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婚約破棄の裏事情   作者: 夕鈴
夢の世界の話   
12/13

エピローグ 夢の世界の真実

覗いていただきありがとうございます。

たくさんの人に読んでいただき、楽しんでいただけたこと感動しております。

少しだけいつも作品を読んでくださる方に向けて遊び心が入っています。全然わからなければサラリと読み流してください。

物語の雰囲気が変わりますが、覚悟して目を通してくださいませ。


たくさんの本の納められた書庫で金髪の美女が本を読んでいた。

まだ結末が綴られていない終わりの見えない分厚い本から顔を上げ、長いため息をこぼす。棚から新たな本を探し出し、表紙を(めく)る。


****


金髪の少年が膝を抱えて蹲っていた。

ずっと気付かなかった。大事な婚約者にとっては自分の好意で手配したお茶会さえも苦痛なものだった。

出会ってから年下の婚約者に苦痛しか与えていなかったと自己嫌悪と後悔に襲われる王子がいた。


「殿下、どうされました」


一人の騎士が見覚えのある落ち込む姿に笑いをかみ殺す。

無言の王子に騎士は適任者の友人の姿を目に止めて手を振って呼び寄せた。


「カローナを傷つけた。どうすれば傷つけないかわからん」


しばらくしてポツリと零された王子の言葉を聞いた騎士に呼び寄せられた青年は顔を上げずに落ち込む姿に親近感を覚える。好きな子について悩む気持ちをよく知る青年も空回りの経験は豊富だった。



「謝ってその後はご本人に聞くのが一番ですが、聞けませんよね。二人共生きてるならいくらでも挽回できます。でもせっかくならここに良い相談相手がいるんです。愛妻を7年以上も騙し続けた男が。それに相変わらず喧嘩ばっかり」


青年はお道化る騎士を睨み足を踏む。青年の黒歴史は愛妻によって愛娘に伝わりいつの間にか社交界で有名になっていた。


「誤解を招く言い方をするなよ。騙したって言うか勘違いを利用しただけだよ。そうしないと一緒に、でもおかげで今があるから後悔してない」


金髪の少年、第一王子はゆっくりと顔をあげて青年に視線を向けた。

青年は末の息子と同じ歳の第一王子の視線を感じて苦笑する。


「殿下、興味がおありで……。面白くもありませんが、いいんですか? 結婚して10年以上も経って子供もいるのにいまだに私はよく怒られます。妻のほうが悪いのに、結局私が折れて必死で謝って、許してくれる笑顔を見るとどうでもよくなるんですよ。私の妻は自分に恋心を持つ男を側には近づけない人でした。私は妻の傍にいるために妻への恋心をずっと隠して騙したけど、彼女は時効にしてあげるって幸せそうに笑うんです。違う人間なんで、どんなに気をつけてもすれ違いはありますよ。私達は喧嘩して謝って許し合う繰り返しです。それでも幸せですよ。

すみません。話がズレましたね。殿下、私もこいつも、もちろんトネリもいくらでも相談にのりますよ。恐れながらまだ子供な殿下よりは経験豊富です。女心は難しいから妻に相談してもいい」


第一王子は幸せそうに笑う青年を見て小さい声で呟く。


「傍にいてもいいんだろうか」


二人の青年が顔を見合わせて笑う。


「傷つけて見ないフリして逃げ出すか、必死に謝罪して傍にいるかは決めるのは殿下です。お二人は婚約者ですから、前者はおすすめしません。今はお二人なりの向き合い方をゆっくり探す時だと思いますよ」


第一王子は婚約者のカローナを傷つけたくない。できれば屈託なく笑ってほしい。


「どうすれば笑ってくれるだろうか……」


イナナは立ち竦んでいる姉に駆け寄った。


「お姉様、いらっしゃいましたか!?」

「うん。でも、大事なお話を」


イナナは第一王子達が真剣に話し合ってるのは気にせず大きく息を吸った。


「お菓子が冷めてしまいますよ。殿下、お茶をしますが、どうしますか?」


第一王子はイナナの声に気付いてカローナを見つけ腰を上げる。男はいらないと数時間前に部屋からイナナと祖母に追い出されていた。


「イナナ、無礼よ。殿下、申しわけ、いえ……」


カローナは第一王子に貴族の顔をしないという課題の途中だった。

貴族の笑みを浮かべて、固まるカローナに第一王子が近づき手を差し出すとそっと手が重ねられる。


「カローナ、すまなかった……私はそなたを大事にしたい」


カローナは第一王子の小さい呟きを拾った。

カローナは第一王子がよくわからない。冷たい手を包んでくれる温かくて大きい手とこっそり聞いていた会話にじんわり胸が温かくなった。カローナは自然に笑みを溢したことに気付いていなかった。

