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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
妖蔓延る世界のお話。対校戦準備編
158/209

発注 其の零

 「──で、なんで鳴渡クンはあそこで溜息吐きながらうなだれてるの?」

「──少し、分かりかねます」


何か、それこそ、致命的な何かを間違えたのだろうか。

そもそものきっかけは何だった?

国椚云々は置いておいて、問題は恐らく体の中にいるであろう二柱の神。


狐と鬼。

神ノ国にて信仰されている三神のうち、二柱が俺の中にいる。

そもそもは、確か御霊棲山での修行後に水泡先輩とあって…。

“水泡先輩と会って”?


 今思えば、何故あそこに水泡先輩が居た?

あそこは、御霊棲山は入れば出られない磁場の狂った森、俺が降りた切り立ちすぎた崖。

雑多な妖なら一噛みで殺せる獣たち。

例え俺より何倍も強くても、そんな所をのほほんと歩ける人だろうか。

あの雰囲気だ、何の考えもなしに歩いていた事も否定できないが、それでも少し引っかかる。


「…はぁ」


「あれ、何回目?」

「──数えている限りでは十八ほどです」


手を開く、閉じる。

あの二柱、狐の神と鬼の神が居る場合、それはどこに居るんだろう。

腕、足、腹、胸、はたまた心臓や脳みたいな所にいるかもしれない。


何も分からない。

俺の体の事なのに、何一つとして分かっていない。

そして、ついさっき起きた別の変身。

七倣先輩曰く、髪が伸びただけ、黒い髪だった。

空宮さん曰く、先輩の中に居るのは“夜見ノ大神”という神。


 神話には明るく無いからか、夜見ノ大神という名前は聞いたことがない。

空宮さん曰く、三神の産みの親…らしい。

神に産むという概念があるのかすら知らないが、古い家の空宮さんがそういうなら恐らくそうなんだろう。


「──なんか馬鹿にされた気がします」

「マジ?心とか読めるの?」


…辞めよう。

これからの問題は三つある。

一つ、山や対弁財先生戦で起きた、所謂暴走を防ぐ方法を探す事。

一つ、それを防げたとして、何か体に異変、つまり“防いだ、抑制した後、術が使えない”等の問題などの回避方。

一つ、何も起きない、もし中に何も居なかった場合、何が起きてああなったのかの解明。


先は長い。

下手すれば一生付き纏う問題だ。

もし学園を卒業し、術士の道に進まないとしても、街中や往来で突然頭痛に襲われるのは避けたい。

術士の道に進むとしても、何かわからない物が自分の中にいるのは気持ちが悪い。

かといって、この正体をバラして良いものなのだろうか。


真名やその正体が割れた瞬間力が倍増するのは妖にもある事だ。

その延長線上にあるだろう神が、似た様な力を持っていても何もおかしく無い。


「…」


そんな物が中にいるのに、俺は今のままで良いのだろうか。

もっと強くならなくてはいけないんじゃないか?


「…よし」


体を後ろに倒し、反動をつけて立ち上がる。

土埃を払い、息を吐く。


この空間は、最高の空間だ。

術士しか、その卵しか居ないのだから。

遠慮する事は無い。

思う存分、今ある牙を磨こう。

思う存分、その牙に毒を塗ろう。


「…空宮ちゃん、人ってあんなに怖く笑えるんだね」

「──…はっ、そ、そうですね」


──────────────────────


 術の開発はこれ以上要らない。

ならば、どうするか。

今ある牙を研ぐ。


“音の砲”を。

“音の刃”を。

“音の力”を。


術に関して、俺はまだまだ赤ん坊と同じ。

周りには、俺より術にどっぷり浸かった人間がいる。


これほどまでに恵まれた環境があるだろうか。

これほどまでにいい研ぎ石は他にあるだろうか。


最高だ。

こんなにも、俺は恵まれていた。


「…ちょっと鳴渡クンが分かんなくなってきたよ」

「──…」


音の砲は威力が足りない。

もっと、風穴を開けられる程の。

音の刃は切れ味が足りない。

今のままじゃ、薄皮だって切れない。

根本的に、音の力を使いこなせている気がしない。


「…もしや」


「何すんだろ、鳴渡クン」

「──せ、先輩っ」


 背後から駆け寄ってくる足音に振り返ると、空宮さんがそこに居た。

何故か覚悟の決まった顔をしている。


「──不肖、空宮空形。せめて、先輩にお力添え出来れば、と思いまして」

「…は、はい?」


後ろに立つ空宮さんの顔は、それまで見た彼女とは違って見えた。

…顔の見分けなんてつかないけど。


「──先輩の術のうち、私が口を出せるのはあの刃の術のみですが、それだけでも。と」

「…あ、ありがとうございます…?」


 人が変わったように、いや、態度とかは変わってないんだけど、どこか柔らかくなった…?


「──まず、根本からですが、一回一回掌に力を溜めて打つのは非効率です」

「…お、おう」


「…張り切ってるね、空宮ちゃん」


──────────────────────


 目の前の木に、言われた通りに術を射つ。

いつものならば少し傷がつけば良い方で、威力等を見直そうとなるが、今日の術はいつもと違う。


放った術は、勢いこそそれほどでも無かったが、木の幹に大きく傷跡を残した。

軽く振った方は、勢いが強く、切り傷は浅かった。


「…す、すげぇ」

「──でしょう。これが“想像の力”ですよ」


変えたのは、放つ方法と想像のみ。

掌に溜めて射つ方法から、手刀に合わせて放つに変えただけ。

弱い方は、指を払って出しただけ。


「──もう少し威力を上げたいなら、やはり刀に合わせるしかありませんが、先輩、刀はどこに?」

「……」


言えない、術の制御も出来ないんだから使うな、と言われたとか。

言えない、今没収状態にあるとか、黙さんに申し訳ない。


「…てか思ってたんだけどさ」

「──七倣先輩」


「学園、武器の発注辞めたの?」

「発注、ですか…?」


聞いた事のない単語に、少し考えてみるが、確かに心当たりは無い。

そもそも、俺が持っていた刀だって黙さんの試作品とか言ってたし。


「うん。発注。それぞれの戦闘方に合わせて、最適な武器を作ってくれんのよ」

「…知らなかったです」


あたしだったらこれ、と先輩は腰に携えた小太刀を抜き見せる。


「じゃあさ、鳴渡クンの発注武器、作ってもらおうよ」

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