二位咸 其の壱
明けましておめでとうございます。
本年度も妖蔓延る世界のお話。を宜しくお願いします。
敬具。
時は少し遡り、また別の国。
神ノ国から凡そ七千粁ほど離れた、小国でそれは起こっていた。
一揆…所謂『クーデター』である。
政府の政治が気に食わなかったのか、はたまた何かに煽動されたのか。
約二十万の死者、負傷者を出し、尚もクーデターは、一度動いた民衆は止まる事は無かった。
政府も、国家も。
何もかもが意味を成さず、ただ崩壊していった。
たった一夜にして、その小国は音を立てて崩壊していったのだ。
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「…くぅ、くぅ」
本で顔を覆い、ゆらゆらと漂いながら寝息を立てるのは、十傑第二席“二位咸”。
本人の希望により、普段の自由な行動が認められている数少ない生徒であり、十傑。
空中をふよふよと浮きながら本を読めるのは後にも先にもこいつくらいだ、とは室呂の言葉だった。
「……この小説も読み飽きた…」
読んでいた小説を袋にしまい、その場でうつ伏せに浮かび直す。
彼女にとって、現実とはつまらない物の集合体でしかなかった。
おべっかばかり話す老害共。
こちらを見るなり逃げ出す臆病な妖共。
どれもつまらなかった。非常に。
「……」
彼女はとても退屈していた。
依頼が舞い込もうと、三十分もすれば妖は消滅させられる。
物を運ぶ依頼も、術を使い浮かせれば安全に運べるし早く終わる。何よりつまらない。
刺激が欲しい。
私が読む小説の様に。
こんなつまらない生活から、どうにか抜け出せないものか。
「…考えた所で、どーせ誰も居ないか……」
手元でブラックホールを作ろうと、誰も私を止めないし注意しない。
故意に山一つ消した時も、“暴走”という体で片付けられた。
…あれ?本来そっちの方が駄目じゃない?
そんな時だった。
「──!」
「ん?」
遠くの方から、何やら怒っている声がしたのは。
怖いもの見たさで顔を向けると、いつか見た後輩が居た。
後輩…いい響きだな。
あわよくば先輩と呼ばれたい…出来れば憧れとかそういう目も合わせて。
後輩は、私を心配していた。
“木の上に寝転がって、落ちたら危ない”だの、“降りれますか”だの。
…確かに私は子供に見えるかも、と少し気分が落ち込んだ。
そうだ、一つ驚かせてやろう。
そう思い立ち、空中で一回転しながら地に降りてやった。
後輩は…驚いて腰を抜かしておった。
「どうじゃ、凄いだろ!」
「──」
初めて交わされた言葉は、心配の声だった。
──初めて、人に心配された。