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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
水泡霜霧ノ物語
124/208

水泡霜霧 其の参

申し訳ございません、所用で書く時間が取れず、文字数が少なくなりました。

そのため、突然知らない文が増える可能性があります。

11/7 文章追加

その日は、よくよく風の吹く日だった。

稲穂が揺れ、夕陽はとても綺麗だったことを覚えている。


つまらない任務も無く、二位の癇癪に付き合う事もなかった。

久々に街へ繰り出してみれば、家の近くの肉屋が特売日だった。

最近ルルリエから伝わった料理が所狭しと並び、道行く奥様方の注目を浴びていた。


それだけなら、「ああ、いつものことだな」なんて思って通り過ぎていた。

その奥様方の中に、彼がいることを発見した後、私の足は驚くほど重くなった。


奥様にもみくちゃにされながら、何とか特売の肉を手に入れようと必死になっている彼を見ると、何処か胸の奥から湧き出るものがあった。


──この時は、いかんせん位知事の気の迷いだろうと鷹を括っていた。


────────────────────────


また翌る日。

今度は豆腐屋が特売日だった。

普段なら見向きもしない豆腐屋の前で、ただ一人彼を見ていた。


絹ごしを二丁買って、微笑みを浮かべながら豆腐屋を後にする彼を見て、少し胸の中のモヤモヤが晴れた気がした。


────────────────────────


それから一週間が経ったある日。

私に一つの依頼が舞い込んだ。


“夫が浮気をしている可能性があるので見張って欲しい”という、まぁ聞くだけで辟易とする様な依頼だった。


そして、妻の名前を見、夫の名前を確認した時、私の中に電流が走った。


そこに書いてあった“夫”と記された枠の中には──



“鳴渡響”と、確かにそう書いてあったのだ。


────────────────────────


翌る日も、明くる日も。

私は彼を嗅ぎ回った。


女の影は一切なく、あるのはただの、彼一人にしか描けない青春だった。


“馬鹿らしい、あんな依頼信憑性の欠片もない”と、思った時だった。


──確かに、女が彼に接吻していたのだ。


それ見た瞬間──


悍ましい程の吐き気が、私を襲った。


“あれは彼じゃない”。

“彼は汚れていない”。

“彼の形をした偽物”。と。

何度も何度も頭の中でそれを繰り返した。


何故?彼には少しも興味など無かったはず。

何故?ここまで私は吐き気を催している?


──昔、二位に借りて見た小説の中で、これに近い光景を見た。


なら、小説に則って行動すれば、これも晴れるのか?


そこからは、もはや記憶が定かではない。

自分が何かに乗っ取られた様で、もはや恐怖すら憶えた。


「…」


私は、ただ彼に向かって歩き始めていた。


──────────────────────────


また、翌る日。

何故あの時気持ち悪くなったのかも分からず、ただ彼に付き纏っていた。


彼が買い物に行くとなれば、偶然鉢合わせた様に居合わせる。

彼が妖の討祓に赴くとなれば、無理やり割り込んで一緒に着いて行った。


今こうしている間も、彼が何をしているのか気になって仕方がない。


時刻は丁度正午。

…彼はちゃんとご飯を食べているのだろうか。

彼の普段の生活を知っていれば、こう思考するのも当然かもしれない。

親御さんが亡くなって、お金…通帳も最近盗まれたらしい。

今は弁財さんが面倒見ているらしいが、あの人も自分の事となると途端に無頓着になるし、あまり当てにならない。


かといって、私もあまり料理は出来ない。

彼の生活の面倒くらいなら見れるが、それはお金面だけの話だし。

彼も、突然知らないお金が郵便口に入っていたりしたらよしとしないだろう。

というかそもそも法でダメか。


何度も思案した。何度も思考した。

そもそも、私は何で彼に“あの様な”感情を向けている?

たかが一度、討ち漏らしを救ってもらったからか?

それとも、あの意味があったかよく分からない十傑合宿か?

あの時、何かに惹かれたのか?


ふと、携帯電話に目をやる。

そこには、二つ、たった二つの連絡先。

一つは母親、五年くらい前に縁を切ってからは最早連絡すら取っていない。

もう一つは、鳴渡響。

つい先月くらいに、連絡先を交換したばかりで、未だこちらから連絡を取ったことはない。


はぁ、と溜息が漏れる。

普段の自分なら、もっと押していく筈。

あの日、彼に守られて、彼に庇われて、頭の中はまるで生娘。

彼のことを考えるだけで頬が緩むし、顔が赤くなる。

熱に浮かされたように、思考すらもぼやけていく。


そして、彼に接吻した女。

恐らくは神無月よりも強い。

一瞬、須臾程の時間もかからず、私はおそらくあそこで殺されていた。

たかが須臾、されど須臾。

何度も死線を潜ったからこそわかる事がある。

世の中には、“手を出してはいけない”連中が居る。


あの女は、それに該当する。

恐らく、二位の倍以上の霊力が、ただ相対しただけで感じ取れた。


だからこそ、あんな女は彼の側に居てはいけない。


私が、彼を守るんだ。


────────────────────────


「…鳴渡くん」

「?何です」


ああ、綺麗な、無垢な顔だ。

汚れを知らない様な、無垢な顔。

あれだけの事を経験したのに、顔には一点の曇りのない。


「…守ってあげるからね」

「…?」


その時の彼の顔は、とってもきれいだった

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