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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
水泡霜霧ノ物語
123/208

水泡霜霧 其の弐

彼と次に会ったのは、共同作戦の時だ。

よくよく三日月の映える夜で、確か大妖の討祓の件だった気がする。


その時は別の班で、私がやってたのは妖を凶暴化させる術を使用したという人間を捕まえる班だった。

私の術は良くも悪くも対人用なので、妖討祓には向かないのだ。


「後衛は私に任せてくださいね…ん?」


僅か五里先で、私の作った泡の弾ける音がした。

今回のは人間に触れても割れず、妖が触れた時にのみ割れる様に調整したものが、弾けた。


「…妖が出た。人の非難を優先するよ」


“泡沫ノ陣”

私が一代で完成まで漕ぎ着けた、私だけの術。

自らの足元に輪を生じ、輪の内から浮泡を発生させる。


その泡が漂う間、私は無敵だ。

全神経を泡に集約させ、感覚そのものを泡と共にする。


この間、目を閉じなければ、私は死んでるんだけどね。

全神経…といっても、触覚、聴覚、嗅覚の三つが何億倍にも強化される。

それは視覚も例外で無く、もし目を開けていれば、今頃私の脳は焼き切れている事だろうね。


泡が飛沫に化ける頃、弾け方により、どんな物かすらも手に取るように分かる。


「…足が八本…蛸型の妖?だけれどここは海じゃないし…」


森林…よりも人工林と言ったほうが正しいであろう森の中で、ヤモリや蜥蜴や蛇では無く、なぜ蛸なのだろうか。

それも、大きさだって海に出現する蛸型とそれほど遜色はない。


唯一違うのは、場所ぐらい。


その時だった。


私が思考に苛まれているほんの僅かな間に、“彼”からの報告があったのだ。

何でも、男が一人、知らない足音を立て、離れて行った。

との事。


妖の討祓を主としている向こうの部隊…まぁ、彼か。

に、こんなことをさせてしまった事、この時はとても恥ずかしかった。

欲を言えば、彼の前ではかっこいい先輩で居たかったからね。


現場を他術士に任せ、私は一人、その男を追う。

凡そ人間の出せる速さでは無く、何か足に使える妖を呼んだのかもしれない。

足に強化術を施し、森の中を駆ける。

因みに、この術を掛け、陣を張った私から逃げられるのは、二位くらい。

まぁ彼女は「瞬身!」とか言って一瞬で遠くに逃げるから実質私の勝ちではある。


──待機位置から凡そ二里離れ場所で、突如男は止まった。


それと同時に、妖の気配も一つ消失した。


────────────────────────


「…止まってくれてありがとう、名も知らない男さん」


男は何も応えない。

まるでそもそも生きていないような雰囲気すら感じるほど、その男は静かだ。

あたりに木霊するのは、近くを流れる清流の音。

匂いを嗅げば、腐った木の葉の匂いがする。


「助かるよ、私の術は結構広範囲で、しかも味方も巻き込むから──」


男が腕を振るうと同時に、一本の鋭い刃物が空に舞う。

私はそれを、目を瞑りながら回避する。


男は少し止まり、また腕を振るう。

次は十の刃が此方に向かい飛ばされる。

それすらも、私には全てがわかる。


「…残念ながら、“それ”は当たらないよ。例え何万本投げようとね」


遠く、七里ほど離れた場所から、叫びが木霊する。

凡そ人間には出せる声では無く、妖が祓われた事を決定づけるのに事足りた。


その叫びが耳に入った直後、男は途端に逃げ出した。

逃げると同時、後ろを向きながら男は辺りに煙幕を撒いた。

無論、そんな目眩し物は私には効かないけど。


男を超える速度で駆け、男の腕を掴む。

骨を砕き、腕を捻じ切る。


「…こんなとこ、彼にはみせられないね」


捻じ切った腕を辺りに放り、次は足を捻じ切る。

殺さない様に、慎重に捻じ切る。

私は神無月みたいに慈悲がない訳じゃ無い。

稲月みたいに容赦がない訳じゃない。

室呂くんみたいに冷徹な訳でもない。


「…痛いよね、ごめんね」


だから、泣きながらこういう作業をするのにも、もう慣れた。


午後三時十三分、実行犯確保。


────────────────────────


「…いやー、ごめんね。響君」


側から見れば、私の方が歳が下に見えるだろう。

実行犯を受け渡し、今は二人で帰路についている。


「…いいっすよ。それこそこっちこそですから」

「え?」


「いやー、最初気づいてもらえるか不安だったんですけど、よかったです。流石第四席ですね」



「…えへへ、そうかな?」


その日、よく眠れたのを、未だ覚えている。

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