多々良凛〜拾〜
記念すべき十話目です。
(物語としての)
「はぁっはぁっ」
響をおぶり、走る。
出来るだけ響に衝撃を与えないように。
「此処まで来れば…」
実家からは相当離れた山の中。
野草やキノコ等の見分け方は習った…とはいえ危ないか。
「あぁもうホンット腹立つ!」
家を襲撃し、響を攫おうとしたあの化け物共。
此方を見、不敵に笑う狐。
空高く浮かび、見下ろすだけで何もしなかったあの龍。
「あいつら…せめて正体が分かれば…」
狐の方は何となく分かるが龍の方がイマイチだ…
そもそも何故実家なんだ?
何か…十中八九響ね。
「響どうしようか…」
私と居たら襲われるかもしれない。
かと言って一人にもできない。
「ホンット面倒くさいわね…」
追われるのは私だけでいいんだ。
響だけでもどうにか出来れば…
「(コイツの家は…)」
駄目だ。
多分張られてる。
「チッ…」
駄目だ駄目だ。
響の前では可愛い子で居なきゃ。
それにしても…
「何でこの状況でぐっすり寝れるのよ…」
まるで死んだように響はぐっすりだ。
結界を維持する霊力もどれだけ持つか分からないってのに。
「(どうしよう)」
八方どころか六十四方囲まれた気分だ。
そうか、絡繰を使えば…
「(いや、駄目だ)」
絡繰なんか使ったらばれてしまう。
どうやって探ろうか…
「(あまりしたくないけど…やるしかない)」
術紙を地に置き、式言を唱える。
「我、『目』を必要とする者。
召喚の式に応じ、我に瞳を与え給え」
術紙が光り輝き声が聞こえる。
『汝、我を呼び瞳を欲するか』
「はい」
『汝、贄を何とする』
これだ。
贄やら人柱やら、要求が重いのだ。
「望む物を」
『ふむ…』
「なんなりと」
何が来ても良い。
取り敢えず情報が欲しい。
『では、我この物を欲する』
「はっ」
『睦月、弥生、皐月、文月、長月、霜月。
この月、逢魔が時に我を呼び、此れを持て』
「はっ」
め、目薬?
『最近、目が渇くのだ』
まぁ、いいか。
今回はだいぶ楽に済んだ。
『頼んだぞ』
「かしこまりました」
『では、我が力お前に与えてやろう』
ではな、と言い百目鬼は帰って行った。
「(よし)」
街の様子を思い浮かべ、『視る』。
「(白い服の連中…家のとは対照的な…)」
私の家の衣装とは真逆の真白さ。
少し不気味だ。
「(それに私の家の連中)」
何かを探している?
多分あの化け物共だろう。
何か言い争っている?
「(狐や龍の情報は…分かる筈もないか)」
欲しい情報は入らなかったが存外助かった。
これなら響を家に送れそうだ。