二位咸 其の陸
ドン、と轟音が響く。
辺りには砂塵が舞い、瓦礫の山が飛ぶ。
木端に破壊された家々は、今も虚しくただ佇む。
南からは全てを溺死させんとする大津波。
東からは全てを石に変える大砂嵐。
北からは浴びた物を乾涸びさせる轟嵐。
南からは疫病を伴う大竜巻。
多くの術者、科学者が口を揃え、何故あそこが存在できているのか、何をどう持って“在り続けて”いるのか分からない。
と諸手を挙げる。
今も尚、戦争は続いている。
時間にして約二分、その間に約千もの人間が死に続けている。
“樹”は。
“樹”は何処だ。
私達の“最高傑作”は何処にいる?
後どれほどを殺せば、乾涸びさせれば、水に沈めれば。
病で血を吐かせれば、飢饉で骨にすれば。
“き”はおとずれる?
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ここの所、悪夢を見る回数が増えた。
最初の頃は、これも訓練の一環と捉えてはいたものの、最近は度を超えた回数、夢に出てくる。
“樹”。
いつから私に備わっているのか、果たしてそもそもこれは私のものなのか。
何も分からない、人の、ヒトの力を優に超える、万能の様な力。
これといった代償も何も無いのに、術力を大きく上乗せする事もできる。
「…」
正直、私はこの力を疎ましく思っている。
得体の知れない力…普段見る小説では定番中の定番だが、実際に持ってみるとこれほど気味の悪いものはない。
「…」
やはり、私は所詮、何かを殺す事しか出来ないのだろうか?
あいつらが言っていた様に、何かを殺すためだけに──
“つくられたそんざいなのか?”
そんなはずは無い。
私は私だ。兵器ではない。私の意思で、私の選択でここに立っている。
そうだ、そのはずだ。
でも、こういう事で葛藤するのってちょっと格好良くない?
主人公と因縁があったり、そも主人公の血縁者だったり…。
ちょっと、いやかな〜り憧れる。
「…ふふ」
ふと、自分でも意外なほど柔らかい声が出る。
今の三年が一年の頃、…つまり私が一年の頃からは考えられん程。
「…にしても遅い!」
本屋の前で集合と言っておきながら、待ち合わせ時間よりもう二時間は過ぎている。
“もしかして、お前に辟易したんじゃないか?”
「…やめろ」
“相手の都合も考えず、お前のしたい事を押し付けたからな”
「…」
“嫌われても文句は──「黙れっ!」
女を中心に、まるで竜巻の様な風が巻き起こる。
本を撒き散らし、八百屋の野菜や肉屋の肉などを、空高く吹き飛ばす。
頭を抱えながら竜巻の様な風の中心で蹲る。
誰も助けに来ないのに、餌を待つ雛鳥の様に、誰かが手を差し伸べるのを待っている。
手を差し伸べようとした人達は、お前が吹き飛ばしたのに。
違うと連呼しながら、女はかぶりをふるう。
私は悪くない、悪いのはあいつらだと、居もしない何かを必死に責め立てる。
側から見れば、異常者だろう。
頭の中に響く声など、本人以外の誰にも分からないのだから。
「──輩」
遠くの方から聞こえる、待ち侘びた者の声。
それすらも、今の女には猛毒となっていた。
「辞めろ、それだけは──」
耳を塞ぎ、聞くものかと、聞いてなるものかと。
目を瞑り、蹲り、忘れよう、忘れようと。
「──先輩っ!」
風の中を突っ切って、確かにそれは私の腕を掴んだ。
酷く無遠慮で、女性にする様な行為ではないのに。
はたと顔を上げれば、怒った顔の後輩が居た。
その時の私は、酷く安心していた。