表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/209

二位咸 其の陸

 ドン、と轟音が響く。

辺りには砂塵が舞い、瓦礫の山が飛ぶ。

木端に破壊された家々は、今も虚しくただ佇む。


 南からは全てを溺死させんとする大津波。

 東からは全てを石に変える大砂嵐。

 北からは浴びた物を乾涸びさせる轟嵐。

 南からは疫病を伴う大竜巻。


 多くの術者、科学者が口を揃え、何故あそこが存在できているのか、何をどう持って“在り続けて”いるのか分からない。

と諸手を挙げる。


 今も尚、戦争は続いている。

時間にして約二分、その間に約千もの人間が死に続けている。


“樹”は。

“樹”は何処だ。

私達の“最高傑作”は何処にいる?


 後どれほどを殺せば、乾涸びさせれば、水に沈めれば。

病で血を吐かせれば、飢饉で骨にすれば。


“き”はおとずれる?


────────────────────────


 ここの所、悪夢を見る回数が増えた。

最初の頃は、これも訓練の一環と捉えてはいたものの、最近は度を超えた回数、夢に出てくる。


 “樹”。

いつから私に備わっているのか、果たしてそもそもこれは私のものなのか。

何も分からない、人の、ヒトの力を優に超える、万能の様な力。

これといった代償も何も無いのに、術力を大きく上乗せする事もできる。


「…」


 正直、私はこの力を疎ましく思っている。

得体の知れない力…普段見る小説では定番中の定番だが、実際に持ってみるとこれほど気味の悪いものはない。


「…」


 やはり、私は所詮、何かを殺す事しか出来ないのだろうか?

あいつらが言っていた様に、何かを殺すためだけに──


      “つくられたそんざいなのか?”


 そんなはずは無い。

私は私だ。兵器ではない。私の意思で、私の選択でここに立っている。

そうだ、そのはずだ。


 でも、こういう事で葛藤するのってちょっと格好良くない?

主人公と因縁があったり、そも主人公の血縁者だったり…。


ちょっと、いやかな〜り憧れる。


「…ふふ」


 ふと、自分でも意外なほど柔らかい声が出る。

今の三年が一年の頃、…つまり私が一年の頃からは考えられん程。


「…にしても遅い!」


 本屋の前で集合と言っておきながら、待ち合わせ時間よりもう二時間は過ぎている。


     “もしかして、お前に辟易したんじゃないか?”


「…やめろ」


     “相手の都合も考えず、お前のしたい事を押し付けたからな”


「…」


     “嫌われても文句は──「黙れっ!」


 女を中心に、まるで竜巻の様な風が巻き起こる。

本を撒き散らし、八百屋の野菜や肉屋の肉などを、空高く吹き飛ばす。

頭を抱えながら竜巻の様な風の中心で蹲る。

誰も助けに来ないのに、餌を待つ雛鳥の様に、誰かが手を差し伸べるのを待っている。


 手を差し伸べようとした人達は、お前が吹き飛ばしたのに。

違うと連呼しながら、女はかぶりをふるう。

私は悪くない、悪いのはあいつらだと、居もしない何かを必死に責め立てる。


 側から見れば、異常者だろう。

頭の中に響く声など、本人以外の誰にも分からないのだから。


「──輩」


遠くの方から聞こえる、待ち侘びた者の声。

それすらも、今の女には猛毒となっていた。


「辞めろ、それだけは──」


耳を塞ぎ、聞くものかと、聞いてなるものかと。

目を瞑り、蹲り、忘れよう、忘れようと。


「──先輩っ!」


 風の中を突っ切って、確かにそれは私の腕を掴んだ。

酷く無遠慮で、女性にする様な行為ではないのに。


はたと顔を上げれば、怒った顔の後輩が居た。


その時の私は、酷く安心していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