表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お品書き(短編集)  作者: 桐生真琴
2/13

2.「ねえ」

ひとりごと。

「ねえ」


ふと目が覚めた。ねえ、そう呼びかけた宛は誰だっただろう。静かな空間の中で俺一人。誰を呼んだかなんて分かっていた。


空虚をつかむようなことだ。

つまり、ありえはしないということ。

世界が逆さまになったとして、何かが変わるわけない。むしろ何も生まれない何かは、変わってはいけない。

偏見だとか平等だとか、そういうことを言っているんじゃない。

生み出さないものに価値はないのだと、みんなが理解してそう言っているだけだ。


だからどうして俺は、そんな無価値な感情を抱いているんだろう。

人間は、何かを生みだすように、根本のDNAにねじ込まれている。カスタマイズされている。だから男は女を好きになり、女は男を好きになるんだ。ほら、分かっている。


起き上がって蛇口をひねる。

冷たい水を出す。

顔に思いっきりかけると、夢が覚めた。

夢だった。夢だった。そう言ってくれれば、いいのに。この感情も何もかも夢にしてくれ。


「ねえ」


呟いた。掠れた声はあまりにも醜い。

ああ、なんて醜くて見にくくて、可哀想だろう。

こんな自分は、価値なんてあるのだろうか。


何も生まない人間に、価値なんて?


音がけたたましく鳴る。

夜中の静かな部屋を切り裂いた。

携帯をとって俺は、喉から変な音を出す。

その音は、これは夢ではないと言っていた。


ああ、今一番見たくなくて

夢の中で呼び止めたかった名前が、光っていた。


「ねえ」


電話越しの声は、どうして震えているのか。

先を知りたい唇が震える。


そこに生産性は無くても。

俺に向けられた声で無くても。

誰かにすがりたかっただけだとしても。

それがたまたま俺だったとしても。


何も生みだせない感情は、冷たく静かなこの部屋の片隅で、空虚を掴める時を、待っている。


「ねえ」


その言葉の後を。

今すぐ教えて。                                     


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