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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
翠泉美玉ノ物語
115/210

翠泉美玉 其の漆

「…最近お前機嫌いいな」

───────────────────────

「…なんかさ〜、ウン。変わったって感じ?」

───────────────────────

「何でもええけど、事務仕事に支障きたす様なら本格的にウチで調査入れるからな」

───────────────────────

「…つまらなくなったの」

───────────────────────


「…」


うふふ。

あれを打ってから、苛立つ事そのものが減った気がしますね。

なんかこう、頭がふわふわして、何も考えなくて良くなりましたね。


「…うふふ」

「何やってんだお前」


あー、幸せです。

あんなに暗かった世界もこんなに輝いて見える様ですね〜。


「…」


空を眺めていると、幾つも星が降っている様で。


「天童くん」

「室呂だが、あいつと間違われるとは心外だな」


てを伸ばせばとどきそうで、只々虚空に手を伸ばす。


「で、屋上に来てまで何をしている」

「天童くん」

「俺は室呂だ」


「私、今なら飛べる気がするんです」


ふわりと、空へと身を預け。


───────────────────────


「麻薬に近しい…何かやね」


目の前に座る白髭を蓄えた老齢の男はそう言う。

先月新しく療局局長に就任したくせに、未だ現場に出てくる腕のいい問題児。


「ほんと、酒見が居なくなってから回らんくなってなぁ」


頭を掻きながら息を吐く様に愚痴を溢す。

よく見れば目の下には大量の隈が出ており、確かに疲労が見て取れる。


「ほんま堪忍やわ、療局の薬の幾つかは翠泉ちゃんから買ってた物もあるからなぁ」


翠泉美玉…現時刻から凡そ二時間前に、屋上から飛び落ち、全身を骨折。

その中、右二の腕、左太腿、また顎から骨が突き出る重症を負う。


「室呂くんから聞いた話やと、そんな感じやね」


回転椅子を回してこちらに向き直ると、男はまた一度大きな溜息を吐いて俯く。

腿に腕を置き、掌で頭を押さえている。


「今は治療の最中やし、無論麻薬は絶っとる。ワシの術で何とか隔離、集中治療は出来とる」


目の下をほぐしながら、男は続ける。


「ただ、禁断症状的なモンが出るのは時間の問題やな」


ぎぃ、と男の椅子の背凭れが音を立てて曲がる。

男の目は、これから起こる惨事を憂う様。


「やはり無理か」

「せやねぇ、室呂くんには悪いけど暫く…大体二、三週間は隔離やね」


その答えを聞き、先ほどまでの男と同じ様に溜息を吐く室呂。

額に掌を当て、打ちひしがれる。


「…事務仕事等は出来るとは言え、さすがに任務は滞るか…」

「脳内会議なら他所でやってや、ワシこー見えて忙しいねん」


すみません、と言いながら席を立つ。

扉から出ようと手をかけた時、不意に室呂が振り返る。


「“報告”は逐一お願いしますよ」


凍える程冷めた目で、こちらを射抜きながら言葉を放つ。

さしもの男にもよく聞いた様で、わかっとるわ、と面倒くさそうに返す。

ピシャリと音を立て、扉が閉まる。


「…ったく災難な物にめぇつけられたのぉ」


目の前に幾つも置かれている書類を目に通し、本日何度目かもわからない溜息を男は吐いた。


───────────────────────


「え。…麻薬やってたの?」

「…近しい物、だがな」


“二人”の欠員がいながら、さもそれが当たり前かの様に話を進める室呂。

彼の報告に心底驚いたのか、天童すらも驚いていた。


「…問題はいくつかあるが、まず一つ」


室呂が指を立てて続ける。


「翠泉が居ない間の、朝張にある研究所の監視、管理をどうするか」


二本目の指を立てて続ける。


「翠泉美玉の、十席除外の検討だ」

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