4.樹海
2009年に作った作品。
不思議な話。
これから わたくしは 死のう と おもいます。
りゆう なんて かんたん、せかいに 絶望 したのです。
ほら、見てみて ください。まぬけ な そら から は お てんき 雨。まぶしい ひかり が きぎ の あいだ から わたくし を てらし、馬鹿に するのです。
「あう……」
たくさんの きぎ に 埋もれてみると、むし でさえ どうでも よく なってしまいます。とおくで とり が 鳴いています。わたくし には どうしても、泣いている ように きこえます。
「あつく ないんだね、さむくも ないんだ」
わたくしが つぶやいても、誰も こたえて くれません。それは そうでしょう、まわり には わたくし と おんなじ かんがえ を もっていた 死体が ごろついて います。
きぎ が 戦ぎ、わたくし の かみ を なでます。つめたく も あたたかく もない、ただ悲しい かぜ でした。
死体の まわり には 遺留品 と いう の でしょうか、それが たくさん ありました。くすり だ とか ようふく だ とか くつ だ とか が 散乱 して います。
わたくし も くつと、それから くつした を 脱いで みました。いやに つめたい つち が わたくし の あし に わざわざ 纏り つきます。しめった つち には この あかるい 雨と、それから 死体 たちの 涙が ふくまれている よう でした。はやく わたくし も 死ぬ ように、殺す ように 纏り つきました。
ええ、それで 良い の です。わたくしは 死にたくて ここに きた の です。せかい と わたくしに 絶望 した の です。
わたくしは なんて うん に 見放された こども なんでしょう と むかし から おもって いましたし、まわり から いわれて いました。はは と ちち は わたくし が おさない とき に 行方不明 に なりました。ひきとられた 先の おばは とても 意地悪な ひと でした。まわり の ひとたち は そんな わたくしを 哀しみの め で 見た の です。その め を 見た とき、わたくし は いつからか 死のう と 決意して いたの です。
可哀相 な こ です、わたくしは。神に 見放された の です。
生まれた いみ など わかりません。問いかけた ことも ありません。別に わたくし には どうでも よい こと でした。生きる も 死ぬ も 一緒だ と おもい ました。結局 この とし まで りょうしん は 見つからなかった の です。生きる いみ など ないと おもいました。
もう 疲れた の です。もう 嫌気が さした の です。
「もっとふればいいのにー」
雨は 止む けはい でした。止んで しまったら つまりません。たいおん を 奪うほどに ふって くれなくては、わたくしは 死ねません。
ぺたぺた、つち が はねる 音が しました。わたくしは いつのまにか 歩いていた ようです。後ろを ふりかえる と、あそこに くつ が ありました。けっこう 歩いていた ようです。わたくしの あしを 見てみると、つち で 汚く よごれて いました。ついでに じぶんの はいってきた みち を 見て みると、もう それは どこかに 消えて いました。
すると ぜんぽう で、かさり と 小さな 音が しました。
なんだろう と 見て みると、ふたつの 影が うごきました。
「……だぁれ?」
き の 影 を 覗く と、おとこ の ひと と おんな の ひと が わたくし の まえ に たちました。
「おまえは知らないよ」
「しってないでしょ、たにんだもん」
「他人ではないよ」
「なにいってるの?」
わらう と わたくしが 嘲笑れ ました。どういう こと か、わたくし には 全然 わかりません でした。
「むかつくー。たにんだよ、わたくししらないもん」
「おまえが知らなくても、わたしたちは知ってるの」
「見ていたからね」
ますます いみ が わからなく なりました。
わたくし は はなす のが 面倒に なったので とおり すぎようと しました。すると 手首 に つめたい なにか が 纏り つきました。
「待っておくれ」
「……あなたのて?」
