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お品書き(短編集)  作者: 桐生真琴
9/13

9.殺人未遂

生理的自己殺欲求の話。

私は、不定期的に、自分の首を絞めたくなる。

それは発作みたいな、あるいは天気予報が外れて雨が降ったような、そんな感覚で。

別に自分が、自殺願望を抱えて生きているわけではない。

ただ、トイレに立った時や、映画のクレジットを見てる時や、階段を登っている時や、電車に乗っている時。偶発的に、頭の中で首を絞めたくなる。

本当に死ぬほど絞めたいわけじゃない。手をかけて、少し力を入れたいだけ。咳をするほどじゃない。愛しい誰かの手を握る感覚に近い。そんな力具合で。

でも、その行為はいつだって頭の中だけだ。本当に自分の手が首を絞めたことはない。

誰だってふと涙を流すことがあるわけだし。そこに感情は無くても、気がついたら泣いているなんてことあるわけだし。

気がついたら怒ってるとか。気がついたら笑っているとか。気がついたら鼻歌歌ってるとか。気がついたら人にぶつかってたとか。本当に、そんな感じで、気がついたら頭の中でその衝動に駆られる。

頭の中の自分は、ゆっくり首に手をかけて。触れたら終わりの時もあるし、少しだけ力を込める時もある。

その衝動に駆られる時は、いろんな場所だが、心的要因は分かっている。誰かに怒られた時、なんて簡単だけれど、簡単に言うと自分がどうしようもなく不甲斐なくて、ここから居なくなればいいのにだなんて考えついた時だ。

それは時と場所を選ばない。いつだって誰だってセンチメンタルになる時はあるはずだ。そこに私は加えて、そんな生理的欲求が頭の中で繰り返されるだけだ。

この感覚も頭で繰り返される映像も、もう慣れてしまったけど、最初はひどく怖かった。初めては、夢にそんな自分を見た。

ベッドの上で首を絞めている。その夢の自分は、自分に対して明確な殺意があった。

現実の私はどこにも逃げ場がなくて。上も下も右も左も、どこを見ても怒った顔をした誰かがいた。だから逃げ場がなかった。どこに行っても結果は同じだ。ただただ息をしていた。

本当はどうしたらここから逃げられるのか、その術を知っていたが、見落としていたのか、見ないふりをしていたのか。本当は簡単だった。その怒った顔と戦いを挑めばよかった。勝ってもいい、負けてもいい。戦うことに意味があったのに、負けるかもしれないと思って、戦うことを選択肢から外した。だから、逃げ場が無いと思ったんだ。

そんな自分に自分が嫌気をさして、見せた夢が明確な殺意だった。

起きた時は涙が止まらなくて、でもそこに悲しいとか苦しいとかの感情は何も生まれなかった。気がついたら、泣いていた。

ようやくそこで初めて、気がついたら怒った顔と戦っていた。でもその戦い方は、「負けますから戦ってください」という言葉に近かった。泣いたことと首を絞める夢を見たことを告げると、怒った顔は気がついたら笑っていた。そうして私は不戦勝した。上でも下でも右でも左でもない、前方に逃げ道の扉が開いた。

私は勝ったことが信じられなくて、気がついたら鼻歌を歌っていて。嬉しかったんだろう。でも嬉しいという感情は、今まで見えていなかったものをより見えなくするものだから。

前にいた人間に気がつかず、気がついたらぶつかった。そして転んで。浮かれていた自分に嫌気がさして。頭の中には、夢で見た似たような映像が流れた。だけど自分に殺意を向けてはいない、そんな生理的欲求が見せた映像だった。

きっとこの生理的欲求は、相反しているものだ。自分が死なないように、自分に殺意を向けないように、適度に頭の中で、いわば殺人未遂を繰り返す。


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