第一王子はカローナのふわりとした柔らかい笑みに目を奪われ、イナナは目を輝かせる。

イナナにとって久しぶりの、いつの間にか見れなくなった姉の大好きな微笑みだった。王家が嫌いでも第一王子は執行猶予をあげようと決めた瞬間だった。

カローナは頬を染める第一王子と嬉しそうに笑うイナナに首を傾げる。イナナは困っている姉のあいている手を繋ぐ。


「おばあ様とお菓子を焼いたんです。殿下にも分けてあげるから行きましょう」

「イナナ」

「カローナ、気にせん。楽しみだ」


カローナがイナナの無礼を咎めるのを第一王子が笑顔で遮った。

呼ばれた伯爵は騎士にもういいからと追い払われた。

騎士は手を繋いで歩く三人の様子を眺めながら、ゆっくりと後ろを付いていく。イナナの楽しそうな声が響き渡っていた。

それから第一王子の相談会が恒例になるとは騎士は思っていなかった。恋人に話すと楽しそうに助言をくれるので、いいかと笑う。そして女心のわからない典型的な駄目な男と言う友人の妻の言葉が真実と知るのはしばらく先の話だった。

男達は第一王子の話とは伝えなかったが、女性陣にはお見通しだった。


美女は本のページを(めく)った。



**


カローナはイナナと共に出席した王家主催のお茶会の帰りに第三王子を目に止め礼をする。


「頭をあげて」

「おかえりなさいませ。殿下」

「ただいま。持とうか?」


第三王子はカローナとイナナの持つ書類に手を出そうとすると、カローナが笑みを浮かべる。


「お気遣いいただきありがとうございます。妹が半分持ってくれているので大丈夫です」

「そうか。手伝おうか?」

「お気持ちだけありがたくいただきます。久々の殿下のお帰りを国王陛下が首を長くしてお持ちです」

「父上か……。うん。仕方ないか。何か困ればいつでも」

「ありがとうございます。恐れながら殿下、誤解を招くお言葉は」

「僕は派閥を立ち上げるつもりはないよ」

「失礼しました」


「殿下」


第三王子は大臣に呼び止められ苦笑する。帰国のたびに父の話し相手に呼ばれるので用件はわかっていた。顔色の良さそうなカローナにほっとしながら、手を振って別れた。

第三王子がカローナを助け出すには、まだまだ力が足りなかった。イナナが第三王子のカローナに向ける熱の籠った視線に警戒したのは気付いていなかった。そして第三王子はカローナの行先は第一王子の執務室とも気づいていなかった。

カローナとイナナが第一王子の執務室で預かった書類にペンを走らせていると扉が開いた。

第一王子は公務でカローナの迎えに行けなかった。顔をあげたカローナの笑顔を見て安堵の笑みを浮かべる。


「帰ったか」

「おかえりなさいませ殿下。第二王子殿下の体調が優れず、視察を引き受けてほしいと第二妃殿下より言付かっています」


第一王子はカローナから渡された資料の視察先に目を見張る。今まで訪問したことのない国との外交だった。一人で訪問するなら問題はないが最近はカローナがいつも視察に同行していた。


「カローナ……」

「連れてってくださいませ。私、一度その国に行きたかったんです。魔法なんて物語の世界が本当にあるなんて」


うっとりしているカローナを見て、第一王子は悩む。

三月の長い視察であり、予定の一月半は移動である。


「留守はイナナに任せるのでご安心を。抜かりはありません」


第一王子はカローナに弱かった。護衛の手配だけしっかりすることを決めて静かに頷くと満面の笑みを返されつられて笑う。イナナも上機嫌な姉の笑顔を見て笑みを浮かべる。美少年と美少女の微笑み合いに眼福と癒されている家臣達を見て、カローナが立ち上がりお茶の時間の準備を始める。

全員でお茶を飲みながら朗らかに長期の視察についての話し合いがされ、綿密な計画が立てられた。

イナナに留守番を任し、第一王子とカローナは旅立った。

旅は順調に進み、到着した第一王子達を出迎えたのは接待役の王子と銀髪の美女だった。

第一王子達は穏やかな王子と銀髪の美女にすぐに打ち解けた。

特にカローナは銀髪の美女を気に入り、接待を笑顔で受けていた。


「お二人のご成婚はいつでしょうか? 私、是非お祝いを」

「殿下はまだ婚約者を決めておりません」

「え!? ご婚約されてないんですか?」


カローナの目には二人はいつも親しそうに映っていたので驚いて声をあげた。銀髪の美女の纏う柔らかい雰囲気に外交を忘れて素で話していた。


「私は殿下の一臣下にすぎませんわ。私的ではお友達ですが。手のかかる兄のような弟のような。ごめんなさい。内緒にしてくださいませ」


カローナは柔らかく微笑む顔を見ながら、自国の妃達よりも全てが美しい美女が将来の妃だと思い込んでいた。


「ごめんなさい。失礼なことを」


申しわけなさそうな顔をするカローナに銀髪の美女が優しく微笑む。


「お気になさらないでください。私はカローナ様に我が国のことを知っていただくように仰せつかってます。なにより心穏やかに過ごせるようにと。私は王族の婚約者のお立場の大変さも存じておりますので、うちではどうぞ羽を伸ばしてください。もしお二人でお忍びしたければ護衛の手配を致しますのでご相談を」

