は幹に手を当て、枝の上に立つ。

下駄と枝がぶつかり、何処か小気味好い音が鳴る。

目を閉じ、後方に居るであろうそれに、“一応”報告する。


「あれは、とめにゃいかんなぁ」


愛刀を手に、中標は木から飛び降りる。

常人ならば骨が折れる高さであろうと、さすがは術士、振動すら起こさずに着地する。


この時、中標の脳裏には、何処か嫌な予感がこびりついていた。

その状態までは分からずも、“これ”が良くないものである事は察せた。


「…お〜お〜、風が哭いてやがるぜ」


ザワザワと、風が木の葉を揺らす。

それに混じり、何処かから血の匂いが漂う。


「…な〜んか、きな臭いのぉ」


──────────────────────


 同時刻、蓮学の大将は頭を抱えていた。

それが何に起因した物なのかは、本人にしか知る由が無いが、歯をガチガチと鳴らし、目からは大粒の涙が溢れている。


「どうしようどうしようどうしよう…やっぱり私には術士としての才能なんて無かったんだ」


頭を掻きむしり、蓮学大将は何かに縋るように言葉を紡ぎ続ける。

それは何かに対する謝罪なのか、はたまた全く別のものなのだろうか。


「てかなんだよあの化け物!音もなく忍び寄ってきて的確に私を狙ってきやがって…」


親指の爪を噛みながら、蓮学大将は呪詛の様に言葉を呟き続ける。

目は充血し、側から見れば大分な異常者に見えるだろう。


「…そもそも、わたしにじゅつしなんてむりなんだよぅ〜」


暗い森の中で、一人いじけて泣く様は、何処か歳不相応に見える。


そんな蓮学大将に、一つの影が忍び寄る。

その影が小枝を踏もうと、何故か音は鳴らない。


「『橘香菜は、その場から動けない』」

「!?」

「やっほ、三分ぶりかな?」


蓮学大将、橘香菜に忍び寄る影とは、神園学園大将、七倣真であった。


開始とほぼ同時に、七倣は各学校の大将を狙った。

その為、橘香菜はこの対校戦中、ほぼずっと逃げている。


暗闇からぬっと現れる七倣に怯えない人間が居るだろうか、いや、居ない。

悪魔の様な形相で、七倣は橘を追い詰める。


「…鳴渡クンがなんであんなことになってるかは分かんないけど、私は汚れ役だからさ」

「ふ、ふざけるなっ!わ、私がタダで負けると「『橘香菜は言葉を話せない』」──っ!?」


「ま、大人しくやられてよ、アタシは華々しい活躍なんて出来ないから、こうやって堅実に積み上げるんだよ」


七倣の口角が吊り上がる。


蓮学大将、橘香菜。

七倣真との戦闘後、戦線離脱。


──────────────────────


それは、神が放ちし斬撃。

凡ゆる物を断ち、凡ゆる物を無へと帰す一太刀。


それを感じ取ったのは、とある二人を除いた全員であった。


 「──っ!?」

七倣は琥珀の内から放たれる殺気の様なものに。

──────────────────────

 「──うぉっ!?」

中標は突如として自らに襲いかかった風圧に。

──────────────────────

 「…」

氷皇大将はこれから起こるであろう事に。

──────────────────────


 三大将が、同じ瞬間に、同時に、全く同じ方向を向いた。

先程まで聳え立っていた琥珀の方を見た。


音もなく、それは放たれた。

“斬撃”。

所謂剣気と呼ばれる物は目に見ることが出来ない。


が、それは十五人の目に、しかと写った。


大木よりも巨きな、斬撃。

刀の一振りで、山を分割し、谷を作るような斬撃。


其れは、神の斬撃。

戯れではなく、真の力をもって放ちし一撃。


琥珀を容易く破り、森であった切り株等が今度は谷に変わったのだ。

距離にして、約五十粁。

深さにして、約二百米。

そんな谷が、たった今、神によって造られた。

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