第02稿06話~これよりここを仮拠点とする3~
__遊び人|装甲馬車
出発の時間になった。正直言って昨日の酔いが残っている。
酷い気分だ。そうだ。ヒールをかけよう。ヒール、ヒール。ぐおおお、気持ち悪い。なんだコレ。
『おいおい、大丈夫か?脳の血管切れたんじゃないか?』
ヒールかけたのに?
『まぁ、切れてもおかしくない位、血管が弱っててヒールの魔力が頭に集中したんだろ』
魔力酔いって奴か。忍者とは症状違うけど。
『アレは暴走だろ。酔いとは違う。あと風のせいかもな』
現在、吹き叫ぶ風に煽られ中。装甲馬車の中ならまだしも屋根の上は外だしな。
昨日の重力と魔力と乗り物酔いが合わさって目の前がぐるぐる回っている。
「大丈夫でござるか……?」
「今朝、振り回しすぎたかな」
「やばいでござるか。返事も出来ないみたいでござる」
「大丈夫かしら、ココノ」
「しょうがないなぁ。ユウに刺されない様に祈る。神よ。気を静め毒を鎮め詠唱破棄」
状態異常回復の魔法をかけられて、調子の悪さが回復する。酔いには体力回復ではなく状態異常回復魔法の方が良いらしい。
「ありがとう2人とも。カタナ、昨日のアレはもうしないでくれ。俺の身体は空を飛べるように出来ていない」
「申し訳ないでござる……」
「分かれば良い。人間大砲とか言うアホな事も考えるな良いな?」
≪あーあー、上に居る魔女と聖女は中に入るっすよ。これから森の開拓に入るから危ないっす≫
「拙者らは危なくないでござるか?」
「危ない気がする!」
「あー、森が見えるな」
前方のは木の壁が見え始めた。森である。馬車を止める気配がない。開拓……滅茶苦茶嫌な予感しかしないな!
≪突撃形態入るっすよー。上の3人は振り落とされない様にしがみつく様にっす≫
突撃形態ってなんだって思ったら。馬の前に目に見える障壁が展開されてた。ドリル状でトゲトゲが付いている、それは回転し始めた。
これはアレだ。トンネル掘る奴じゃないのか?トンネル掘る様に森を突き進むというのか。
そんな事を考えてたら森に突入していた。バキバキと音を立て木々が轢き倒されて行く。悪路どころの話じゃない。屋根に必死こいてしがみつく。
「これはやばいって!いくら僕らが嫌いだからってこれはヤバいって!カタナフィールド展開!早く!」
ロックオンが叫んでいる。と思ったら後頭部に衝撃が走る。あ、意識が、やべぇ……
__遊び人|エラー
「おいおい、マジかよ」
目の前に居たのは黒ずくめの男。懐かしい気分になる。あれ?何でフールが目の前に?
「倒れた木がお前の頭に直撃したんだ」
「え?俺死んだの?」
「いや、ちょっと魂出てきちゃっただけだろう。前回の男は一月に一回はここに来るくらい死にかけてたしな」
「死にかけてるのか……」
「いや、まさか後頭部に丸太が殴打して、ここに来るとは思わなかった。さて、何か話すか?今なら制限無く答えられるぞ?」
「まず、ここは?転生の間なのか?」
「ここは俺の自室だ。おっと」
沢山あるモニターが浮いた部屋。モニターの一つを見ようとしたら指を鳴らす音が聞こえモニターの映像が一斉に消える。
「悪いな。他の仕事とかもあるから見せられん」
「いや、えっと。これどうなってるの?俺戻れるの?」
「先程も言ったが瀕死状態から回復したら戻れる筈だ」
「じゃあ、待つか」
「質問は?無いのか?戻るまで暇だろ話に付き合えよ」
フールがそう言った途端、扉がノックされる。
「む?誰だ?」
「4thさん!ヘルプです!助けてください!」
「今は取り込み中だ。後で行くからあっち行ってろ」
「まぁまぁ、そんなツレない事言わないでくださいよ!」
何か光った人型の靄が扉開けて入って来た。
「おや?貴方は……本当に取り込み中だったんですか!申し訳ありません!あとで私の転生の間に来てください!失礼しましたー!」
靄が五月蠅い。速攻で逆再生して扉が閉まった。
「今のは?」
「はぁ、アイツは俺よりも長く神様やってんだけど。ダメ上司みたいなもんだな。うん、まぁ良い。他の質問はあるか?」
「質問かぁ。放浪者については?」
「現在申請があってお前らの世界に居る放浪者は2名だな。変な喋り方をする外人と青っぽい犬だからすぐわかる」
「なんだその組み合わせ」
「まぁ、向こう戻って覚えてるかは分からないけどな」
「そう言えばどうして言えない事があるんだ?」
「与えられる情報が役割によって制限されてるからだ。なんていうのかあぁ、NGワードに引っ掛かると言った方が良いか?」
「んー……何となく分かった。その二人組は味方なのか?」
「おう、ゲームで言うお助けキャラだから助力を願えば手伝ってはくれるぞ。ただ、観光みたいな感じで来てるから相当気に入られないと無理だろうけど。流石に殺される事は無い筈だ」
「殺される可能性もあるって事か、死にやすいって良く分からんかったけど。勇者の影響かここの所、体調が」
「ストレス性胃炎かね。しかし、勇者の様子も解せないな」
「勇者からの怨をひしひしと感じる。入学式の時は結構サッパリ目だった気がするんだが」
「勇者がお前に固執するのに何か心当たりは無いか?」
「ある訳ない……ってあれ?」
「あぁ、時間切れの様だな。お疲れ。頑張れ。天から見守っててやるよ」
目の前が眩しく真っ白になって行く。目が焼ける。いや、マジで焼ける。あと息が苦しい。マジで俺死ぬのか!