「お忍び?」


カローナは外交先でお忍びを進められるのは初めてだった。沈んだ顔から楽しそうに瞳を輝かせるカローナに銀髪の美女が微笑み返す。手のかかる接待役を引き受けることの多かった銀髪の美女は無茶な手配も手慣れている。特にお忍びの護衛の手配は自国の王子のおかげで得意だった。


「ええ。我が国の騎士はお忍びの護衛も完璧にこなします。御身に一切の傷もつけません。そろそろ戻られますわね。私は失礼します」


ゆっくりと立ち上がり美しい礼をして退室した銀髪の美女と入れ違いに第一王子がカローナの部屋に訪問した。


「お帰りなさいませ。妃殿下達よりお美しいのに未来のお妃様ではないなんて……」


残念そうに話すカローナに第一王子が笑う。


「彼女は王国屈指の魔道士で妃にするよりも腹心の立ち位置が一番使い勝手がいいらしい。彼女が側にいれば、護衛騎士も必要ないと」

「見せていただいた魔法も綺麗でした。あんなにお美しく華奢なのにお強いなんて。希望すれば、騎士の訓練の見学も手配してくださると。他にも希望があれば遠慮なく教えてくださいと。魔法を使えない騎士もたくさん育てていらっしゃると」

「まことか。魔法を使った戦いは見事……」


カローナは第一王子が楽しそうに話す魔導士と騎士の手合わせの話に耳を傾ける。危険が伴いカローナの教育によくないので、別室でもてなされていた。

数日後にお忍びの手配がされ、カローナは喜んでいた。護衛は忍ばせてあるので、思う存分二人で楽しんでくださいと手書きの観光案内やお薦めのデートコースを渡され、銀髪の美女に送り出された。

カローナにとって立場を忘れるほど一番楽しい外交で、第一王子の手を引き珍しい物ばかりの市を散策する。


「殿下、本がたくさんあります。買ってもよろしいでしょうか」

「そなた、そんなに」

「だって、こんなに恋愛物語がたくさん。挿し絵も綺麗です。うちの国にも、イナナも喜びます」


第一王子は大量の本を抱えるカローナの笑顔に負けて頷く。いつの間にか隣に現れた魔導士が購入した本を預かり消えていった。あらかじめ荷物持ちを忍ばせていると聞いたがあまりの自然な様子に第一王子は目を見張りカローナは楽しそうに笑う。

第一王子の心配していた外交は全てが順調に進んだ。

今までで一番きめ細かいおもてなしに第一王子は感心していた。王子達より年下の第一王子達が自国の文化を楽しめるように配慮されていた。魔法という未知のものへの恐怖心もなくなり、今後も良い付き合いができそうだった。そしてカローナの喜ぶ姿を見ながら連れてきて良かったと思っていた。

第一王子は晩餐を終えてカローナを部屋に送り、庭園で星が輝く夜空を見上げていた。


「どうされました?浮かないお顔をされていますが」


第一王子はいつの間にか隣に立つ銀髪の美女に何でも話せると笑ったカローナの気持ちがわかった。慈愛に満ちた声に警戒心も体の力も抜けていた。


「楽しい時間を、夢が覚めなければと願ってしまうんです」


第一王子の切なそうな瞳を見て銀髪の美女が微笑み星空を見上げる。


「きっと誰もが願うことですわ。朝目覚めて、目の前の世界をどう生きるかは自分次第です。私は夢の世界が恋しくてたまりません。でも今、目の前にある世界も大事です。ですから、精一杯前を見て進むことにしましたの。周りには手のかかる方ばかりで困ったものですわ」

「恋しいですか?」

「はい。恋しくてたまりませんわ。ですが、自分の気持ちに正直に生きると見えるものも変わりますわ。あら?そろそろ雨が降りますわ。中に入りましょう。殿下と二人でお話ししたと知られたらカローナ様が妬いてしまいますので秘密ですよ。失礼しますわ」


綺麗な笑みを浮かべて立ち去る銀髪の美女を第一王子は見送る。しばらくして、雨がポツリと降り始める。

最初は夢でも現実でも構わなかった。それでも、第一王子は前だけを見て進むのは怖かった。

雨に濡れた第一王子に手配されていた騎士が近づき、濡れないように結界で覆い、濡れた服を魔法で乾かした。


「殿下、中にお入りください。彼女は変わっているので、聞き流してください。あれの言葉は深く考えるだけ無駄です」


第一王子は騎士に促され、強引に部屋まで送られた。部屋には温かいお茶が用意されており、口に含むと眠気に襲われ目を閉じた。

第一王子とカローナにとっては外交よりも旅行に近いものだった。一月の滞在期間は何も問題はおこらず、あっという間に終わった。戦争を好まず魔法で栄えている王国にとっては、魔法への脅威や畏怖を取り除くのが目的の交流だった。


第一王子達の外交は無事に終わった。

第二妃はカローナ達が親しげに帰国した様子を眺めていた。憐れな鼠が踏み潰されたのは誰も知らない。外交の成功もカローナの同行も予想外であり、魔法という未知の技術を持つ国との外交は難易度が高く失敗を願っていた。そしてマグナ公爵家が第一王子派をまとめていたので、買収も失敗していた。