とても つめたかった ので わたくしは 氷かと おもいました。ですが わたくし の 手首に ついていた のは おんな の ひと の て でした。
「おまえは死にたいのかい?」
おとこ の ひと が わたくし の め を 真直ぐ 見て いい ました。
わたくし は ただ ひとつ 頷き ました。
「そうだよ。だから?」
「死んでは駄目よ」
おんな の ひと は、なぜか 悲しそうに いい ました。わたくしは むっと ほお を 膨らませ ました。なぜだか 苛々 した の です。
「なんで! あなたたちだってしんでるじゃない……」
じぶん で いって みて、気が つきました。そうです、この て の 感じ、かお の 感じ。
この ひと たち は きっと、わたくし よりも もっと まえ に 死のう と おもい 死んだ ひと たち なのです。きっと。
「何を。縁起でもないこと言わないで」
「しんでる! そのて、かお! しんでるのでしょう」
「死んでいない。馬鹿だなおまえは」
そうして その ひとたちは わたくしの まえ を 行きました。たかたか すばやく 歩く の です。それは まるで 死に 逝く よう でした。
「なんなの! じゃあなんであなたたちはここにいるの。どちらにしろ、あなたたちは死にたいのでしょう!」
「馬鹿なこと言わないで!」
はしって 追い かけますが、その ひと たちは とても あし が はやい ようで、なかなか わたくしは 追いつけ ませんでした。
わたくし の ことば の あと、いった おんな の ひと の こえ が とても 怖かった の ですが、なぜだか わたくしは この ひとたちを たちどまる こと なく 追いかけました。
ぺたぺた、つち が はねる 音が この 樹海 の なかに ひびきました。
「おまえの名前はこういうんだろう」
とつぜん とまった おとこ の ひと は、ただ 一言 いいました。
それは きき おぼえの ある、おばが ひすてりっくに 叫ぶ、わたくし の なまえ でした。見知らぬ この ひとたち がな ぜ わたくしの なまえを 知って いる の でしょうか、わたくしは たち どまり ました。
「どうしてしっているの」
すると おんな の ひとが、こんど は 優しく わらいました。
「もう分かっているのでしょう」
また つめたい て で わたくしの 手首を 掴みました。そして そのまま、とおくに なげ 飛ばすような ちから で わたくし の からだを そとに 飛ばしたのです。わたくし は おもわず なに と 知れぬ なにか の 上に しりもちを つきました。
「おまえの名前は大切です。そしておまえの命も大切です」
「おまえが死んでしまっては、意味が無いのです」
いみ とは なんなのでしょう。そもそも わたくし の 命に いみ など ないのです。
かおを あげると 其処には きぎ だけが ありました。さっきの ふたり の すがた など、影も 形も なくなって いました。
「あれ……」
車のクラクションの音がしました。危ないと身を捩ると、運転手は去り際私に暴言を吐いて行きました。ですがそれは何を言われたのか分かりませんでした。
座っていたのがコンクリートだと気付いた時には、いつの間にかお天気雨が上がっていました。
私は樹海の外にいたのです。私は死ねなかったのです。
自分の足には泥が沢山ついていました。汚く汚れていました。
そして私は、やはり分かっていたのでした。
還る所は土では無く、帰る所は叔母の家では無く、返る所はただ一つだったのです。私は酷い事に忘れていたのです。
母と父のお墓に、涙を返しに行く事だったのです。決して、逝く事では無くて。
母と父は私の命を守るために命を捧げたのです。私は馬鹿な娘でした。
可哀相だったのは、私の心だったのです。生きる意味に気付けず、死ぬ事ばかりを見ていた、私の心だったのです。
これから私は生きようと思います。
理由なんて簡単、母と父が命を懸けて守ってくれたからです。
ほら、見てみてください。綺麗な空からは太陽光。眩しい光が雲に覆われる事無く私を照らし、応援したのです。
どんどん漢字になっていきます。
これは、主人公がどんどん心を取り戻していく様を表しています。
最初は暗いイメージや簡単な漢字しか出てきません。
これも心を失っているが故です。