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二位咸 其の肆

「…そこで!私は言ってやったのだ!“私以下が束になったところで勝ち目は無い!”とな!」

「…」

「…あー、つまらなかった…か?」


つい、顔を覗き込む。

不安で、不安で、前までの私ならばこんな事はありえなかった。


 何かが、変わっている。

私の中で、何かが。

物語中盤に、突然心境の変化を描写するものは少なく無いが、これほど顕著だとは。


 私の自慢を、聞かせすぎたのかもしれない。

こいつの周りをふわふわと浮遊しても、全く反応が無い。


「……」

「…」


よくよく見れば、首がこっくりと船を漕いでいる。


なぜだか、私はそれに異様に腹がたった。


私の話を聞かない後輩に?…わからない。

話を聞かずに死ぬ後輩なんて何人も見てきた。

今更私の心境に変化があるとは思えない。


 じゃあ、なんで私はこんな言いようの無い怒りを煮えたぎらせている?

…碌な男性経験が無いからこうなってるのか?


いや確かにこの後輩結構…


「…おはようございます」

「んぬぅ!?お、おはよう」


…まぁ、これなら仕方が無いか。


────────────────────────


 ゴウン、と、無機質な音が響く。

歯車、水車、等々或いは人だろうか?

それらか、はたまた何かが、ゴウンと鳴る。


神ノ国、其の裏にて秘密裏に行われる“非人道”的な実験。

其の名を『人ノ身、神化ノ法』。

約百人程から抽出した“術力”“霊力保有力”“霊力変換力”等を人間一人に集約させる。


非人道的でありながら、言い換えれば“たかが”百人の命で諸外国に対抗できる様な兵士を量産できる、極めて効率の良い兵士量産法だ。


霊力等を空になるまで絞られた人間は、“抜け殻”となり、たとえ霊力等を戻そうとも元に戻る事はなく、ただ“魂”の入った入れ物となる。


計画が決行され、はや二百年余りが過ぎている。

決して公にできる事、する事の無いこの計画は、たかだか一人の少女によって破壊され、公に、明るみに出たのだ。


 曰く、「隕石が落ちてきた」。

曰く、「突然隣の奴が老け、死んでいった」。

曰く、「空気中から酸素が消えた」。


まるで神の御技かと見紛うような、報告書の数々。

これは、実際に起き、正に蹂躙と言う言葉が似合う様な事柄が、事象が、起き、全てを破壊した。


“選ばれし子供達”は全て殺され、研究に使用した費用はまるで帰ってこない。

何万人の子供を殺したかはもう全く覚えていないが、それでも、それでも、御国の為に。と、身を削った。


「…嗚呼。常世は無常ばかり」


天へと手を仰いでも、ただお天道様が隠れるばかり。


 既に両の足の骨は折れ、ただ残った片腕を持ち上げ、せめてお天道様から身を隠す。

泥に汚れ切った者に、只一柱の神の下を歩く事は許されない。


ただ虚な目で、お天道様を睨み、虚空を睨み。

次第にやってくる靴の音が、男には死神の靴の音に聞こえた。


「…いやだ、死にたくない。なんで、俺は、国の──」


せめてもの救いは、静かに、痛みなく死ねた事だろうか。


────────────────────────


 「後輩!新しく技を考えよう!案を出してくれ!」


ふわりふわりと漂い乍ら少女は男にくっつく。

それを疎ましそうに、何処か優しい笑みを浮かべながら、ただ振り払うふりをする、後輩と呼ばれた男。


「何か!案は無いか!」


頗る楽しそうに、もし稲月や水泡が見れば、異常事態だと捉える様な。

普段の彼女とは似ても似つかない感情の起伏。


実際の所、今男が出した案は全て少女が過去に造った術が大半だった。

隕石を降らせる、天候を繰り槍の様な雹を降らしてみたり、有り余る霊力、術力をもって、ほぼ不可能な投げやりな提案すら、少女は可能にしてみせた。


ただの一般人、“霊力を持っただけの一般人”には、非常に受け入れ難い光景だろう。受け入れ難い事実だろう。

凡人が一生を、魂の輝きが無くなるほど鍛え、ようやく到達出来る地点を、そこに壁などないと言わんばかりにひょいと飛び越える。


「…あれはどうです?ほら」


男は半ば諦めつつも、提案してみる。

天へと指を刺し、“お天道様”を指す。


「あれを作ってみるってのは」


ただ一つの誤算は、それを聞いた少女の目が輝いていた事だろう。

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