銀髪の美女は帰国したカローナからのお礼の手紙を読んで、複雑な顔をしていた。第一王子はカローナの買い込んだ物語に続巻や作者の新作があれば、取引してほしいと王子に願うと快く了承された。王子は友情よりも国益を選んだ。常に笑顔の美女がカローナのお気に入りの物語を嫌っているのにカローナは気付かずに第一王子から贈られる物語を上機嫌に読んでいた。


「フィン様、二人は離れ離れに」


カローナは離れ離れになった恋人同士の話を読んで切なくなり泣き出した。

第一王子はそっと抱きしめ指で零れた涙を拭う。


「もう贈らぬほうが」

「欲しいです。違います。ただもう切なくて、家の事情で結ばれず、思いを隠す少女とそれでも一心に追いかける少年が」


第一王子は戸惑いながらも、カローナの話に耳を傾けていた。女心に鈍い第一王子はどうして泣くのかわからなかった。

魔法の王国で令嬢の慰め方や口説き方を教えてもらっても使うタイミングがわからなかった。その王国のある青年は息をするように美女を口説き、ある青年は美女への賞賛が止まらなかった。第一王子の知る国の中で一番貴族の青年達が積極的に女性を口説く国だった。カローナは銀髪の美女の庇護下にあったため口説かれなかった。むしろ銀髪の美女の青年達への対応の仕方を隣でありがたく勉強させてもらっていた。王国の王子からの勉強のためにという配慮だった。銀髪の美女はカローナの近くにはいないタイプの教師だった。

カローナが思いっきり泣いてスッキリするまで、第一王子はただカローナを抱きしめ頭を撫でていた。婚約者が泣いた時の対応もしっかり教わっていた。

しばらくしてイナナが訪問し、三人でお茶を飲みながらカローナが満面の笑みでその後のハッピーエンドを想像して語るのを聞き、第一王子は無意識に笑みを溢す。そして第一王子の笑みに見惚れる愛らしい姉をイナナが嬉しそうに眺めていた。


美女は何枚かページを読み進め手を止めて顔を上げた。

美女の妹弟子の悪戯で時を遡った一人の少女は元の世界に帰ることを願っても口に出すことはなく懸命に前を見て歩いていた。

もう一人の青年は必死に足掻きながらも夢が醒めるのを恐れて時に囚われている。妹弟子の気まぐれで浄化されずに過去の世界に囚われた。

善行を積む運命(さだめ)を背負った妹弟子のフォローをするため、美女は少年を呼び出し耳に囁き、頷いた少年が本の中に消えて行くのを見送った。


第一王子ではなく伯爵となった青年は自身の肩に頭を預けて眠る妻の冷たい手を握りながらぼんやりしていた。娘は義妹の家に遊びに行き留守であり二人っきりだった。

気配なく目の前に現れたローブを着た見覚えのない少年に警戒し、剣に手を伸ばす。


「危害は加えないよ。正しさを愛する姫様の使いで参りました」


第一王子は礼をする少年に敵意がないのがわかり、剣に伸ばした手を解く。


「この世界は貴方にとっては夢ではなく現実世界。貴方はこの世界の住人だよ。貴方が捕らわれる昔の過去の世界には戻れない。昔の世界での貴方の出番は全て終わっている。今、目の前の世界が現実でありこの物語の世界が貴方の居場所」


「夢ではないのか?」

「妹が迷惑をかけた。この世界は貴方にとって現実で、過去が夢。この世界に生まれた貴方は過去の記憶を持っていること自体がおかしいんだよ。希望があるなら、過去の記憶を消すよ」


少年の美しい声で綴られる言葉は第一王子の胸の中にすとんと落ちる。怪しく理解をできない言葉でも疑う気はおきない。それでも第一王子は首を横に振る。後悔しても消したい記憶は何もなかった。


「そのままでいい。カローナは笑っておったか」

「やり方は間違っても最後まで王族として務めを優先した過去の貴方に敬意を示して真実を。彼女は幸せな生涯を送ったよ。貴方の命日にいつもお墓に花を捧げた。民のために捧げた短い命、彼女にとっての敬愛すべき王は貴方だけだった。これからは貴方次第。これ以上は禁忌に触れるから、退場するよ」


少年が指をパチンと鳴らすと辺りが光に包まれ姿を消えた。

第一王子の脳裏に映像が浮かんだ。

眠る第一王子の手を握って祈る黒髪の女性が浮かんだ。


「殿下、私はいつまでも殿下の幸せを祈ります。私なんかに思われて迷惑かもしれませんがお許しください。どうか幸せに。民に愛され尽くされた殿下のことを皆が讃えます。第二王子殿下達は優れていました。ですが殿下もすばらしい王族でした。殿下が立て直した伯爵領は花が芽吹いて民達も活気が溢れて美しい場所でしたわ。私は殿下の成したことを心に刻みます。お疲れ様でした」


