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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
水泡霜霧ノ物語
130/209

水泡霜霧 其の玖

そうして何日間かが経過した頃、彼は退療した。

それまでに残った体の歪みや、諸々の傷も、全てが完治した。

あの白髪は、もう二度と来るなよ〜なんて手拭いを振っていた。

いの一番に退療のお祝いをしたかったが、生憎妖討祓の依頼が舞い込んで、悲しくもお祝いには行けなかった。


 「…全部お前らのせいだ。くだらない抗争如きに巻き込んでくれやがってさ」

物言わぬ死体に、愚痴を溢す。


 妖を祓う依頼と聞いてやって来て、蓋を開けてみればヤクザの抗争の用心棒だった。

しかも、最終的には両方の陣営から敵と見做され匕首や銃を向けられる始末。

一体何故、私ばかりこうも汚れるのか。


もっと、汚れずに居たい。

ただ、彼の隣に立てる様、精一杯いたい。

私は、何処で、間違えた?


────────────────────────


「は?失踪?」

「…手紙を残してな」


真昼間、授業中に呼び出され、椅子に座る室呂先輩の前に立つ。

帽子を深く被り直し、溜め息を吐く先輩の目の下には大量の隈が出来ていた。

こちらを一瞥してはこめかみに手を当て、また一瞥しては唸る。

そうして三十分が経過して、今に至る。


 途中何度か十傑の人達が入っては何かを察した様に出て行くのを見て、漸く決心を固めたのか、室呂先輩は重い口を開けた。


「…お前に、捜索の白羽の矢が立った」

「…“依頼”ですか?」


室呂先輩の目が鋭く俺を貫く。

この目は、あの時の目だ。

俺を追いかけていた時の、何かを見据えている目だ。


「…あぁ、依頼だ」


────────────────────────


『あぁ、依頼だ』


あぁ、彼が、ここに来る。

屍の山に、音が何もないここに、彼が音を蒔いてくれる。


「…ふふ」


思わず笑みが溢れ、心に温かいものが溢れていく。

彼はまだ私を見てくれる。

汚れた私を、彼を迎えに行けなかった醜い私を。

ならば、私は待つとしよう。


 薄暗いここで。

貴方を、“響”を待とう。


“朝だというのに、何故かここには月が出ている”。

仄暗くも、灯りに照らされ、微かに先が見える程度には明るいここで。

あぁ、確かに、君を待とう。


────────────────────────


無我夢中に、走っていた。

後ろから怒涛の勢いで追ってくる、濁流、泡。


“朝なのに”、何故か月が出ているから、おかしいと思った。

電子機器は使えず、音も途中で何かに当たって途切れる。


何故、こんなことになった。

後ろから迫ってくる何もかもを、何であの人が出している?


「ねぇ、響くん。私さ、君に会ってからおかしくなったんだ」


「今までの私なら、こうも執着しなかった。こうも君に傾倒しなかった」


「君が、壊したんだ。私を。壊したんだ」


「…こうなったらさ、こうするしか知らないんだよ」


「私は所詮、人にはなれなかったんだ」


その言葉の後、俺の体は弾け飛んだ。

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