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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦準備編
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お披露目 “琥珀腕”

 「…ま、俺らを置いてった事は綺麗さっぱり水に流したる。で、なにしてたん?」


水曲先輩からの当然の疑問が耳を突き、俺のせいで二人を置き去りにしてしまったと説明しようとすると、横からそれを遮る様に声がして、少し、助かったと思う自分が居た。


「いやごめん!鳴渡クンのタメになればって思ってたけど、今考えれば置いてったのは悪かったね、ごめん!」


両方の手を合わせて謝る七倣先輩に、嫌味をたっぷりと言おうとしていた水曲先輩も、どこか毒気を抜かれたようで。


「…もうええわ。真さんが言っとるなら嘘や無いんやろうし」

「ホント!?助かる〜」


…許さなきゃよかった。なんて心の声が聞こえてきそうだが、七倣先輩はそれに気づいているのかいないのか、問題解決!といった風に葛原さんの方へ行ってしまった。


「…響くん、やっぱり女は怖い生き物やな」

「……ですね」


──────────────────────


 「──ですから、先輩の為にですね」

「ええ、ええ聞き飽きました!先輩の為先輩の為!だったらなんですか!その先輩とイチャイチャしてれば良いじゃないですか!」


想定外の返答に、少し戸惑ってしまう。

以前から、葛原さんは何処か頭の中がその、少しお花畑という印象はありましたが、ここまでとは。

言葉が通じていないのではとも思いましたが、流石にそれは無いと頭を振う。


「──で、ですから」

「いーのいーの空宮ちゃん」


後ろを振り返れば、何処か不敵な笑みを浮かべる七倣先輩。

その顔は、“アタシに任せな”と雄弁に語っていました。


「──任せました、七倣先輩」

「うん!」


──────────────────────


「…じゃ、水曲先輩」

「…おう」


七倣先輩には申し訳ないが、“琥珀腕”の調整は早めにしておきたい。

その為には、やはり実戦が一番と考えた。

そして、受ける、“耐える”という事に関しては右に出る者がいないであろう水曲先輩に、…的役をお願いした。


「とりま、響くんの術を受け切ればええんやな?」

「はい。お願いします」


子供の頃から、これが好き。

なんでもそうだった。

新しいものを手に入れたら、それを使わずには居られない。


可能性を見るのが、楽しい。

“これはこうじゃないか?、いや、こっちの方が…”を無限に繰り返す。


 琥珀色の腕に霊力を流し込む。

より一層、琥珀色の輝きが増したように見える。

所々に取り付けられた緑色の、翡翠のような宝石を模した何かも、流し込まれた霊力に呼応するように光を帯びる。


「…いきます」


覚悟を決めろ、鳴渡響。


「いきます!」

「こいや!」


ガシャガシャと音を立て、琥珀腕が自らの意思で動くのを感じる。

本当の腕とは別に、多腕とはこんな感じなのだろうか。


が、頭の中は大忙し。

自らの五体に加え、新たに加えられた、二本の腕。

腕一本にどれだけ脳の容量を使っていたのかを思い知らされる。


両腕に、両足に、琥珀の腕。

術を使う、殴りつける、受ける。

その判断が一瞬でも遅れればひとたまりもない。


「ふー…」


右の琥珀腕を動かし、握り拳を作る。

左の琥珀腕は、拳を開いたままに。


「…」


頭の中で構想を練る。

闘い方の構想を。

今までの方法では琥珀腕を活かしきれない。

ならば。


「…うぉっ!?」


琥珀腕左の掌から音砲を飛ばす。

自らは音の力を両掌に溜め続け、相手の隙を付くように、いつでも打てる準備をする。


「…なんならこっちからぁ!」


水曲先輩が肉薄する。

それを右の琥珀腕で防ぎ、左の琥珀腕が掌底の様な物を打ち水曲先輩を弾き飛ばす。


「やるなぁ!あったまってきたわ!」


今。

水曲先輩が攻めに転じたこの瞬間。

自らの両手首を付け、掌を前に突き出す。

両掌の指、計十本。

その全ての指から、音の力を中心に集め、放つ。

嘗て、弁財先生に打った技の、完全上位互換。

二本の琥珀腕をつっかえ棒の様にし、無理矢理反動を押さえ込み放つ必殺の“音砲”。


後ろに吹き飛びそうになる自らの体を、琥珀腕が支える。

腰から上が反動に耐え切れず少し仰け反るが、前までの物と比べたら威力はほぼ倍。


琥珀腕に霊力を多く回す。

大地を鷲掴み、硬いはずの、ほぼ石と言って遜色ない地面に十本の爪痕が刻まれる。


打ち切った頃には。


「…はぁっ、はぁっ」


息も絶え絶えで、前を見る事なんて出来ない。

耳もイかれた様で、キーンという甲高い音がこだましている。


だから、近づいてくるその足音に気づかなかった。


肩に手が置かれる。


「…今回は、俺の勝ちやな?」


久しぶりに、心から負けられた。

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