第一王子はカローナが優しい少女だったのを思い出した。聞こえた声は聞き覚えはなくても優しさに満ちていた。


墓の前で花を捧げ祈る黒髪の夫人と少女が脳裏に浮かんだ。


「お母様、ここに眠ってるのがお父様に内緒の王様?」

「ええ。立派な王様」

「お母様の初恋の?」

「お父様には内緒よ。太陽に照らされると全てが輝いて見える王子様だったわ。お母様には眩しすぎたけど、凛々しい王子様」

「お母様、あれってお父様じゃない?」

「あら? もうお仕事終わったのかしら。内緒ね」

「うん。内緒!!」


楽しそうに笑う黒髪の夫人と少女。夫人を抱きしめるのは成長した弟だった。

カローナを救ったのは弟。

第一王子は幸せにしてくれたことに感謝した。自分が傷つけた少女は前を向いていた。ずっと妻に言われていた言葉の通りだった。

少年の言葉を頭の中で繰り返し、以前頷けなかった銀髪の美女の言葉を思い出す。


「目の前の世界をどう生きるかか」


夢から醒めないなら伝えたいことがたくさんあった。

この世界が現実なら叶えたいことも。

幸せと認めてしまい、幸せになろうとすればするほど夢から醒めてしまう気がしていた。

目覚めてカローナのいない世界が怖かった。

そして傷つけていたカローナを思うと望んでいいかわからなかった。

ただ、かつて傷つけたカローナは自分の幸せを願ってくれた。


「カローナ、私が幸せになったら怒るか?」


第一王子は雲一つない青い空を見上げて呟いた。


「怒りません。幸せになってください」


第一王子は隣から聞こえる声に視線を向けると、拗ねた顔をしたカローナが目を覚ましていた。

第一王子は許された気がした。かつての婚約者は弟が幸せにした。だからこれからは隣の妻だけを想って今度こそ幸せにしようと。

カローナを第一王子は抱きしめる。


「ロナ、愛しておる。どうか傍にいてほしい」


カローナは珍しく饒舌な夫の言葉に満面の笑みを浮かべる。


「フィン、離れないよ。これからもずっと一緒。だって最後は」

「私はそなたがいれば幸せだ」


明るい声にカローナは顔を上げると、幸せそうな顔で瞳が明るかった。カローナは第一王子の頰に手を添えて、瞳をじっと見つめた。暗さも不安のカケラもないキラキラ輝く瞳にようやく傷が癒えたと思いカローナの瞳から零れた涙を第一王子がそっと指で拭った。


「よかった。私の太陽に曇りは似合わないもの」


幸せそうに泣き笑いを浮かべるカローナに第一王子は優しく口づけた。

カローナは夢から醒めることを恐れていた第一王子の本当の変化に気付いていなかった。

幸せそうな第一王子に余裕の笑みを浮かべていたのは最初だけ。

今まではカローナが第一王子を押していた。

第一王子は行動だけは常に優しい。そこに素直な言葉が混ざった破壊力が凄まじかった。

呼吸するように溢される甘い言葉にカローナは赤面する。


「フィン様、嬉しいけど、恥ずかしいのでどうか控えて、いえ、せめて、あの、えっと、」

「様はいらぬ。ロナの声が」

「ストップです。心臓が、もう私は」


瞳を潤ませ震えるカローナに第一王子は甘い微笑みを浮かべ額に口づけを落とす。


「二人でおるか。離したくない」


第一王子に抱き上げられた赤面して震えるカローナを見て、臣下は今日は二人は休みと動き出す。常に先を見て執務をしているので、急ぎの案件はない。王宮にいる頃よりもさらに幸せそうな二人を微笑ましく見ていた。

容姿端麗な伯爵夫妻から美しい子供がたくさん生まれるのを歓迎していた。

子供が何人生まれても二人の甘さは変わらなかった。

カローナは突然訪問した友人にポプラの淹れたお茶を飲みながら溢す。


「私はどんなフィン様も愛しておりますが、昔の可愛らしいお姿が恋しいです」

「兄上、変わったよね。カローナ、僕、お嫁にもらっていい?」

「まだ成人しておりません。それにうちは縁談相手は貴族でなくても構いません。好きな方と結ばれ幸せに生きてほしいです。こんな小さい伯爵領は片手間で治められますもの」

「まだ恋は早そうだよね。僕も頑張らないと」

「フィン様には内緒にした方がいいですかね。でも気付かないかな」

「カローナ、これお土産。販売前の物語、だから」

「暗くなる前には帰ってきてください。お泊まりは許しません」

「ありがとう。兄上が嫌になったらカローナも僕が引き取ってあげるから」

「義弟に面倒を見てもらうつもりはありません。お部屋でお勉強してますが、続きは明日でいいと伝えてください。行ってらっしゃいませ」

「行ってくるよ」


第三王子は商人として諸外国を飛び回り、帰国すれば母親かカローナ達のもとを訪ねていた。第一王子が王宮に呼ばれる日を狙うズル賢さは変わらない。カローナは第三王子が愛娘を本気で狙っているとは気づかず、姪を可愛がってくれる様子を微笑ましく見守っていた。


