第03稿04話~霧の舞台で死の舞踏9~
__遊び人|湖
目が覚めたら勇者の顔面がドアップだった。真顔の勇者と目が合う。
「うわっ勇者!?こわ」
「ユウだよ!ユウ君!」
「ここは?」
「戦闘が終わって安全そうな所に寝かせたんでござるよ」
カタナが近寄って来た。勇者がドアップの件は触れてこない。ドッキリではないようだ。
「あー、そうか、俺が気絶したら物資出せないな」
「帰ったら学園長を強請るから大丈夫でござるよ」
学園長を強請る……あの学園長を?強請りが成功するビジョンが思い浮かばない。
「勝てるの?一回は戦ってみたいよね!」
勇者はタイマン前提か、バトルジャンキー勇者だったりするのか。そう言えば手加減も糞も無く入学試験でやられた様な気がする。剣士脳筋多い。
「多分、労災が降りるでござる」
「労災……」
仕事扱いと言う事か?学園長から護衛の仕事でも受けているのか?護衛するのにPT組んでくれたとしたら、中々ショックだ。一応、侯爵家の跡継ぎらしいし。
「トキトー殿も今回の治療で費用が掛かるとしたら学園長が負担してくれると思うでござるよ。費用がかかるならでござるが」
「労災ってそう言う事か、他は?今どういう状態?」
「あぁ、敵倒して一休みしてた所でござるよ」
「輸血するとか言ってたけど終わったのか?」
「忘れてたでござる!!」
「勇者、早く腕だしてートキトーに血あげて」
「え?うん、もちろん良いよ!!」
「……トキトー殿、本当に勇者が輸血相手で良いんでござるか?」
その確認は何の確認だろうか。
「もし拒否反応が出たらロックオンに治癒弾を撃ってもらおう」
「カタナは無理、僕も治癒役で無理、残りは勇者だから選択肢はないよ」
勇者の血を輸血すると大変な事が起こるような口振りな気がするんだが気のせいか?あ、そうだ。勇者にバフをかけたままだった。切っとかないと輸血にどんな影響があるか分からないな。
「勇者のバフは切ったから多分大丈夫だ。それに今はそこそこ回復してるから鍛冶で注射針位なら作れる」
「そう言えば、さっき作った針はどうしたんだっけ?」
「拙者が持っているのは蜂の針だけでござるよ」
「置いてきちゃったか」
魔法の鞄から銀塊を取り出す。流石に屑鉄じゃ品質が怖すぎる。銀塊から少量ナイフで削る様に削り取る。鍛冶スキル、戦闘中に使えればなぁ。製作スキルは使用すると周りが見えなくなるのが難点だ。攻撃されても防御も出来ないから戦闘中には使えない。
「はい、出来たぞ」
2本作った。
「ありがと、次は瓶もお願い」
「チューブみたいなのは作れないでござるか?点滴の奴の様な」
「安全そうな素材が無い。ゴムっぽいのはあるけど煮沸出来ないしな」
「そこはアルコール消毒で良いのでは無いでござるか?」
「アルコールか、安全そうな酒が……」
「前に買い出しした時に純度の高いウィスキーは入れてもらった筈でござるよ。あれなら消毒にも使える筈でござる」
魔法の鞄の中身を確認するとウィスキーが確かに入ってる。
「いつの間に、てか俺ら未成年なのに買っていいのか?」
「ここでは15程で成人でござるよ」
「学園入学の年齢なのにか?」
「一人で王都に送り出される年齢が成人の証みたいなモノらしいでござるよ」
「一人旅で生きてける様になったら成人って事か」
そう思うと千尋の谷に突き落とす事を推奨している世界な気がする。そんな事を考えながらウィスキーを空き瓶に注ぎ、その中に針を入れた。
「貴族は護衛もしっかりついて王都まで来るけど平民は途中で賊に襲われたら終わりな所はあるよね」
「貴族でも俺は一人で王都まで来たぞ」
乗合馬車は使ったが賊に襲われる事はなかったな。
「そうなんだ?」
「トキトー殿は一人の方が安全まであるでござるしね。あ、ちょっとチクリとするでござるよ」
先程作った針が腕に刺さる。赤色のチューブが付けられている。何処から出したんだろうか。忍者の収納は体内保管……考えるのを止めよう。
「まぁ、お付き付けられてもゴート以外は見失うからな。ゴートには商会の経営も頼んでるからうちの領地からあんまでないぞ」
「あぁ、そうだったねゴートさん。ゴートさんの話聞く限りだとダンジョンの呪いじゃないよね?そこらへんどうなの?」
「あぁ、もう隠すほどでもないしな。転生ボーナスの時のデメリットを受け入れた」
「あれかぁ、僕は取ってないんだけど何のステータスと交換だった?」
「拙者は職業と交換だったでござるよ。勇者殿、腕をそうそう、ぐぬぬぬ。もうちょっと力を抜けないでござるか?」
勇者の腕に針が通らない……
「職業と?」
「サブ職業を選択させてもらったでござる」
「二つ目の職業か?ちなみに何を?」
「忍者&侍でござる。お陰で刀を使った攻撃だけ倍率が高いでござるよ。その代わり獲得経験値は半分でござるが」
「経験値半分はレベル制の世界だと辛いな。俺の方は選択スキルの取得ポイントが2倍だった。デバフはランダムで決まったらしいが職業の特徴が反転するだと」
「遊び人の特徴?ステルスの……反転となると」
「ヘイト集めが得意がヘイト0にと言う事でござろうか?拙者の遊び人の解釈とは違うでござるが」
前回からかなり時間が空いてしまいました。カタナの職業に関してはスイッチ式です。忍者の時は忍者のステータス倍率になり侍は侍の倍率となります。でも得意武器補正は重複したりしてます。スキルについてはその職業のスキルしか使えなくなりますが。侍状態でも忍術は固有選択で取ってるので使えます。では次回こそ態勢を整えてダンジョンをあとにする筈です。それでは皆様また次回。