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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
翠泉美玉ノ物語
117/209

翠泉美玉 其の玖

療局地下から翠泉が脱走した事は、瞬く間に神ノ国全土に知れ渡った。

既に約三十人を殺している事、それでも尚ナニカを探している事。

行く先々で、全てを破壊しながら。


無論本人に人を殺している感覚はとうに無いのだろう。

道端に落ちている石ころを蹴るような、ただ邪魔だからという理由すらなく、“そこに居たのが悪い”と言わんばかりに、目につく生命を端から端まで全て根こそぎ殺していく。


かつての理性的な様は何処にもなく、口が裂けたような笑みを浮かべながら、たった一人の男を狂ったように探し続ける。

既に標的の姿を、気配を、匂いを、霊力を捉えながら、翠泉は鳴渡に近づけなかった。


鳴渡の周りの囲む、僅か三人の影。

十傑第三席“稲月鈴”。

十傑第五席“室呂修”。

十傑第九席“越中千足”。


上二人を除けば、比較的戦闘力のある三人が、鳴渡を守るように陣取っている。

恐らく室呂、稲月、越中共が、既に翠泉には気づいている事だろう。


翠泉は戦闘力だけでは、十傑最下位と言っても良いほど。

あの三人との間には、恐ろしい程の差がある。


頭を掻きむしり、歯を食いしばりながら働かない頭で思案する。

無策に正面突破ではただ隙を晒すだけ。

植物を使おうにも、霊力はほぼ無い。


「…ムカつく。ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくぅぁっ!」


瞬間、射殺さんばかりの眼光が翠泉の体を射抜く。

叫んだばかりに、自らの居場所も、心も、身体の状況すらも相手には筒抜けた。


地面を鋭く蹴り、ただ響に向かって突進する。

自棄になったわけでは無い。

こちらとすれば、響さえ殺せばこの苛立ちも治るから。


ただ、響を殺させてくれればいいから。


────────────────────────


こちらに突っ込んでくる元十傑第八席を、ただ迎撃する。

如何に速かろうと、光よりは遅い。

如何に硬かろうと、黒曜石よりは硬く無い。

如何に強かろうと、神無月よりは弱い。


「稲月、東だ」

「わぁーっとるわ」


稲月の背に、太陽を模った輪が生まれる。


「千足。充電開始だ」

「りょーかいっ!」


千足の周囲の岩が浮き、其の間には、稲妻が奔る。


「『第五式解放』。“対妖用突貫砲『百八十五粍』”」


自らを潰す様な、巨大な砲。

威力は妖を貫き、曇天に風穴を開けるほど。

最高速度百八十粁に達するそれは、決して人に向けていい代物では無い。


前方より突進する、毒物。

人としての理解を失い、薬物に溺れた、ただの肉。


「…射ぁっ!」


空気が震え、鳥たちが一斉に飛び立つ。

山一つをすら貫くそれが、翠泉を穿つ。それだけだ。


無論、当たればの話ではあるが。


『幻覚鱗粉“胡蝶の夢”』


夢を夢と思うか、はたまた現実と思うかは、見た者次第である。

翠泉の姿は霧の様に消え、甘い匂いが鼻腔を擽る。


翠泉が使う毒の殆どは、無臭である。

ただ、“やばい薬”などを、間違った様に使わない様、甘い匂いをつけている。


「…!『化物用』二十八粍拳銃!」


右手に黒を、左手に白を。

頭を撃ち抜き、心の臓を抉るソレを、連射する。


翠泉の毒により、体は侵され眩暈もしている。

学長直々の、“響を守れ”という依頼。


「…喝!」


今一度気合を入れ直す。

自らに幻覚を見せる物を、焼き尽くす。


空中に、三つの砲身が顔を覗かせる。

辺り一体を焼き尽くす、火の龍。


「薙ぎ払え!」


ゴォッという音と共に、幻覚を見せる鱗粉を焼き尽くす。


────────────────────────


室呂の恐ろしい所は、彼が携帯する銃や、呼び出す銃は彼が作った物である、という事。


「…クソっ!あんな所入ったら一瞬で塵になる…!」


響に向かい突進した直後、目の前を何かが横切った。

刹那、隣の木は音も立てずに、粉々に砕け散った。


たった一瞬で、細切れだ。


だが、あの術を使った室呂は、恐らく霊力切れを起こしているだろう。

隙をついて、響さえ回収できればいい。

いや、回収できなくても、殺せればいい。


標的は一つ、難易度、極。

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