「お姉様、遊びに、え? なんでいるのよ」


立ち上がった第三王子の笑顔が扉から入ってきたイナナを見て、一瞬固まる。


イナナはカローナ夫婦の信者の侯爵子息と婚姻しマグナ公爵夫人になった。マグナ公爵家は夫に預けて頻繁に姉を訪問していた。そして、カローナの次男を養子にしている。

イナナ達は崇拝するカローナの子供を育てる野望を抱いていたため、子供は作らなかった。カローナも第一王子も妹夫婦の頭が少しおかしいことに気付いていなかった。子供は授かりものなので快く養子に出した。貴族の世界では養子はよくあることだった。


イナナは世界を飛び回っているはずの胎教に悪い第三王子を嫌そうな顔で見た。


「イナナ、いらっしゃい。殿下は」

「お姉様、教育によろしくありません。こんな男に」

「殿下に失礼は駄目よ」

「単なる一商人ですよ。こないだうちの取引を……。お姉様、その手にあるのは」

「殿下がお土産にくださったの。続きが気になっていたから嬉しいわ」


イナナも同じ物語を入手していた。嬉しそうに笑う姉の笑顔を独り占めしていた第三王子を睨む。第三王子とイナナは仲が悪く、イナナが潰そうとしても第三王子のほうが一枚上手だった。


イナナと第三王子が笑顔で喧嘩をしている頃、第一王子は父親に孫の顔が見たいと呼ばれ、息子を連れて参内していた。

痩せた顔で息子を抱く父親を静かに見つめていた。父は子供に興味がないと思っていたので頻繁に呼ばれるのは意外だった。


「私も隠居して、孫と過ごしたい」

「父上……?」

「あら、義兄様、参内されてましたのね。大きくなりましたわ。義兄様にますます似てきましたわ」


ゆっくりと入ってきた淑やかな笑みの義妹にあたる正妃に第一王子は礼をする。


「頭をあげて。カローナはどう?」

「身重のため、参内は断らせていただきました」

「体が一番ですもの。お幸せに。義父様、そろそろ戻りましょう。義母様がお茶を用意してお待ちですよ」


第一王子は表情の抜け落ちた父に気付かず、父の膝から降りて飛びつく息子を受け止める。


「父上、剣の稽古に行ってもいいですか!? 騎士団長に勝ちたい。強いんでしょ!?」

「ご自由にどうぞ。もし王様に興味があれば教えてくださいませ」

「僕は伯爵になります。誰よりも強く、格好良い父上みたいに」

「まぁ、楽しみですわ。では二人共さがってよろしくてよ」


第一王子は礼をして息子の希望する騎士の詰め所に向かう。正妃は幼い甥の無礼を咎めず愛らしい姿を微笑ましく眺めていた。

訓練場では第一王子に気付いた騎士達が集まってきた。


「殿下!!」

「久しいな。もう王子ではない」

「俺達にとっては変わりません。今日はご子息も」

「一番強い人と戦いたい!!」

「すまぬ。そこまでの腕前はないが遊んでやってくれ。丁度良い腕の者がおらん」

「伯爵領は精鋭ばかりですから。新人ならいいかな」


第一王子は息子が若い青年に飛びかかっていくのを懐かしそうに眺めていた。自分も昔はこんな感じだったと。

第一王子が鍛える伯爵領の騎士は精鋭のため、騎士団長並みの実力を持っていた。まだ幼い息子は勝ち星が上がらない。それでも、挫けずに拗ねることなくまっすぐ育つ息子が誇らしかった。

全敗しても愛妻は小さい太陽に、娘は敬愛する兄に惜しみない声援と称賛を送る。そして運動音痴な二人を見て大事な家族を守るためにさらに努力を重ねる息子は自慢だった。


国王に即位した第二王子の耳に賑やかな声が聞こえた。

ふと外を見ると兄にそっくりな少年が駆けまわていた。子供は慈しむべきものと教わっても何も思わなかった。第二王子は毎日が退屈で堪らない。

正妃は夫の正しい教育方法がわからなかった。絵本を与えても正しい情緒が育たない。

気長に国を治めながら色々試すことにした。民の幸せが第一である。夫が傀儡になるならそれでも構わなかった。お気に入りの侍女のお茶を飲み、従妹の幸せそうな様子を思い出し笑みを深めていた。



