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お品書き(短編集)  作者: 桐生真琴
12/13

12.白衣の下の貴方

白衣は女子高生を惑わせるという話。(?)

先生。先生。

私は貴方の事が好きなんです。

全く伝わっていないのか、それとも、貴方は私の気持ちを分かっていて、分かっていないフリをしているのかもしれない。

読めない貴方。だから好き。

周りの女の子はバスケ部のエースが好き。サッカー部のエースが好き。陸上部で一番早いあの子が好き。

あとは、美術部の賞もらった子。インテリで良いね、なんてみんな言うけど、あの子はダメよ。男の子が好きなんだもん。

でもみんな女の子は、一番近くて手に届く男の子が良いみたい。

私は。

そう簡単に手に入らない。

そもそも、先生と生徒だもん。青春でキラキラ輝いている十八歳の女の子。二十八歳の先生からしたら、犯罪だなんて騒がれるかも。

「先生?」

科学準備室で涼しい風を浴びていた私が呼んでも先生は答えずに資料を読んでいる。これで私の気持ちに気がついてないならおかしいよね。最近私、よくここに来るもん。

少し離れたもう一つの机に肘をついて、先生を観察する。黒い髪の毛は短髪で軽くパーマがかかってる。もしかしたら天然なのかも。着ている白衣が少し汚れているけれど、髪との対比で綺麗な白に見える。黒縁のメガネをかけて、その奥の目のまつげは長い。目も二重で大きい。鼻はすらっとして、顎もシャープ。なんでこんなにかっこいいのに、女子たちは気がつかないんだろう。メガネのせい? それとも私に何かフィルターでもかかってるんだろうか。

肘に重力をかけすぎて、半袖だった私の肌は変な音を立てて机の上を滑る。机の上の埃が舞って、顔をしかめた。準備室なので、あまり綺麗に掃除はされていない。

「先生」

立ち上がって。先生の座っている椅子の前の、教台のような黒い机の前に立つ。先生はメガネの隅から視線を寄越したかと思えば、すぐに資料に目を戻した。

なので、私はその資料を取り上げた。

「おい」

嫌そうな顔をして、ため息をつく。その目は私を睨みがちだ。面倒臭そう。でしょうね。先生は手を伸ばして、私の手首を掴む。驚くほど熱かった手のひらに驚いて、資料を手放してしまった。止まっていなかった数十枚の資料は、私と先生の間に散らばっていく。

心臓が早くなっていく。手を思い切り振り払うと、先生に悟られたくなくて、まるでこれまでが計画だったように、笑ってみせた。

「先生。私を見てよ」

「……大人をからかうな」

「からかってないよ。わかるでしょ?」

ゆっくり先生の前に回り込む。先生は逃げもせず、私がさっきまでいた場所を見つめている。一向に私を見てくれない。

「こっち見てよ」

座っている先生の膝に跨って、先生の肩を掴んだ。

「どけ」

「つめたーい。今この状況見られたら、先生の立場が危ういのに」

これは完全に脅し。自分でもわかっている。

でもこうでもしなきゃ、オトナな駆け引きをさせてくれない。そうでしょ?

ゆっくり先生は私の顔を見る。近づいた顔が、私の唇あたりを見ていて、背筋を何かが這う。心臓の音が耳の奥で鳴っている。うるさい。バレちゃうから。黙って。高校三年生の悪あがきだって。もう、バレてるかもしれないけど。それでも。

「先生、ちゃんと見て」

自分の首元に巻きついていた蝶ネクタイを外そうとすれば、また右手を掴まれた。下にある先生の目が、上目がちに私を睨んだ。

「本当にやめろ」

「先生、私は」

もう子供じゃない、そう言おうとして唇を噤んだ。言ったところで、先生には何の意味もない。ゆっくりゆっくり考えて、思いついた言葉はそれでも子供じみていて、唇が震えた。

先生の白衣の襟を掴むと、ぎゅっと握る。顔を近づけると、いつも嗅ぐ先生の匂いが色濃くなって、少し目眩がした。

「こういうので、ちゃんとできちゃうよ」

「……何がだよ」

「それ言わせたらセクハラだね」

にっこり笑ってやると、先生はため息を吐く。でもそのため息の色が違って聞こえて、心臓が跳ねた。

確かめるように、するりと先生の首筋に手をかける。先生の瞳がゆっくり私を睨んだ。

その瞳の世界には、私しか居なくて。

手を払われるかもしれない。体を押されて剥がされるかもしれない。でも、もしかしたら、なんて期待させられる。先生はずるい。

だからそんな先生の手のひらで転がっていないフリをするために、私はせめてにやりと嫌味な笑みを作ってみせた。


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