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妖蔓延る世界のお話。  作者: 書き手のタコワサ
翠泉美玉ノ物語
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翠泉美玉 其の弐

「…失踪ねぇ……よくある事でしょ〜?」

「あぁ、それがこんなに頻繁に、尚且つ“朝張”で起こらなければな」


月に一回の十傑定例会議。

大体は誰か欠席するものを、今回は珍しく神無月も二位も出席している。

…明日は槍でも降るんじゃないか?とは毎回律儀に出席する室呂の愚痴だった。


正直参加はしたくは無かった。

出来る事なら実験室に籠って薬品の実験と“彼”の監視を続けたかった。


「…朝張っすか」

「お?何?因縁ある感じ?」


腕を組み、言葉を発するのは、私から見て右前方に座る二つ下の後輩。

普段から実直な物言いを良くして、よくも悪くも敵が多い。

それに言葉を被せる様に話す、同い年の女。


所謂“女に人気のある女”で、学内外問わず彼女を慕う女性、女生徒は多い。


「…いや、あそこは未だに復旧が進んでないんすよね?」

「うん。というより、政府すらも放棄してるってのが正しいよ」


政府お抱えの術士達が誰一人帰って来なかった事から、“危妖以上の脅威が潜む”として、朝張の捜索、復旧は打ち切られた。

裏には莫大な利権が絡んだ“再開発”と呼ばれる物も頓挫したらしい。


「あそこの近くを通る度、なんか薬品臭い臭いがするんすよね」


「…翠泉、どこに行く?」

「え。い、いや?ちょ〜っと用事を思い出しましてぇ〜…」


気配を消して部屋から出ようと思ったのに、室呂に捕まった…。

くそ、こういう時だけ目敏いんだよこいつ。


「そういえば、学園外での“非合法な実験”又、“人体実験”、“薬品の調合”は禁止だったな?“翠泉美玉”」

「うぐっ…、……………わ、分かってますよ〜?」

「そうか、なら良い」


途端に突き刺さる、薬十七の目。

こちらから目を離し、議題ごと別方向に持っていく室呂。

…くそ。


──────────────────────────


「クソっ…クソっ…」


私は荒れていた。

思う通りに薬品が完成しないのもアレだが、室呂から言われた事も尾を引く様に体を蝕む。

あの男はやる時はやる。

こちらの違反なぞとうに耳に入っているだろうに、役立つかどうかを判断してから判決を下すつもりなのだ。


「はぁっ…はぁっ…」


鎮静剤…興奮した神経を抑える薬を静脈に打ち込み、脳を落ち着かせる。

副作用等は特に無いが、そろそろ耐性が付いてきた。新しい薬を作らなければ。


「…そうだ、アレがあるじゃ無いか」


私は、急遽増設した南の部屋に足を踏み入れる。

急遽増設した部屋という割には、夥しい量の血肉がこびりつくその部屋に。


「…クソ、なんで出ないんですかねぇ…!」


無意識に足に力が入っていたのか、部屋の床を凹ませてしまう。

…決して私の体が重いわけでは無い。決して。


『…折り返し連絡させて頂きます、ご用件を…』

「…ちっ」


電話を切り、感情のままに壁を殴りつける。

肉体で戦う様には鍛えていない為、壁を殴った自らの拳から血が滲む。

その血が滲む光景が、更に私を苛立たせる。

今日はどの薬品を打ち込もうと思案していると、電話が鳴り出す。


『…はい、鳴渡です』

「十分以内に来て下さいね〜?」


それだけを伝えて、電話を切る。

机に電話を置く際に、電源も切っておく。

これで面倒臭い奴らの対処も放っておける。

流石に毒薬は…いや、中和用の薬品も打ち込んで、嘘を言った時の反応も気になる。


「…ふふ、久しぶりの感覚ですね〜?」


十傑に入る前、よくこうやって非合法な実験をしては教師陣と追いかけっこしてましたね〜。

…こうやって一応目を逸らしてもらえる様になってからは、そういうのも減りましたね〜。

まぁ、名目上禁止は変わってませんけど。


「…遅いですねぇ〜」


彼に付けた連動植物が反応している…という事は、大分近いですね。

時間的にはまだ八分しか経っていませんが…気分で少し罰を重くしますか。


壁に手をついて術をかけ、植物を埋め込む。

彼は私より十糎ほど背が高いですから、首の位置が分かりやすくて助かりますね。


遠く方から、階段を駆け降りる音が聞こえる。

ここでは無い扉を開け、中に私がいない事に困惑する声も。


「…遅いですよ〜?」

「……任務の途中「口答えですか〜?」…」


「ほら、そこに立って下さいね〜?」


壁を指差し、誘導する。

渋々といった様子で、彼はそこに立ち、蔓に絡まれる。

その様はなんとも言えない高揚感を胸に表わせる。


いまから、私はこの子にしてはいけないことをする。

幾つもの薬品を打ち込んで、何回も殴って。

ただの私の苛立ちを抑える行為。


「クソっ…クソっ…」


何度も何度も彼を殴る。

鳩尾を、脇腹を、“普段服で隠れる”範囲を重点的に。

何度も何度も、彼のくぐもった声が部屋に響く。

自らよりずっと立場が弱い人間を甚振るのはこうも楽しかったか。


「どいつもこいつも…」


殴る。殴る。殴り続ける。

殴るこちらの手が赤くなり、彼の腹が蒼くなるまで。


骨が折れる音も、筋肉が破ける音も。全てを無視して。

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