第一王子は帰宅を出迎えたカローナを抱きしめた。


「ロナ、帰った。会いたかった」


カローナは夫の背に手を回し微笑む。


「おかえりなさいませ」

「そなたが」


カローナは甘く囁く声に危険を感じて胸を押すと、長い指を頰に添えられ輝く太陽の瞳に見つめられ、甘さを含んだ笑みに、一気に熱が上がる。


「フィン、そ、それは夜に。あ、あの子は」

「土産を持って一目散に部屋に、ロナには」

「フィン、お、お客様、溶けるから、待って、」


第一王子はカローナの後ろに視線を向けると第三王子とイナナがいた。頬を染めるカローナの額に口づけを落として腕を解き、手を繋ぐ。


「久しいな」

「義兄様、この男は全然久しぶりではありません。私の可愛い」

「イナナ、黙ろうか。教育に良くないよ。兄上、良い酒が手に入ったので持ってきました。二日ほどお世話になってもいいですか?」

「ああ。構わん」


カローナは頰を染めたままイナナにふわりと微笑んだ。


「イナナ、やはり兄弟は仲良しが一番ね。フィンも嬉しそう」

「お姉様、私も泊まります!! 夫達はお母様に任せてあるので問題ありません」

「わかったわ。あの子達も喜ぶわ」


手を繋いだ二人の兄妹が顔を出した。


「イナナちゃん?叔父様もいる」

「叔父上、泊まるならお話を!!魔法の国の」

「二人ともご挨拶を」

「お姉様、無礼講ですわ」

「なんで僕の呼び方変わってるの!?」

「イナナちゃん、お泊まり?」

「ええ。新しいお話があるから一緒に寝ましょう」


イナナは第三王子に得意気な顔を向ける。

カローナに似た姪の取り合いはイナナのほうが上手だった。翌日にはイナナの夫達が訪問してさらに賑やかになる。

前マグナ公爵夫妻はいつになっても仲が良く幸せそうな娘達のために未だに現役を退けない。それでも幸せだったが、イナナが伯爵家に出掛けると迎えに行くまで帰らないので、義息子には申し訳なく思っていた。


「母上、やはり帰ってきませんね」

「明日は私達も行こうか」

「兄上に勝てるかな。伯父上はまだまだ届かない」

「剣もいいけど、他にも覚えないと。まだまだ勝たないといけない敵は多いから」

「父上、偶然こんなものを手に入れましたよ」

「さすがお二人の御子だ」

「僕が国で一番貴い血を継いでいる話はもういいよ。父上は伯父上達が好きすぎるよ」

「フィリップ様もカローナ様も素晴らしい」


少年は養親ほど両親に心酔していない。伯爵夫婦にかかわると、養親がおかしくなるのはわかっているので、その分自分がしっかりしないといけないことに気づいていた。

前マグナ公爵夫妻は少し変わったイナナ夫婦のもとですくすくと育つ孫を温かく見守り孫を見ると、マグナ公爵家の未来は明るいと思えた。


荒れていた伯爵領は見違えるように栄え、領民の笑顔が溢れる場所になった。

寂れていた伯爵邸はいつのまにか賑やかになりいつも明るい声が響いていた。



本の数だけ世界があった。

新たな世界に魂を落とされた第一王子に罪はなかった。

第一王子は過去の記憶を持ったまま新たな世界に目覚め、ずっと過去の夢の世界に囚われていた。

金髪の美女は妹弟子の悪戯で過去に捕らわれた王子に一つだけ贈り物をした。

罪の記憶から逃れることを望まなければ、王子の知りたい過去の世界の優しい記憶を。

夢から醒めた王子の生き方は本人次第。

妹弟子の兄である少年の言葉に前を向き、進むことを選んだ王子に美女は笑みを浮かべた。

最後まで読み進めて明るい結末に美女は笑みを深める。

妹弟子の気まぐれの善行もとい悪戯が成功したのは初めてだった。

美女は王族を良く知り、めでたしめでたしの幸せな物語を紡ぐのは中々難儀な物だった。

久しぶりの王族の明るい物語を読み終えた美女のいい気分は読みかけの分厚い本に視線を戻すと一気に落ち込む。

人はたくさんの学びを通して生きていく。最後の結末はその人次第。

全く反省や学びを覚えない妹弟子に何度目かわからないため息を溢す。

それでも、美女好みの物語は妹弟子のおかげだったので、新しい魔法を一つ教えることにした。


****


「お嬢様、現実を見てください。夢ではありません」

「ポプラ、だって、今まで私がずっと」

「旦那様が幸せそうですよ。旦那様を幸せにするって夢が叶いましたよ」

「破壊力が。私の太陽の曇りが晴れたのは嬉しい。でも輝きが激しくて、もう溶ける。可愛かったフィンが恋しい……。」

「そろそろお食事を」


カローナは真っ赤な顔でシーツを頭から被っていた。つい先ほどまで夫の甘い熱に溶かされていた。

夢から醒め、豹変した夫にカローナは順応できなかった。

今までも第一王子はカローナがいない場所では惚気ていた。そのため第一王子の変化に臣下はそこまで驚いていない。第一王子はカローナに伝えることが怖かっただけである。そして女心はわからなくても口説き方や甘い言葉や傷つけない方法はたくさんの愛妻家達から教わっていた。

カローナはゆっくり休んでいいという夫の言葉に甘えていた。

ポプラは第一王子が仕事が一段落すれば会いにくるのを知っていた。つい最近まではカローナが付き纏い、時に押し倒していたが立場が逆転しただけである。

ポプラは状況的には今が正しいのを知っている。

カローナが主導権を取り返したいと呟いても、もともとカローナに主導権はなかった。カローナの願いを叶えているのは第一王子である。ポプラには主が踊らされているようにしか見えなかった。

夫を掌で転がしていると思い込んでいる主がいつ夢の世界から帰ってきて現実に気付くのだろうと食事もとらずにシーツにまるまっている光景を眺めていた。

しっかりしているようで外面がいいだけの実は夢見心地な主はいつも幸せそうである。

カローナが慣れるか第一王子が自重を覚えるかは二人次第である。

カローナの夢が叶った世界はまだまだ続いていく。ただそれを現実として受け入れられるかは本人次第である。カローナは夫が離れても全く落ち着かない激しい鼓動を刻む左胸に手を当てながら、ふと夫とのやり取りを思い出しさらに悪化していた。


