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二位咸 其の玖

 ただ、ただ一人。

“それ”は完成されたヒトを作り出した。

地水火風…遍く万象を支配下に置き、録された全てを知る。

最初は、“それ”すら届かぬ所に、“ヒト”はいた。


だがそれは、軽い歪みを伴って弾けた。

初めは自律的な思考を一切しなかった“ヒト”は、次第に自らの意思を持つ様になった。

“ソレ”は有頂天になっていたのだ。

完璧な生物を作ったと、驕り高ぶっていた。


その行為が、その思考が。

“かつて自ら達が忌避し「こうはなるまい」と知覚した”、人間と同じだという事を。


 崩壊は早かった。

脳を、所謂メインシステムを“ヒト”に任せっきりだったソレは、最早“働く事、思考する事”その全てが出来なくなっていた。

呼吸すらままならず、見る事は叶わず、歩行は最早不可能。


施設の全てを破壊し、全てを火の海へと焚べた後。

唯一完成された“人”は眠りについた。


──────────過ちの書、終末1章5節、「我々が犯した、最も大きく、見過ごしてしまった過ち」より。


────────────────────────


 その日の私は、とても上機嫌だった。

あいつと、私にヒヨコみたいについてくる後輩と、久々のお出かけだった。


本に塗れた部屋に、誰もいない部屋に、行ってきますと言って、鍵を閉めて。

飛行して、“似合わないから”と、ズタズタに破かれた服しか無かったから、今日は一緒に服を買いに行こうと、心を浮かしながら。


街に貼られた結界をすり抜けてくる奴等を祓い、消滅させながら、通りの人間達に「化け物」と罵られようが、私の心には全く届かなかった。


 最近、邪な気持ちが頭によぎる事がある。

「ここの人間は、建っている家達は。“ほんの少しでも”私が霊力を、いつもしている栓を抜けば、死ぬんだろうか」なんて。


辞めだ辞めだ。

私はそんなことを考える程余裕がある訳じゃない。


なのに、堰を切ったように。

悪い思考が私の中を支配する。

黒い色が、何もかもを塗りつぶして、“真っ黒”に染め上げる。


今私は、側から見ればどんなふうに映っているのだろうか。

全くの無表情なのか、はたまた口が裂ける様な笑みを浮かべているのか。

恐らくは、前者だろう。

…前者であってほしい、何も無いところで笑ってる私とか通報されてもおかしく無い。


 …遠くから視線を感じる。

ちらりと辺りを見渡しても、特にこっちを見てる奴は居ない。


 思い過ごしか、ちょっと自意識過剰だったかな…と考えていると、“彼の声”が耳に入る。


「…や…痛…」

「…せぇ…、黙…」


目の前が、突然暗闇に覆われた。

訳もわからず、声のした方に飛んでいた。


「ってぇな!なんもしらねぇよ!」

「るっせえ!手前が情報持ってる事は“お上”から聞いてんだよ!」


顔も知らない大男が、“彼”の、後輩の、“響”の髪の毛を掴んで怒鳴っていた。

 私は、拳を握る事しかできなかった。

大男が私がいる事に気がつくと、舌舐めずりして言った。


「…やっぱあのお方の言う事は当たるんだなぁ?お目当てのやつがひょっこり現れやがった!」


“彼”を放り投げ、こちらに走る大男。

手には小ぶりな刃物を持って、私を殺そうと狭い路地裏に足音が響く。


「死ねぇっ!」

「“(■■)王冠にて生還せり(Keter)”」


刃物は私に刺さる事なく、男は腕の骨が折れた。

路地裏に臥す男には、私は一瞥もくれなかった。


「…響、遅い」

「…すみません」


頭を掻きながら、こちらに謝る後輩は、とても可愛かった。

正直、この時は浮かれていた。

だから、後ろから飛びかかってくる大男に、全く気づかなかった。


 大男が、今唯一使える顎で、私を噛み殺さんとしていた。

それに気づけたのは、後輩が私を突き飛ばしていたからだった。

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