表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お品書き(短編集)  作者: 桐生真琴
4/13

4.樹海

2009年に作った作品。

不思議な話。


これから わたくしは 死のう と おもいます。

りゆう なんて かんたん、せかいに 絶望 したのです。

ほら、見てみて ください。まぬけ な そら から は お てんき 雨。まぶしい ひかり が きぎ の あいだ から わたくし を てらし、馬鹿に するのです。

「あう……」

たくさんの きぎ に 埋もれてみると、むし でさえ どうでも よく なってしまいます。とおくで とり が 鳴いています。わたくし には どうしても、泣いている ように きこえます。

「あつく ないんだね、さむくも ないんだ」

わたくしが つぶやいても、誰も こたえて くれません。それは そうでしょう、まわり には わたくし と おんなじ かんがえ を もっていた 死体が ごろついて います。

きぎ が 戦ぎ、わたくし の かみ を なでます。つめたく も あたたかく もない、ただ悲しい かぜ でした。

死体の まわり には 遺留品 と いう の でしょうか、それが たくさん ありました。くすり だ とか ようふく だ とか くつ だ とか が 散乱 して います。

わたくし も くつと、それから くつした を 脱いで みました。いやに つめたい つち が わたくし の あし に わざわざ 纏り つきます。しめった つち には この あかるい 雨と、それから 死体 たちの 涙が ふくまれている よう でした。はやく わたくし も 死ぬ ように、殺す ように 纏り つきました。

ええ、それで 良い の です。わたくしは 死にたくて ここに きた の です。せかい と わたくしに 絶望 した の です。

わたくしは なんて うん に 見放された こども なんでしょう と むかし から おもって いましたし、まわり から いわれて いました。はは と ちち は わたくし が   おさない とき に 行方不明 に なりました。ひきとられた 先の おばは とても 意地悪な ひと でした。まわり の ひとたち は そんな わたくしを 哀しみの め で 見た の です。その め を 見た とき、わたくし は いつからか 死のう と 決意して いたの です。

可哀相 な こ です、わたくしは。神に 見放された の です。

生まれた いみ など わかりません。問いかけた ことも ありません。別に わたくし には どうでも よい こと でした。生きる も 死ぬ も 一緒だ と おもい ました。結局 この とし まで りょうしん は 見つからなかった の です。生きる いみ など ないと おもいました。

もう 疲れた の です。もう 嫌気が さした の です。

「もっとふればいいのにー」

雨は 止む けはい でした。止んで しまったら つまりません。たいおん を 奪うほどに ふって くれなくては、わたくしは 死ねません。

ぺたぺた、つち が はねる 音が しました。わたくしは いつのまにか 歩いていた ようです。後ろを ふりかえる と、あそこに くつ が ありました。けっこう 歩いていた ようです。わたくしの あしを 見てみると、つち で 汚く よごれて いました。ついでに じぶんの はいってきた みち を 見て みると、もう それは どこかに 消えて いました。