「私は夢を見てるのかな。そうよね。うん。だって」

「ロナ、」

「!?」


ポプラは二人の邪魔をしないように、主の食事は適任者に任せて一礼して退室した。主は今日も甘美な夢の世界から抜け出せないだろうと。

夢でも現実でも大切なお嬢様が幸せならいいかと無情にもポプラは主を見捨てた。

ポプラはカローナが小さい頃に諦めたたくさんの夢を知っている。今の目の前の世界はカローナの夢が全て叶っている。たった一人の愛する人と一緒に幸せになること。大事な家族といつでも会えること。のんびりすること。

ポプラは思考を切り替えて、カローナにとって幸せがつまった夢の世界が続くようにこれからも仕えることにした。

カローナにとって幸せな夢は続いていく。第一王子にとっては幸せな現実が。

現実主義で臆病な少年と夢見心地で大胆な少女は正反対である。だからこそお互いに補い合って生きていく。

幼い頃に全ての夢を諦め心を凍らせた少女。周囲に翻弄され罪を犯し罪悪感に苦しみ続けた少年。

絡みすぎて切れてしまうはずだった糸が解けたのは一人の少女の気まぐれだった。その気まぐれを生かしたのは、苦しみながらも必死に足掻いた少年と隣に寄り添った少女の二人の努力の成果である。

成長した少年は息子に大事な人を大事にするにはきちんと話し合うことを教えた。

成長した少女は娘に大事な人の手は何があっても離さないことと王子様を待つのではなく追いかけることを教えた。


高慢な王子様の正体は不器用で意地っ張りな少年だった。少年は現実を知り憶病になり弱さを見せることを覚えた。

慈愛に満ちた聖女のような高慢な王子の婚約者は現実から目を逸らし心を亡くした人形になりたいと願う少女だった。現実を見て、自分の足で立つことを選んだ少女は心を殺すのではなく伝えることを覚えた。また檻の中で飼育されてもいずれ、食肉とされ潔い死をむかえる豚の生き様に憧れた少女は、檻を抜け出し生きる希望を見つけ死ではなく甘美な夢に憧れを抱くことを覚えた。

二人が共通で覚えたことは大事なものの手を離さないことだった。二人にとって幸せな夢のような世界が続くかは二人次第である。

それでもめでたしめでたしと物語の最初の読者の金髪の美女は呟いて本を閉じて書棚に閉まった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


夢の世界は二重の意味がありました。

第一王子が捕らわれていた罪悪感を持つ昔の記憶が夢の世界です。

第一王子が過去と向き合い、自分の中で昇華し、現実世界に目を向けられれば夢から醒めたことになります。

反省して誰も被害者のいない新たな世界でやり直し幸せになってもいいかなと。

この世界で3年間、カローナを苦しめ傷つけてることがあっても、癒したのは第一王子ですから。

過去と向き合い、現実の大事なものに気付いて、ようやくやり直しではなく新たな人生の一歩が始まりました。



全てを諦めたカローナにとって、第一王子が与えてくれた世界は夢のような世界でした。

心のリハビリが終わって、第一王子を好きになってから幸せの象徴は太陽である第一王子です。

カローナにとって恐怖の後宮から連れ出し王宮で守ってくれたのは第一王子と気付いています。

カローナにとっては現実は怖く冷たい世界です。でも第一王子がいれば幸せな夢の世界に変わります。イナナ達も大事ですが第一王子は別格です。このカローナは実は第一王子に依存気味です。

カローナは何度か離れようとする第一王子を引きとめています。カローナにとっては第一王子のいる世界が醒めたくない夢の世界です。


第一王子が夢から醒めたくないと、幸せに怯えている姿に笑顔で押し倒し、言葉攻めしてました。初夜も成人するまでと躊躇う夫をカローナが押し倒しました(笑)

そして第一王子が常に傍にいたため、口説かれなれてません。甘い言葉に免疫のない、押されることになれないカローナは、第一王子の豹変に嬉しさよりも羞恥に震えています。自分から口づけるのは平気でも、口づけられるのは余裕のフリをしてごまかしてます。


最後までお付き合いいただきありがとうございます。

たくさんの方に読んでいただきあたたかい言葉をいただき嬉しかったです。

拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

エピローグが長くなりましたがお付き合いくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第一王子が自分の望む幸せを得るこの物語がifでも夢でもなく現実だった事が凄く嬉しかったです…。 恋に不器用で人を疑う事を知らなかったばかりに本編では周囲の思惑に気付かず翻弄され続けたフィンの…
[良い点] 良かった、本当に良かった!第一王子がとても不憫だったので、幸せになれて、とても満足です
[良い点] 個人的に、最初の終わり方がちょっとモヤっとしてしまったので、第一王子が人生をやり直すことができて良かったなと思いました。 自分に都合よく話が展開していく分、これ夢かもしれないと悩む第一王子…
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