第02稿09話~そうだ、カメラを作ろう4~
__研究者|トキトー邸―書庫
『次は、その本』
「紅茶とビスケットをお持ちしました」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、失礼しました」
クッキーと紅茶を持ってきてくれた使用人の気配が消えた。気配を消すのがトキトー家の特徴なのかしら戦闘系の察知系のスキルを持ってるのなら分かるのだろうけど。生憎、私は研究者。そう言ったモノは持っていない。
クッキーを一口齧る。甘い……トキトー領は砂糖までも開発しているのかしら。
醤油や味噌を知っていて作っているという事はユウ・トキトーは十中八九、転生者よね。
この世界に来てからネットとかも無いし何より味付けが極端な食事が大変だった。エルフの里では食材のみだし。王都では味気ない黒いパンと塩っからいスープとスパイスが効き過ぎて辛いお肉。魚の味噌煮が出た時は不覚にも涙が出てしまった。
「おや、甘い匂いがすると思ったラ、ティータイムですカ?」
「はい、貴方は……」
金髪にアロハシャツを着た人が居た。
「アナー・パペットと言いマス。トキトー家の親戚筋デス」
一瞬、そう見えたが違った。黒髪黒目、確かにトキトー家の特徴だ。
「何か用ですか?」
「いえいえ、熱心に本を読んでいる様デシタので様子を伺いに来タのデス」
「そうですか」
「これは気マグレデスどうぞ、読んでみて下さい」
「これは……」
差し出されたのは一冊の古い本。タイトルは日記……日本語……?
「この世界とは異なる言語で掛かれている書籍デス」
「どうして私に?」
「貴女が研究者だからデスよ。ちょっと時間が経ち過ぎましたが読めば分かると思いマス。死の際に頼まれたのを思い出したのデ、渡そうと思いマシタ」
「……ありがたく頂いておきます」
本を開いて中を読む。
『前回の研究者が残した書物か』
前回の転生者って事は500年ほど前の叔父様の世代って事かな。
『そうなるな』
「フム、お邪魔のヨウデスネ。私は失礼シマショウ」
何か聞こえたけど気にしないで読もう。
『著者の名前はタツキ。特に貴族とかではないみたいだ』
転生前の名前は榊原 樹。これ樹って書いてタツキって読むのね。男性みたいね。字は綺麗。読みやすい。
えっと何々、次世代に継ぐ研究。魔障の除去手術?
魔族から人にする研究?しかも、外科手術!?ただでさえ文明が進んでいない世界で外科手術か……生憎、私は前世は医者でも何でもないから前世が医者だった人を見つけて話を聞くしかないかな。
それでもさらに500年前に外科手術を行ってた人が居たなんて驚きだわ。
賢者がもしかしたら医者をやってたかもしれないし後で聞いてみよう。
除去手術の記録が並んでるけど、どれも失敗に終わっている。
成功例は無いのかしら。あ、生存って書いてある。失敗と言う文字に並ぶ中に生存と言う文字を見つけた。
生存したけど成功していないって事?詳しい記録みたいけど。あくまでも日時と行った手術と可否しか掛かれていない。何のために記録を残したのかしら。
『この世界だと、この人は異端扱いされてただろうなぁ』
何故?
『君らの世界には回復魔法が無いからあれだけど、この世界は内科で大体、治療出来ちゃうからね』
切る必要がないって事ね。
『そう。だからこんな研究してたら辺境に籠ってするしかない』
それだ!!この記録があるって事は何処かで実験していたのは間違いない。ならその実験所を探し出せば、研究の詳しいカルテがある筈。この本で分からないかしら。
『成程、取り敢えず地名とかに注意して探してみよう』
今の所分かっているのは、地理的には実験体である魔物や魔族の確保が容易な場所。
そしてなおかつ、瘴気の届いてない場所。これは実験が成功しても瘴気のエリアだとまた魔物や魔族に戻ってしまうかも知れない可能性があるから。
あとは本の中身を精査するしかないか。
「失礼します。紅茶のお替りとビスケットをお持ちしました」
「ありがとうございます!!」
いつの間にか傍に居た使用人の人が紅茶を注いでくれる。
ビスケットを摘まみ、紅茶を流し込んで読み進める。
『鬼人族の集落の近くらしいな』
タツキは鬼人の人達の酒盛りに頻繁に顔を出していると記述を残していた。
『この世界の鬼人族は龍人族、エルフに次いで長寿だから知ってる人も残ってるかも』
じゃぁ、鬼人族とコンタクト取れる様に叔父様に頼んでみましょう。そう言えば転生者の種族って人間とエルフ以外にもなれるの?
『なれるよ。でも大体は人間しかなれないから人間が多いだけだよ』
そういう理由……。よし、取り敢えず、この本は置いといて、この書庫の本を読みましょうか。
『さぁ、次々!次はそっちの本で』
アナー「それは残像だ」
次回は解放された遊び人。
それでは皆様また次回。