すると ぜんぽう で、かさり と 小さな 音が しました。

なんだろう と 見て みると、ふたつの 影が うごきました。

「……だぁれ?」

き の 影 を 覗く と、おとこ の ひと と おんな の ひと が わたくし の まえ に たちました。

「おまえは知らないよ」

「しってないでしょ、たにんだもん」

「他人ではないよ」

「なにいってるの?」

わらう と わたくしが 嘲笑れ ました。どういう こと か、わたくし には 全然 わかりません でした。

「むかつくー。たにんだよ、わたくししらないもん」

「おまえが知らなくても、わたしたちは知ってるの」

「見ていたからね」

ますます いみ が わからなく なりました。

わたくし は はなす のが 面倒に なったので とおり すぎようと しました。すると 手首 に つめたい なにか が 纏り つきました。

「待っておくれ」

「……あなたのて?」

とても つめたかった ので わたくしは 氷かと おもいました。ですが わたくし の 手首に ついていた のは おんな の ひと の て でした。

「おまえは死にたいのかい?」

おとこ の ひと が わたくし の め を 真直ぐ 見て いい ました。

わたくし は ただ ひとつ 頷き ました。

「そうだよ。だから?」

「死んでは駄目よ」

おんな の ひと は、なぜか 悲しそうに いい ました。わたくしは むっと ほお を 膨らませ ました。なぜだか 苛々 した の です。

「なんで! あなたたちだってしんでるじゃない……」

じぶん で いって みて、気が つきました。そうです、この て の 感じ、かお の 感じ。

この ひと たち は きっと、わたくし よりも もっと まえ に 死のう と おもい 死んだ ひと たち なのです。きっと。

「何を。縁起でもないこと言わないで」

「しんでる! そのて、かお! しんでるのでしょう」

「死んでいない。馬鹿だなおまえは」

そうして その ひとたちは わたくしの まえ を 行きました。たかたか すばやく 歩く の です。それは まるで 死に 逝く よう でした。

「なんなの! じゃあなんであなたたちはここにいるの。どちらにしろ、あなたたちは死にたいのでしょう!」

「馬鹿なこと言わないで!」

はしって 追い かけますが、その ひと たちは とても あし が はやい ようで、なかなか わたくしは 追いつけ ませんでした。

わたくし の ことば の あと、いった おんな の ひと の こえ が とても 怖かった の ですが、なぜだか わたくしは この ひとたちを たちどまる こと なく 追いかけました。

ぺたぺた、つち が はねる 音が この 樹海 の なかに ひびきました。

「おまえの名前はこういうんだろう」

とつぜん とまった おとこ の ひと は、ただ 一言 いいました。

それは きき おぼえの ある、おばが ひすてりっくに 叫ぶ、わたくし の なまえ でした。見知らぬ この ひとたち がな ぜ わたくしの なまえを 知って いる の でしょうか、わたくしは たち どまり ました。

「どうしてしっているの」

すると おんな の ひとが、こんど は 優しく わらいました。

「もう分かっているのでしょう」

また つめたい て で わたくしの 手首を 掴みました。そして そのまま、とおくに なげ 飛ばすような ちから で わたくし の からだを そとに 飛ばしたのです。わたくし は おもわず なに と 知れぬ なにか の 上に しりもちを つきました。

「おまえの名前は大切です。そしておまえの命も大切です」

「おまえが死んでしまっては、意味が無いのです」

いみ とは なんなのでしょう。そもそも わたくし の 命に いみ など ないのです。

かおを あげると 其処には きぎ だけが ありました。さっきの ふたり の すがた など、影も 形も なくなって いました。

「あれ……」

車のクラクションの音がしました。危ないと身を捩ると、運転手は去り際私に暴言を吐いて行きました。ですがそれは何を言われたのか分かりませんでした。

座っていたのがコンクリートだと気付いた時には、いつの間にかお天気雨が上がっていました。

私は樹海の外にいたのです。私は死ねなかったのです。

自分の足には泥が沢山ついていました。汚く汚れていました。

そして私は、やはり分かっていたのでした。

還る所は土では無く、帰る所は叔母の家では無く、返る所はただ一つだったのです。私は酷い事に忘れていたのです。

母と父のお墓に、涙を返しに行く事だったのです。決して、逝く事では無くて。

母と父は私の命を守るために命を捧げたのです。私は馬鹿な娘でした。

可哀相だったのは、私の心だったのです。生きる意味に気付けず、死ぬ事ばかりを見ていた、私の心だったのです。

これから私は生きようと思います。

理由なんて簡単、母と父が命を懸けて守ってくれたからです。

ほら、見てみてください。綺麗な空からは太陽光。眩しい光が雲に覆われる事無く私を照らし、応援したのです。


どんどん漢字になっていきます。

これは、主人公がどんどん心を取り戻していく様を表しています。

最初は暗いイメージや簡単な漢字しか出てきません。

これも心を失っているが故です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